その2
「きにすんな。なんや、荷物はそれだけか? 」
「そう。これだけ」
「嘘やろ! それに、今時、マジソン・スクエアガーデンて! 」
自慢げにバッグを見せるようじに思わずツッコむ。
そやけど色あせて変色したスポーツバッグが似合っとった。
「モノもちがいいと言ってくれ」
「なんか、ちょっとダサない? 」
「そう言う浩二がダサい。今は、これがナウい。」
そう言って、ようじは笑った。そういうとこも、ようじらしい。
「合格おめでとう。 みんな無理やろって言うてたで」
「予想を覆す。それが、俺。」
「いやぁ~。かっこええなぁ。なんやろな、その自信。『トップガン』のトム・クルーズみたいやな。」
「お前、それ、嫌みか」
「あほやなぁ、ほんまの事やん。けど、ほんまに駅まででええん?なんなら、新幹線乗り場まで高速飛ばしてくで。」
「ありがとう。けど、駅まででいいよ。電車の方がカローラより早いし」
「・・・・・・・降りてくれるか? 」
「嘘。浩二のカローラは最高」
「わかってくれとったらええ」
一年ぶりくらいの再会やったけど、冗談を言い合うと、すぐにあの頃に戻った。俺は、ギアを一速に入れ、クラッチをつなぎ、ぎりぎり家と家の間を通れる幅の道をゆっくり走った。
いつも思うけど、もうちょっと道を広げてくれたら皆が助かるのに、この辺の人は「塀」の方が大事やで何ともならんのやろな。
「寒かったら、窓閉めてくれよ。」
「おおっ。あれっ、パワーウインドない。」
「うるさいわ。そんなもんいらん。腕の力があるやろ。」
最近の車はパワーウインドが標準装備されてて、手回しで窓を開け閉めするってゆうのも、「信じられへん」って思う時が来るのかもしれへんな。