魔法通信塔設置!孔明ギルド協会特別会員になる
この世界では、一般住民に納税義務はない。
その代わり、国家政府から大きな既得権を貰って市場を独占し、代わりに税を納める団体が二つある。
一つは冒険者ギルド協会、通称『ギルド協会』。
もう一つは商人ギルド協会、通称『商会』であった。
これらの協会が利益の半分を税として納める事で、この世界の国家政府は成り立っている。
税を納めてもらう代わりに既得権を与えるので、この世界には色々な規制が無理に作られる所があった。
例えば商売をする時、多くがどちらかの協会に所属する事になる。
一般的な商売をする場合、加盟登録しないと商売ができないという規制があるからだ。
ただ、商売全てが規制されるわけではない。
自分で作ったものを自分の店で売る職人系商売は基本無許可でオッケーだ。
孔明のように魔法道具を作成し売る分には問題はない。
しかし商品を仕入れ、それに値段をプラスして店で売るだけの商売は、協会に加盟しなければならない。
ちょっと手を加えるだけのモノも駄目だ。
ぬいぐるみを仕入れ、それに鈴をつけて売るとか、誰でもできるものは職人技能が不要なので、協会への加盟登録が必要になる。
他にも規制は多々ある。
住まい以外に店舗を持つ場合や、国境を越えて商品を移動するのにも協会への登録が必要になる。
その代わり、協会への登録にはちゃんとメリットもあって、それぞれが運用するギルドネットワークの活用が無料でできるようになる。
ギルドボックスというパソコンのようなものを魔力で繋ぎ、インターネットのようなネットワークを大陸全土に構築していて、それを使えるようになるのだ。
ギルド内で共有している情報も見る事ができ、それは商売に生かせるものも多い。
協会に加盟したら、売り上げの一割を協会へ支払う事になる。
消費税十パーセントを国家政府の代わりに協会が集めているようなイメージだ。
何にしてもこのようなシステムのおかげで、職人などモノを生み出す仕事をしている人にとっては、割と優遇された制度だと言えよう。
ちなみにギルド協会と商会の違いは、扱う商品の違いである。
ギルド協会は冒険者に関係する物を扱い、商会はそれ以外という事になっていた。
この日孔明の所に冒険者ギルド協会の者が訪ねてきていた。
「どうですか?ギルド協会に加盟しませんか?行政手続きや銀行の窓口業務も、自由にできるようになりますよ」
「それ、仕事増えてるだけじゃないですか?」
「いやだなぁ。行政手続き業務となれば、分かりますよね?」
ギルド協会の者が云わんとしてる事は、自由に住民カードが発行できる事などはメリットになるという話だった。
たとえば犯罪者がいたとして、その人を勝手に死亡扱いにし、新たな名前で住民カードを高値で発行できたりもする。
孔明は、ギルド加盟店で使用する土地の申請をしたが、これも多少優遇できたりもするから、そこでお金を取る者もいる。
まあ上手くやれば金儲けの幅が大きく広がるという事だ。
しかし孔明は面倒くさい事をするつもりはなかったので、きっぱりと断った。
「いりません。お帰りください」
するとギルド協会職員は、少し怒っているようだった。
表向き職人系商売はギルド加盟が不要だけれど、協会と上手くやっていくために加入するのが当たり前とされる傾向も広がっていた。
少なくとも町で商売する者の場合、職人系でもほとんどが加盟しており、加盟していないのは、村やその外で働く農民や牧場民くらいだった。
「一応お伝えしておきますが、加盟していない店は、協会の監視対象店舗となりますから」
監視対象店舗とは、販売のルールを破っていないかどうか、常に監視される店舗の事である。
正直どちらにとってもウザいものであり、これが嫌で加盟する人も多かった。
「どうぞ」
それくらいの事は、孔明にとっては全く問題がなかった。
体裁を整える為だけにやっている店なのだから、これ以上やるつもりもないし、見られていた所で全く気にする必要もないと考えていた。
孔明にとって唯一加盟するメリットがあると思われたのは、ギルドボックスによる魔法通信だった。
ギルドへの依頼は、基本冒険者ギルドの窓口に行って、依頼書を提出しお金を預けなければならない。
しかしギルドボックスがあれば、それは家からでも可能となる。
自分で素材を集めるのも面倒だし、この先は冒険者に依頼しようと考えていたのだ。
ギルド協会の職員が帰った後も、孔明はそれが頭から離れなかった。
「ネットワークに入るだけなら、簡単にできそう」
孔明の能力なら、ネットワークに侵入するくらいは容易かった。
しかしこの家にギルドボックスを置いて侵入すれば、直ぐに本人が特定される。
仮に別の場所から侵入したとしても、冒険者への仕事を依頼をすれば同じ事だ。
「自分でネットワークを作るにしても‥‥依頼できないと意味がない」
この日が終わるまで、孔明はずっと悩んでいた。
次の日からも、店には毎日ギルド協会の職員が訪ねてきていた。
某国営放送的な放送局が、受信料を払えと頻繁に訪ねてくるのに似ていた。
嫌がらせ的な事をしていれば、いずれ相手が折れるだろうという作戦だった。
しかし孔明には全く通用しなかった。
ギルド協会の職員が敷地内に入ってくると、直ぐに店を閉めて対応したりもした。
でもある時、孔明はひらめいた。
「交渉の余地あり」
この日はすんなりとギルド協会の職員を迎え入れ、話をする事にした。
「こっちもいい加減監視に来るのが面倒なんだよね?」
それは面倒だろう。
客が一人もこないような店にワザワザ足を運ばなければならない職員には、同情もしたくなるというもの。
孔明はむしろ可哀想に思っているようだった。
「では、ちょっと話をしませんか」
孔明はギルドネットワークについて提案をした。
「ギルドネットワークは、多くのギルドボックスが魔力で繋がっていて、この大陸中で使えますよね。でもその魔力が届かない場所もあれば、ギルドボックスの故障でネットワークが構築できなくなる障害も発生しています。それを解消する方法が僕にはあります。それを解消したら、僕を無料でギルド協会に加盟させては貰えませんか?」
とんでもない提案に、ギルド協会の職員は少し唖然とした。
しかしすぐに正気を取り戻した。
「そんな事、君が一人でやるのかね?一体どうやって?できる訳ないだろう。やるにしても一体どれだけの金と人手がかかると思っているんだ?」
普通に考えれば、ギルド協会の職員が云う通りである。
しかし孔明は一億倍のチート魔法道具屋だ。
簡単な話であった。
「裏の山の頂上に、この大陸をカバーできる魔法通信用の中継局を作ります。もしも良ければ、明日までには完成させますよ」
「いやいや、できるわけないだろう。もしもできたなら無料加盟の件は認めてやろう」
通信の安定は、ギルド協会にとっては課題となっていた。
色々な理由でネットワークを壊そうという輩も多く、通信障害は頻繁に起こっている。
それが解消されるというのなら、ギルドにとって大きな利益となる事は確実だった。
「では早速とりかかります。今日は閉店するので」
孔明はそういうと、ギルド協会の職員を追い出し、さっさと店を閉めた。
まずは工房で、『龍の王』から取った魔石を蓄魔池加工する。
そしてその魔石がギルドネットワークに繋がるように魔法処理をした。
「できた」
孔明にとってはやっぱり楽勝だった。
それを持って孔明は山の頂上へと向かった。
この山は大陸の真ん中やや南に位置する。
完全な中心ではなかったが、魔力通信塔を建てるにはもってこいの場所だった。
山の頂上へはすぐに到着した。
普通、高レベル冒険者でも登るのは大変な山だが、孔明にとっては何てことはなかった。
「この辺りが一番高い」
山の最も高い所を選び、そこに龍の王の魔石を設置した。
壊されたり盗まれたりしないように、魔法でしっかりと処置も施した。
最後に魔力を注ぎ込んで完成だ。
流石に蓄魔池加工された龍の王の魔石だけあって、その作業はかなり長い時間行われた。
一億倍のチート孔明でも、魔力を満タンにするには一時間くらいかかった。
「ちょっと疲れた。でもこれで一万年は大丈夫」
こうして裏山の魔力通信塔は完成したのだった。
次の日午前中から、ギルド協会の職員が孔明宅を訪れていた。
「いやぁ。本当にできるとは。昨日から通信が安定し、速度も信じられないくらいに速くなったらしい。それでお礼と言ってはなんだが、色々とプレゼントを持ってきたよ」
そういうと職員は、魔法道具屋の受け渡しカウンターに、色々と並べていった。
まずは新しいカード。
「ギルド協会特別会員証だ。これは生きている間ずっと有効で会費も不要。加盟店と同様の権利も持てる。さらには冒険者として依頼を受ける事もできるようになる」
「冒険者はやらないんですが」
「魔法通信塔とやらを建てたんだろ?故障や何かがあった時、こちらから依頼して直してもらう必要もあるからな。その為だと思ってくれ」
なんだか少し騙されているような気分にもなった孔明だったが、渋々納得した。
次はパソコンのキーボードのような魔法道具。
「これはギルドボックスだ。右隅の宝石に魔力を込める事で使用できる。映像はこちらの宝石から投影されるので間違えないでくれ」
ギルドボックスは、万事屋で見たものよりも小さかった。
おそらくこれは最新のものだと想像できた。
『これなら普通に持ち運べる』孔明はそう思った。
次は鑑定機だった。
「モノを買いとる祭、或いは売る時に値段を参考にしてくれ」
「分かった」
「それともしもギルドや冒険者に素材や魔石を依頼した際、物はこちらまで届けさせてもらう。特別会員に付くサービスだ」
孔明にとって、これはとてもありがたかった。
注文しても、イクサカイ町のギルドまで取りに行かないと駄目だった所だ。
或いは送料が必要だったが、その辺り気にしないで依頼できるのは良かった。
尤も、孔明は既に金の心配なんてする必要はまるでないのだけれどね。
ただ、少しの手間が省けるのが何より嬉しく思っていた。
こうして孔明は、ギルド協会の特別会員になった。
それが一体どういう事なのか、まだ孔明は知る由も無かった。
この日を境に、魔法道具屋コウメイの名は、大陸全土に広がっていく事となった。