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狼と月

作者: 柊 終

ここはとある研究施設の最上階

見晴らしはいいが、入ったら出られない鳥籠のような場所

そんな場所に彼女はいた

(しろがね)色のフルートを携え、すっかり寝静まった町を見下ろしながら

ふいに彼女はフルートの歌口に唇をあて、吹き始めた

それは聞いたことがないのに懐かしくなる

そんな曲だった

彼女が音を震わせれば、雲はその音のために道を作り

彼女が体を揺らせば、車のテールランプも一緒に動く

まるで町全体が彼女の虜になったかのようだった

そんな彼女の演奏はもう終わりに差し掛かっていた

その時だった

「綺麗な音だね」

聞こえるはずのない声が聞こえたのは

「えっ?あっ!きゃあ!?フルート!?」

おかげでフルートを落としそうになった

幸い、フルートには傷やへこみは見つからなかった

「ごめんごめん、おどかすつもりはなかったんだけど…」

と、申し訳なさそうに言う彼

よくよく見てみると私と同じくらいの歳の青年だった

「なかったならいいです。質問ですが、あなたどうやってここまで登ってきたんですか?」

私がした質問は当然のものと言える

だって地上からここまでは結構な高さがあるからだ

連れてこられた時、10何階か20何階までエレベーターで登った記憶がある

そんな質問に、彼は無言で答えた

「なら、あなたの名前は?」

またもや無言

なら勝手につけてしまおう

「じゃあ狼さん」

「微妙にいい線いってるのやめてくれ」

適当につけた名前は結構いい線いってるらしい

そんなことを思いながら私はこんなことを口にする

「ここに許可なく来たことは不問にします。代わりにたまにここに来て話し相手になってくれませんか?」

それを聞いた狼さんはポカンとした表情になった

「いいのか?俺は勝手にここやお前の部屋に入った不法侵入者だぞ?」

「いいんです。ちょうど何も無くて退屈していたので、話し相手ができるだけでもありがたく感じるんですよ」

そんなことを言うと狼さんは納得したようだった

「りょーかい。そんじゃ、お前の名前は?」

「名前?」

「そ。ないと呼びにくいだろ、お前のこと」

名前か…最近呼ばれないせいですっかり忘れてしまった

なんだったっけと思いながら記憶の中を探していると、ふいに小さな頃の記憶が浮かんできた

『ねぇねぇ、名前のつけ合いっこしようよ!』

『いいよ!じゃあ僕が君のを考えたげる!』

何にしようかな…と考える君

『そうだ!!君の名前は』

「レナ。私の名前はレナです、狼さん」

そう言うと彼は嬉しそうに笑った

「おう、これからよろしくな!レナ!」

「そういえば、なんで演奏中に入ってきたんですか?」

「つい、綺麗だなと思って…」

「なら、終わってからでも良かったんじゃないですか?」

「ウッ…オッシャルトオリデゴザイマス」

そんな一コマがあったのは私達だけの秘密だ

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