龍の王のダンジョン
この日は、初めて冒険者の客が魔法道具屋コウメイにやってきていた。
「なんでこんな所に店あんの?」
「ちょーウケるんですが。何この値段!メッチャ高いんですけどw」
「始まりの村にこんな店作って、バカっぽーい!」
「店員さん!これ百ゴールドくらいにまけらんないの?」
男女二人ずつの冒険者パーティーのようだった。
「すみません。値段はこれでもできる限り安くしてるんです。これ以上安くするなら、買い取ってもらった方が高く売れるんです」
孔明がそういうと、まけろと言ってきた男の冒険者は少し驚いていた。
「つまりこの値段相応のモノなの?これ?」
「はい。例えばそちらは、ファイヤの魔法が使えない人でも使えるようになる首飾りです」
「じゃあこれを持ってれば、スクロールを無限に持っているのと同じ事になるんですか?」
「そうなります」
他の冒険者も店をバカにするのを止めて話に入ってきた。
「じゃあこっちの回復の指輪ってのは?」
「それはレベル五十くらいまでのあらゆる状態異常の回復と、怪我などの回復、両方の回復が可能な魔法が使えるようになります。術者のレベルに応じて回復レベルも上がりますから、かなり良いものです」
孔明がそういうと、パーティーは円陣を組んで何やらこそこそと話始めた。
「これはすげぇぞ。あれば冒険が楽になるどころじゃない。弐参個くすねていけねぇかな?」
「誰かが話して気をそらせてる間に、誰かもちだしちゃいなよ」
「えー‥‥でも見つかったらヤバくない?」
「大丈夫だって。あいつ眠そうな目してるし」
冒険者たちは何やらコソコソと話したのち、不自然に店の中をうろつき始めた。
孔明にはすぐに冒険者たちがやろうとしている事が分かった。
だからあえて後ろを向いて作業をしているフリをした。
「今だ。持ってっちゃえ」
「お、おう」
男は弐参個アイテムを掴むと、そのまま入り口から出ようとした。
しかしそこで動きが止まった。
後ろを振り返らないまま、孔明は言った。
「お客さん、万一店から何か持ち出そうとしたら、腕がモゲる呪いをかけてあるんで、気を付けてください」
男の腕はひねられたような状態で止まっていた。
男は掴んでいたアイテムをその場で放し、ダッシュで店の外へと逃げて行った。
他の三人も、後に続いて走っていった。
「まったく。ちゃんと並べて帰ってよね」
孔明は落ちてるアイテムを拾って、元の位置に戻した。
その後は又暇だったので、孔明は店を閉めて、素材集めに行く事にした。
この辺りの荒野や森に出るモンスターは既に狩り尽くしていた。
そこで孔明は、北の山を越えた向こう側に狩りに行く事にした。
地下から山の中を通り、向こう側に出る。
距離にして数百キロもあるが、孔明の足なら一時間もかからない内に山を抜けた。
さてこっちにはどんなモンスターがいるのか。
孔明は少しだけワクワクし、緊張していた。
自分がとんでもなくチートである事はなんとなく理解はしているが、力の差というのは会ってみるまで分からない。
或いは戦ってみないと分からないかもしれない。
でも孔明の表情はいつも通りで、説明が間違っているかもしれないと、この話を語る私は不安だった。
山を抜けた先は森だった。
それもかなり薄暗く、ヤバそうな雰囲気がプンプンする森だった。
ゲームでありがちな、行けないけど一番近くにラスボスがいる、みたいなノリを感じずにはいられない雰囲気だった。
そんな森でも、孔明は今までと変わらない狩りをしていた。
モンスターの大きさも断然大きくなっていたが、噛みつかれても殴られても、孔明は傷一つ負わずに敵の魔石をもぎ取った。
「色々なモンスターがいるな。素材も結構取れそうだし、とりあえずそのまま持って帰るか」
モンスターの死体はそのままブレスレットへと回収していった。
一時間ほど森を飛び回っていたら、概ね狩り尽くした感があった。
だからそろそろ帰ろうかと思った所で、森の東側に洞窟があるのを発見した。
その洞窟は人為的に作られた感じで、正にダンジョンの入り口といった雰囲気があった。
「ダンジョンか。なら夜でも関係ないし行くか」
少し陽が傾き始めていたが、ダンジョンなので孔明は入っていく事にした。
中には更に凶悪なモンスターがウジャウジャいたが、やはりここでもなんの問題もなかった。
そのうちモンスターの方がビビッて逃げていく始末だった。
ダンジョン内は真っ暗だったが、孔明は『灯りの魔法』すら使わず突き進んだ。
能力一億倍の孔明には、暗闇の中でも全てがよく見えていた。
気が付けば、既にダンジョンの最下層に来ていた。
ダンジョンのラスボスは龍の王と呼ばれる存在だったが、当然冒険者でもなんでもない孔明にはそんな事は知る由も無かった。
その龍の王もアッサリ倒した孔明の前には、大きな宝箱が現れた。
孔明が何の警戒もせずそれを開けたら、中から大量の宝物が流れ出てきた。
「もしかして、冒険者の夢を、僕は壊してしまったかもしれない‥‥」
孔明は少し頭を抱えたが、直ぐに立ち直り、宝物をほとんどブレスレットに回収して、なんとなく伝説の剣っぽいモノだけを宝箱に戻して蓋を閉めておいた。
「これで大丈夫だろう」
孔明はそう言って、龍の王の死体はブレスレットに回収し、ダンジョン内で現れた別の龍を魔法で強化してラストフロアに置いておいた。
後は来た道を戻るだけだったが、当然モンスターを狩りまくって帰った。
家についた後、孔明は山の中の訓練場で龍の王の死体を取りだし、魔石を回収したり素材を分けたりした。
素材はどれも最高級のドラゴン品質で、また良い物が作れそうだと創作意欲が湧き上がっていた。
龍の王に捨てる部位なんてなさそうで、孔明は一晩ウハウハするのだった。