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図書室の日課  作者: なぬーく
プロローグ
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プロローグ

 七年ぶりに校門をくぐると、懐かしいという想いよりも早く、自分が中学生に戻ってしまったような錯覚をおこした。

 ああ、そうだ。こんな所だったな。

 スーツ姿の上松和斗(うえまつかずと)は、ポケットに忍ばせてきた手紙に触れた。

 これを解読するには、もうここしか考えられない。

 風が吹き、目の前にある大木が揺れる。

 僕が通っていたみすずが丘中学校には、門の前に大きな桜の樹が植えられている。最後にその樹を見たときは満開の桜だった。だけど今は葉も落ちきっており、次の開花に向けてつぼみがふくらみ始めている。

 奥へ進んでいくと正面に校庭があらわれる。今の時間は部活動中のようで、バットとボールのぶつかる音がグラウンドに響いていた。

 校庭を囲うようにして建っている校舎には、あまり人の気配がない。昔通っていた学校とはいえ、スーツ姿の自分と中学校というちぐはぐさを想像すると、人があまりいないことにすこしほっとする。

 欠けてしまったピースを埋めるように、学校を隅々まで見渡して記憶を思い返していると、校舎の陰に懐かしい人が見えたような気がして、なんだかぼうっとしてしまう。

 頭の中の思い出を無理矢理追い出し、僕は職員玄関へ向かう。すると、校庭から野球部のユニフォームを着た男性教員が歩いてきた。

「お、教育実習の申請か」

 僕が持っていた封筒を見たのか、顧問と見られる先生が声をかけてきた。挨拶をするとその先生は「頑張れよ」と僕の肩を叩いて、校舎の中へ消えていった。

 大学の事務から渡すようにと言われた書類を窓口に提出し、事前に連絡をしていた山本先生と面談をした。

「七年も経つと、ほとんどの先生は異動しちゃうのよね」

 書類の確認をしながら、山本先生は自分が実習生だった頃の話をしてくれた。

「最後の授業が緊張しちゃってね、色々準備はしたのだけど、教壇に立ったら頭の中が真っ白になっちゃって」

 僕は大学で行った自分の模擬授業を思い出して先が思いやられた。早めに対策をしておこう、そう心の中で決めておく。

 山本先生が書類を確認し終わり、今日はこれで解散となった。応接室を出ると、春休みで生徒のいない廊下がなんだかあの日の放課後に似ていて、無性に目が離せなかった。

「少し探検してきたら? あ、探検というより思い出めぐりかしらね」

 にこりと笑う先生に僕は挨拶もそこそこにして、借りたスリッパをパタパタ鳴らしながら、彼女の面影を探して長い廊下に吸いこまれていった。


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