第2話 神様達、天下る
波瀾万丈の幕開けです。
それから会議は、それはそれは紛糾した。
「に、人間界へ天下るなんて、前代未聞ですぞ!」やら「人間界に降りるなんて悍ましい!」やら「シリウスめ! 余計なことを言いやがって!」等々。まさかシリウスもこんなことになるとは思っていなかった。
今回の「天下り信仰心集めちゃおう作戦」の概要はこうだ。
まずグラン・グランには6つの国がある。そこへ、偶然にも主神であるゼイデンを除いて6人いる神が、それぞれ一人ずつ下りる。どこの国に下りるかは、ランダムらしい。つまり各々が一国を担当し、そこで信仰心を集めるらしい。集める方法は厭わないそうだ。
「これから人間界に天下りしてもらうわけじゃが、何点か注意事項あるか聞いといての」
ゼイデンはコホンと咳払いをする。
「その1。人間界では神の力は約1000分の1になるぞ」
「せ、1000分の1ですと!? つ、つまりどれくらいですか?」
聞いたのはファーテルだ。
「ざっくり、人間と同じくらいじゃ」
「人間と同じ」というワードに一同戦慄が走る。
「まぁ安心せい。とは言っても人間よりは遥かに強い。負けたりすることはないじゃろう」
「人間如きに遅れなど取りませんわ」
マギルナは自信満々に鼻で笑う。
「その2。原則、人間を殺さないこと。神は高位の存在じゃ。弱き者を殺めたりせん」
「人など、はなから殺す価値もないわ」
戦の神イグニスが低い声で言った。
「あ、あの。助けてあげたりするのは良いですか?」
小声でメディフィーネが意見した。
「それは問題ない。殺す以外は何もしても大丈夫じゃ」
「はっはっは! では人間達と毎日宴をするぞ!」
トレイトンはいつも暑苦しい。
「その3。この天下りにて一番信仰心を集めた者は、次の主神とする」
その言葉に皆の目の色が一斉に変わった。
「そ、それはどういうことですか?」
流石のシリウスも思わず声に出る。
「うむ。わしの、主神を引退しようと思うておる。余生はゆっくり天界のリゾート地で過ごしたいんじゃ」
余生も何もあんたは神だから死なないだろ、というのはここにいる全員が思ったことだろう。
「だからの、来る巨人族との戦いは誰かに任せようと思うんじゃ」
なんともお気楽な主神だ。シリウスは小さくため息を吐いた。
「ふん! 時期主神は、このイグニスしかおらんだろうな」
体からメラメラと炎を噴き出しながら、やる気満々だ。
「何を仰って? 時期主神は全知全能の魔法を使う、わたくししかいなくてよ?」
マギルナは、宙に浮いた杖を椅子代わり、足を組んで言った。
「誰が主神でも愉快だ! 非常に愉快だ! はっはっは!」
トレイトンはしきりに、三叉槍で床を叩いている。
「な、なんか大変なことになっちゃいましたね。ど、どうしたらいいでしょう、シリウス」
横にいたメディフィーネは不安そうにシリウスを見ている。
「どうするって――。まぁ、なるようにしかならないだろうなぁ」
シリウスは頭の後ろをポリポリと掻いた。
「……シリウスはすごいですね。いつも余裕そうです。私なんかどうすればいいか。もうパニックです」
なぜか顔を赤らめて、メディフィーネは下を向く。女神の恥じらいというやつだろうか。
「別に余裕とかじゃなくて。ただ面倒臭いだけだ」
本心だ。まさか人間界に、下界に下りるなど本当に面倒な事になった。
「静粛に!」
ゼイデンが言うと、ぴたりと収まる。
「それじゃあ出発前にこれを渡しておくでの」
ゼイデンの手から四角い平らな物体が6個浮かび上がり、それぞれに飛んでいく。
「それは離れたところでも意思疎通ができる魔法のアイテムじゃ。名付けて『ゴッドフォン』じゃ!」
ゼイデンはドヤ顔で、自慢げに胸を張る。
「神同士で連絡取りたくなったときはそれを使うのじゃ。神の力は1000分の1じゃからの。今まで見たいに瞬間移動とか、思念を飛ばして会話とか出来なくなるから、便利じゃと思うぞい。使い方は追々ということで――」
ゼイデンは6人の神を見渡す。
「どんな国に下りても恨みっ子なしじゃ。皆には期待しておる。励んでくるが良い」
そう言い、指をパチンと鳴らす。6人の体が光に包まれる。いよいよだ。ずっと天界で過ごしていた神達が地上へ下りる時が来た。それぞれが何かしらの思惑を抱え、何をするのか。想像もつかない。神様というのもつくづく面倒だと、シリウスは思った。
その日、地上では彩りどりの6つの光が空から降るのが観測された。それが後に語り継がれる神話になるとは、この時代の人間は未だ知らない。