エグイデダンジョンの秘密
孔明が家里と友達になってから一週間が過ぎた頃、ギルドボックスで共有されるギルドネットワークニュースに、とんでもない情報があがっていた。
「始まりの村イコマイは、領主を置き町化される事になった。尚領主には徳川家里が選ばれた」
孔明は少し考えた。
長閑な生活が壊れる気がする。
でも領主は家里だ。
会える機会も増えるかもしれない。
面白くなりそうだ。
そう考えた孔明は、概ね喜ばしいニュースであると判断した。
そのニュースが出回ったその日から、村の様子が騒がしくなった。
町化する為に、まずは村の周りの柵の外に城壁を築いていく。
村は町になるにあたって、三倍くらいに大きくなる。
領主の屋敷は、孔明が占有している土地のすぐ横、山に沿った東側に建てられる事になった。
中心部には商会の建物ができ、万事屋は増改築され冒険者ギルドと飲み屋に替わる。
その隣にアイテムショップを建て、柔ちゃんの親父さんは、ギルドマスターになって両方を仕切る事になった。
それに伴って、別の町で働いていた親父さんの奥さんも、ギルドの受付嬢として働く事になっていて、久しぶりの母親との再会を、柔ちゃんは大喜びしていた。
あまりに慌ただしく変わって行く村だったが、孔明にはまるで関係がなかった。
それよりも気になったのが、エグイデダンジョンにいる『龍の王』が、前よりも強くなっているというニュースだった。
勇者と呼ばれるこの大陸最高の冒険者が、何度かこのダンジョンに挑んでいるらしい。
しかし今回挑んだら、前回よりもはるかに強くなっていて、即行で逃げ帰ってきたというのだ。
そのニュースを見た孔明は、ある可能性を考えていた。
「もしかしたら、前に強くしてやった龍が、更に強くなったのかもしれない。魔石も前の龍より大きなものが手に入るかも」
孔明は確かめる為に、閉店後すぐに山向こうのダンジョンへと向かった。
山を越えた所にある森は、相変わらず強力なモンスターが沢山出たが、ハエをはたくくらいの感覚で孔明は倒しまくった。
倒したモンスターは後で解体する為、ブレスレットの中に収納した。
ダンジョン入口に到着すると、迷わず中へと入っていく。
当然灯りも不要だ。
今度は最初から全てのモンスターが逃げていく。
しかし孔明は追いかけ、ことごとく倒しながらダンジョンを進んだ。
程なくして最下層へと到着した。
そこには依然の龍よりも大きな龍が待っていた。
「いた。前よりも大きい」
この龍がニュースに出ていた『龍の王』なのかどうか、孔明自身は分かっていなかったが勘で感じ取っていた。
今回もアッサリと龍の王はやられていた。
「回収」
倒した龍をブレスレットに回収すると、向こうには再び宝箱があった。
迷わず開けると、そこには以前の半分くらいの宝物が入っていた。
「まだ貯まってなかった」
とりえずあるモノはブレスレットの中へと回収した。
今回も前回同様、伝説の剣っぽいモノを一本だけ残しておいた。
「今度はお前でいいや」
孔明は再び、適当なドラゴンを捕まえて強化し、ラストフロアに放しておいた。
「大きくなれよ!」
そのドラゴンは強くなったはずなのに、少し泣いているように見えた。
まるで某国の大統領のようにも感じた。
さて次の日、何故かこの日は魔法通信の調子が悪かった。
早速ギルドの使者がやってきて、孔明に対応を依頼してきた。
依頼を受けた孔明は、山の上へと向かった。
すると山の上の魔法通信塔が、ドラゴンに攻撃されていた。
攻撃というか、そこにある魔石を取ろうとしているようだった。
「仲間の魔石を取り戻しにきたのかな?」
そう思った孔明は、ドラゴンに話しかける事にした。
仮に此処で倒してしまっても、またドラゴンが此処に来ると感じていたからだ。
「何してるの?」
「げっ!お前は?!」
よく見ると、昨日強くしてやったラストフロアに放置した龍だった。
ドラゴンはガクガクと震えていた。
「何してるの?」
孔明はもう一度聞いた。
するとドラゴンは泣きながら話した。
「ドラゴンはなあ!光物を集める習性があるんだよ!光物が近くにあると落ち着くんだよ!」
孔明はその言葉を聞き、少し考えた。
光物を集める。
あの宝物はそういう事か。
今この魔石を持って行こうとしていた。
近くにあると落ち着く。
孔明はひらめいた。
魔法で岩山の岩を改造し、ドラゴンが入れるような浅い洞窟を、魔法通信塔の周りに沢山作っていった。
「分かった。お前は今日から此処に住め。僕が許可する。光物があると落ち着くんだよね。それでその光物をお前は守ればいい」
「いや、ちょっとそんな勝手な。じゃああのダンジョンはどうするんだ?人間が俺たちに挑みにやってくる。どうしてか分からないけど、あそこは守りたいんだ」
孔明は再び考えた。
ダンジョンは守りたい。
でも自分たちで守る必要はないよね。
では代わりを用意したらどうだろうか。
孔明はまたもひらめいた。
「お前たちドラゴンは、今日からこの山を守る。ダンジョンは、別の強いヤツに守らせる。これで大丈夫」
「そんな事できんのかよ?俺もさ、あんな薄暗いダンジョンより、外を飛び回っていた方が気持ちいいけどさ」
「だったら問題ない。僕に任せて」
孔明は少し笑顔を作ってサムズアップした。
一瞬考えたドラゴンだったが、フッと息を吐いた。
「分かったよ。任せるぜ」
そのドラゴンはそういうと、ドラゴンにしか分からない何かをこの辺り一帯に鳴らした。
するとドラゴンが、ダンジョンから次々と出てきた。
それを見た孔明は、山を飛び降りダンジョンへと向かった。
今回はモンスターは倒さず、とにかく強そうなのを探した。
一番強そうと感じたのは、炎に体を包まれた魔人のようなヤツだった。
孔明はその魔人を軽くぶっ飛ばし、持ち上げて最下層のラストフロアに連れて行った。
そしてパワーアップの魔法をかけた。
「今日からお前がこのダンジョンのボスだ。しっかり守れよ」
人間の言葉が通じているのかどうかは定かではないが、そのモンスターは割とノリノリに見えた。
「じゃあよろしく」
孔明はそう言って、エグイデダンジョンから出ていった。
自宅に戻った孔明は、ギルドボックスを起動して、ギルドネットワークニュースに投稿した。
「『イコマイ町の北にある山の頂上にはドラゴンの巣があり、超危険。近づいたら死ぬでby孔明』っと。これで大丈夫」
投稿を終えた孔明はギルドボックスを閉じた。
それからしばらく経ったある日の事、ギルドネットワークニュースに、再びエグイデダンジョンの事が記事になっていた。
「エグイデダンジョンのボスが、龍の王から、更に強い炎の魔人イフリートに代わっていた。証言者は勇者」
孔明は満面の笑みを浮かべ、今日も魔法道具屋のカウンターに座るのだった。