第4話 もしもし。神様通神
「ははははっ! 旦那、自分を神様だって。これは恐れ入ったぜ! なぁ、姉御?」
歩きながら、ノートンは腹を押さえながら笑っている。シリウスが神だと名乗った時から、もうずっとこの調子だ。神と名乗った所で信じてもらえるわけないのは、薄々分かってはいたが。だが、シリウスは事実神なのだ。偽って自己紹介する方が不自然ではないか。
「シリウスと言ったか。あんたが私達を救ってくれたのは、どうであれ事実だ。その、神だ何だかは置いて、感謝している」
この様子では、ルキアからも信じてもらえてはなさそうだ。
「別に。あの鳥はただ邪魔だったから斬っただけだ。感謝されるいわれはないさ」
シリウスがそう言うと、ルキアは僅かに笑った。
「もうすぐ私達の国、セプトニアに着く。まぁ、今となっては国と呼べるのかどうか、だけどね」
ルキアがそう言うと、笑っていたノートンはピタリと笑うのを辞めた。それっきり2人は黙ったままだった。しばらく歩くと、集落に着いた。木製の簡素な家が建ち並ぶ、簡素な集落だ。
「ここが私達の国『セプトニア』だ」
村にいる人々は木材を運び、到底国というより村だ。
「国? これが国だと?」
シリウスがそう言うと、ルキアは笑った。
「まぁその反応も無理はない。3か月程前にカレブリア帝国の侵略があったのはあんたも耳には届いているだろ?」
「3か月? そんな刹那な時、いちいち覚えてない。せいぜい50年単位の出来事しか把握していないぞ」
「50年? 意味分かんないぜ旦那。あんたどう見たって30歳手前くらいだろ?」
ノートンが肩をすくめる。
「まぁ立ち話もなんだ。警備隊の詰め所に行こうか」
建物に入ると、中には誰もいない。
「詰め所と言っても、私とノートンしかいないのだよ。まぁ適当に座ってくれ」
「3か月前、突如カレブリア帝国がセプトニアに攻めてきた。その軍事力を前にセプトニアはなす術なく蹂躙された」
ノートンがテーブルを叩いた。
「あいつら、本当にひでぇよ! 女も子供関係なく殺しやがった!」
「王も妃も、次期王である王子も討たれ、生き残ったリリエルニア姫が、民を連れてセプトニアの西端の地であるここまで逃げたのだ」
国の滅亡。良くある話だ。人間が文明を持ち4000年。この間に大小様々な国が興り、消えていった。人間の歴史は争いの歴史そのものだ。
ピンローン。ピンピンローン。ピンピン。ピンローン。
聞いことのない音が詰め所に響く。
「何の音だ?」
ルキアがきょろきょろとする。
「さぁ?」
シリウスは自分の外套のポケットが振動しているのを感じる。
「悪いが少し席を外す」
シリウスは詰所の外に出る。ゴッドフォンをポケットから出すと「ゼイデン」という文字がデカデカと透明な板の上に写っている。その下には「応答」と「拒否」の選択肢がある。一応主神だ。拒否という選択肢はないだろう。シリウスは恐る恐る応答の文字を押した。
「もしもし! ゼイデンじゃよ!」
すると透明の板から、ゼイデンの顔が浮かび上がる。
「ど、どうもゼイデン様」
シリウスがそう言うと、他の神達の声も聞こえてくる。
「皆、わしからの着神出てくれてありがとね。これから通神を始めたいと思う」
良く分からないが、先ほどの変な音が着神で、通神の合図だったということだろうか。
「さて、それぞれどこかしらの国に天下りしたと頃じゃろうて。各々どこの国に着いたか発表タイムじゃ!」
ゼイデンはやけに楽しそうだ。巨人族の復活がまじかに迫っているとは思えない緊張感だ。
「こちら、マーテルだ。我は森に囲まれた国『ウッドランド』に降りたった。自然と人が共存する平和な国であるな」
「マギルナよ。わたくしはエルフと妖精の都市『ハイエルム』に降臨したわ。エルフは種族の中でも聡明で理知的よ。まさにわたくしに相応しい国ですわ。妖精は少々いたずらが過ぎますけど、エルフも魔法を扱えるし、信仰を高めるのは容易そうですわ」
「聞こえるてるかい? マレイトンだ。こっちは海の都『サウザンドプール』に下りたぜ。明るくて良い国だ! リゾート地もたくさんあるみたいで、これは毎日宴ができそうだ! はっはっは!」
「メ、メディフィーネです。砂漠にある『シャルザバート』という国に着きました。こちらも交易が盛んで非常に賑やかな国です。この国の人々にとって川は命の源であるようなので、なんとか信仰心を集めるを頑張ります……」
「イグニスだ。カリブレアという帝国に天下った。鋼の国という異名を持つだけあって鍛冶の技術が進んでいて、鍛冶の神として発展させ甲斐があるってもんだ。それに勢力を広げるのに躍起になっているようだ。最近だとセプトニアという矮小な国を滅ぼしたらしい。戦の神として見ても良い国だ」
皆それぞれ、それなりの国に天下ったようだ。残るはシリウスだけだ。
「えーと、シリウスだ。こちらは『セプトニア』という国に下りた。今イグニスが言ったように、カリブレア帝国に滅ぼされたようだ。僅かに民は残っていはいるが、国としての再起は難しいんじゃないか」
「皆、発表終わったかな。そしたゴッドフォンの機能の紹介! 板面を右に指でこう、ひゅってやってみるんじゃ! ひゅって!」
ゼイデンは人差し指をしきりに横に振っている。言われたまま指を動かすと、ゼイデンの顔が消え、代わりに「七神信仰表」という文字が書かれている。その下には国名と神の名前が、それに数字も記載されている。
「皆見えてるかい? ”信仰値”じゃ。なんとなく理解したかと思うが、担当している国の、七神に対しての信仰を数字で表したものじゃ。ちなみに巨人族に勝つには合計1万の信仰値がないと、巨人族には勝てん。フルボッコじゃ」
七神信仰値
順位 国名 担当神 信仰値
1 カレブリア イグニス 500
2 ウッドランド ファーテル 390
3 ハイエルム マギルナ 370
4 サウザンドプール トレイトン 310
5 シャルザバート メディフィーネ 280
6 セプトニア シリウス 10
合計信仰値 1860
シリウスは自分の置かれている状況を理解し、憂鬱になる。
「はっ! 見ろ! もうこの戦いは勝ったも同然! 俺様が次の主神だ!」
イグニスは声高らかに叫んでいる。
「ぐぬぬ! 調子のならない方が良いですわよ! せいぜい足元すくわれないよう気を付けることね」
悔しそうなのはマギルナ声だ。
「それにしてもシリウス。キミのその数字、ヤバいんじゃないか? はっはっは!」
トレイトンは笑いながら言うが、シリウスは全く笑えない。
「滅亡していることと関係があるのか。ともかくシリウスは絶望的だな……」
憐れむような声でファーテルが言った。
「シリウスさん……」
消え入りそうな声はメデフィーネだ。
「正直、貴様が消えてくれて俺様としてはせいせいするぞ!」
「えぇ。本当ですわ。これでライバルは一人減ったも同然ですもの」
イグニスはさぞ嬉しそうに言ってくる。
「それはどうも。俺は別に主神がどうとかどうでもいいから。勝手にやってくれ」
相手にするのが面倒になり、シリウスは適当に返事をする。
「それじゃあこれにて通神終了じゃ! 皆励んでくれよー」
そうゼイデンが言うと、通神は終わった。主神になるのはどうでも良いが、巨人族との戦いに勝てないのはまた別問題だ。
「はぁ。全く、面倒なことになったぞ」
シリウスは大きくため息を吐いた。