その4
その時分は、クーラーも珍しいもんやったから、イトウの話は汗だくで遊ぶ俺たちの興味を引いた。そんでも、ばれた時のことを思って、「そんなんして、ホンマに大丈夫なんか? 」って聞いたんやけど、イトウが先輩から夜のプールで泳げるっていうのを聞いていて、「いまんとこバレてへんみたいやで、大丈夫なんとちゃう?」て、言うもんやから、「おもしろそうやな! 」ってなって、その場にいた俺と、よーじと、イトウ、マサカズ、キヨヒコは、その夜に海パンを履いてプール前に集まることになった。
夜になって、約束の時間が近づいてきたら、親には勉強してるふりして、こそっと家を抜け出した。ちょっと悪いことする感じもあってか、ドキドキしながらチャリでプールへ行くと、約束通りみんなが待ってた。
「おー、おそいやん」
「わるいぃ。親の目ごまかすのに手こずってしもたわ」
「よし、みんな集まったな。ほんなら、行こか。」
暗闇の中で誰かが言うと、俺らは一斉に緑のフェンスによじ登り、プールサイドへ降りると、Tシャツを脱いで、静かにプールへ入った。
「これ、気持ちええなぁ」
「ほんまや」
はしゃぎは出来へんけど、自由に泳げたし、仰向きに浮かぶと、星が一杯見えて、潜ると暗い水の中で月の光がゆらゆら揺らいで見えた。これまで、日中のプールしか知らんかったから、夜のプールもなかなかええなと思った。
けど、30分もしたら身体が冷えてきて、「あかん。もう寒いで上がろに」て、誰かが言うと、みんな一斉に上がって、日中に焼けついた暖かいタイルの上に寝転がって、中学の女子の話や、将来の話をしてもりあがった。
その夜がおもろかって、みんなでちょくちょく夜のプールに来てたんやけど、夏休みも終わりの頃に、最悪の日がやってきた。
その日も、いつものように静かに泳いでたら、プールの前に車が止まって、懐中電灯を持った人が下りてきて、こっちを照らした。
「やばい。みんな潜れ! 」
その声と同時にみんな焦って潜ったけど、懐中電灯の光が近づいてくると、潜っている僕らを照らして、先生らしき人が、
「こらぁ!! お前ら、なにやっとるんや! プールからはよ出よ! 」
て、えらい剣幕で怒鳴った。俺らは、もうあかんと観念して、ゆっくり顔をあげて、皆で顔を見合わせると、誰からともなく「すんません」と言って、うなだれながらプールから上がった。
そこで、散々説教をされてから、「お前ら、ここの卒業生やろ。明日の朝、校長室に来い。」て、言われて、先輩の真似しただけやのに、俺たちだけが、なんで、そこまでいわれやなあかんのやろっていう気持ちと、やっぱりあかんことしとったら、ばれる日が来るんやなっていう気持ちになって、なんにも言われへんようになった。