第3話 神の名を聞け
大きな衝撃が巻き起こる。轟音が鳴り、突風がうねり、砂塵が舞う。何を隠そう、これはシリウスが地面にぶつかったからだ。
「いやこれ、人の街とかに落下したらどうするんだ?」
いくらなんでもそこは計算しているのだろう。そう願いたい。
「ここは……」
シリウスは辺りを見渡す。見渡す限り瓦礫の山だ。否、それは元々建物だったものだ。この瓦礫の山は、建物が破壊された後だ。
「まだ壊れてからそう時間が経っていないのか」
風化が全く進んでいない。元々は綺麗に積まれていたであろうレンガ造の建物達は粉々に砕け、悲壮さを滲ませている。シリウスはこれでも武術と建築の神だ。何の建物か、何かあったのかは予想がつく。
「おい、さっきから何をこそこそしている。俺にそんな真似が通じると思っているのか?」
シリウスがそう言うと、朽ちた建物の影から人間が出てきた。
「な、なぜ分かったのだ!」
「バレてるじゃないですか、姉御」
男と女だ。女はシリウスを見た途端「あら、イケメンじゃない」と小声で呟いた。
「姉御! イケメンとか言ってる場合じゃないっすよ」
「そ、そうだった。私はセプトニア警備隊のルキアだ!」
「ノートンっす」
確かに二人とも腰に剣を帯び、肩や胸など、防具を装備している。所々穴が開いたり、ほつれていたり、だいぶボロボロの装備だが。
「巡回中に大きな音がしたので来たら、貴様がいた! こんな所で何をしているのだ!」
ルキアがそう言いながら詰め寄ってくる。右手は剣の柄に手をかけている。なるほど。2人はシリウスを不審者と思っているらしい。
「俺は――」
「ギャャャアアン!!」
耳をつん裂くような咆哮が聞こえる。空を見上げると、太陽を覆う大きな灰色の翼をはためかせ、鷹が飛んでいた。
「ででで、出たー!」
ノートンは動揺して腰を抜かした。
「くっ! デスバルチャーか!」
「デスバルチャー?」
シリウスは首を傾げる。
「モンスターだ! 良く戦いの後現れ、屍肉を漁るモンスターだ。我々だけでは手に負えん。逃げるぞ!」
デスバルチャーは今にも3人目がけて、その鋭い爪を伸ばさんとしている。
「別に逃げる必要はない。あんなの、ただの鳥だろ」
「はぁ? あんた何言って――」
「出よ! 神刀グラインダー!」
シリウスがそう号令すると、大きな剣がシリウスの手に収まる。青い反り身の刀身には、白い星屑が散りばめられ、輝いている。
「まったく、面倒臭い」
シリウスは地面を蹴ると、跳躍する。そしてそのままグラインダーを振り下ろす。青い軌跡がデスバルチャーの首を両断する。
「う、うそだろ。一撃でやっちまった」
ノートンは口をあんぐりと開けている。
「あ、あんたは一体何者だい? それにその剣は?」
ルキアはグラインダーに目をやった。
「これは俺の持物だ」
「じぶつ?」
「いわゆる神のアイテムってやつだ」
シリウスはグラインダーの持った手を離すと、剣は一瞬で霧散して消えた。
「か、神?」
「あぁ。俺の名前はシリウス。星の神、そして武術と建築の神だ」