7 事情説明、これまでの経緯
今回は短め
ほぼ人物紹介です
11/26 不足していた説明を追加しました。
俺は今、職務質問を受けている。
地面に正座で。
俺が何者で、今迄に何をしてきたのか。
俺は目の前の男に...名前を聞いてなかった...記憶している経緯、この世界に転移? してからの話を事細かく説明した。
それはもう、詳細に。
肉片が飛び散り、動物達の断末魔が飛び交う森の描写は特に具体的に語ってやった。
...結構迫真の演技だったんだけど、無反応だった。
「...」
俺が語れる事はもう無い、だと言うのに男からは何の返答も返ってこない。
深く、手で顎を擦りながら物思いに耽っている様だ。
何を考えているかは知らないが、流石に地面に正座させられたまま永遠に返答を待っていられるほど、俺は気長ではない。
今度は俺から話しかけることにした。
「...なぁ、あんたの名前を聞かせてくれよ。
話せる事は全部話したんだ、それくらいいいだろ?」
「あぁ...悪いな、自己紹介がまだだったな。
俺はジレン・ユーランド、ジレンって呼んでくれ。
そんで、お前さんドラゴンに会ったんだよな?」
名前だけの自己紹介を軽く済ませたジレンは、俺の肩を両手でガシッと掴み、畳み掛けるように俺に質問を投げつけてくる。
俺がフルネームを明かしたので律儀に名前を全部教えてくれたが、見た目と名前からして日本人ではないことは判った。
にしては、此方の言葉はしっかりと理解出来ているようだし、喋っている言葉も日本語だ。
とにもかくにも意思疏通が出来るなら一安心、俺は投げ掛けられた質問に答えていく。
「俺の見たドラゴンがあんたの知ってるドラゴンと同じかどうかは知らないけど、話の中でも言った通り、大きな翼で飛んで、鋭い爪と牙を生やした『如何にも私はドラゴン』ですって言う見た目の奴に、俺は襲われたんだ」
「そのドラゴンは何処へ行った?」
「俺達が来た森の方角に山があるだろ?
そっちへ飛んでったよ、その後は...分からない」
「...なるほどな」
ジレンは俺達が来た森の方向、その上空をジッと見つめて腕を組んだ。
「...信じるのか?」
「何をだ?」
「全部だよ、俺がここに転移してから森を抜けるまでの話。
俺があんたの立場だったら、色々疑いそうな点が幾つもありそうなんだが...」
特に、別の世界から転移してきた話は自分から聞いても荒唐無稽だと思う。
この世界では別の世界から人間がわんさか転移してくるのか?
嘘っぽい誇張された話は、それだけで人の印象を胡散臭くする。
『別の世界から、俺は来た』なんて言われて信じる人は余程のお人好しだ。
この男がどんな性格をしているかは分からない。
なので、敢えて俺は『別世界から転移してきた』とは話さず、『ニホンという国から転移してきた』という風に説明した。
もしかしたら、実は同じ地球の別の国だった、という可能性も有り得るかもしれない。
「角の森に入ったら、そりゃ肉片の1つや2つ飛んでくるわな。
俺には森の中からあんたが五体満足で帰ってきたのが信じられねぇんだが...」
「それも確かに苦労した、『相棒』が居なかったら俺は死んでた。
こうやってあんたと話をする事も無かったと思う。
でも、転移してきた話は結構無理がないか?
あ、いや、俺は本当の事しか話してないんだけどな?」
「自分の話した内容に、自分が一番自信が無いってのはどうなんだ...?
別に、突然別の国から転移してきたって話は無くはないんだ」
「そうなのか?」
「あぁ、ダンジョンに設置されてるトラップによ、転移系のトラップがあるんだ、踏めば作動するやつがな。
そういうトラップの転移先ってのは大抵、人間が生き残れ無いような場所に飛んじまうんだ」
ダンジョン...ファンタジー物で良く聞く名前だ。
モンスターが居たり、ボスが居たり、その奥には宝物がたくさん眠っているという...
やはり、この世界にも存在するのか。
「お前さんが何をしてそのトラップを踏んだか分からねぇが、事実、角の森に転移して来た。
本来ならお前さんはそこで終わってたはずなんだか...
運良く生き残れた、ってとこか?」
「なるほど...」
ジレンには納得出来るような理由があったらしい。
少なくとも、この世界では人間が別の場所へ転移してしまう現象が存在するらしい。
残された謎はあの『トンネル』...悪意かはたまた善意か。
あの『トンネル』自体が、人間を別の世界へと転移させる『罠』だったのだろうか。
「悪いな、突然怒っちまってよ。
どうやらお前さんに落ち度は無さそうだな」
「あぁ、分かってくれたらいいんだ...
でも、ただの森じゃないとは言え、どうしてそこまで...?」
「...角の森は危険地帯だ。お前さんを襲ったような猛獣共が次々と襲いかかって来て、森に迷い混んだ部外者を排除する...角の森に足を踏み入れて無事な奴はいなかったし、角の森攻略に名乗りを上げて奥地へと入り、帰って来なかった奴は数知れず...」
「...マジで?」
「大マジだ。
『入ったら二度と戻ってこれない森』...そんな異名で恐れられている森にわざわざ入り込んで、しかも森の連中を怒らせる何て事しでかす奴は、余程の世間知らずか大馬鹿野郎だ」
「...俺って、生きてるのが奇跡?」
「そうだ。
しかし...お前さんは他国の奴だし、運悪く森の奥地に飛ばされたらしいから、不可抗力だ。お前さんの運と、その魔道具にでも感謝するんだな」
...どうやら、俺が迷い混んだ場所は、異世界屈指の危険地帯らしい、ドラゴンとかいる世界の中でも、だ。
『死ぬところだった』。
そんな事実を認識して今更恐怖で体が震えだす。
「ま、マジで危なかったじゃん...」
「たまによ、ハンター成りたての初心者が調子に乗って森に入ったりすんだ。
俺等はそういう命を軽々しく投げ捨てるような奴等を見たら、取っ捕まえて厳しく注意するように言われてんだ。
だから、オオツノヌシが森で暴れてる音を聞き付けてすっ飛んで来たんだ」
「そういう胆試しをする奴等を助ける為に、か...」
「まぁ、オオツノヌシを怒らせた時点で状況は絶望的だからな、助けれるかどうかは知らねぇ。
それよりも、怒ったオオツノヌシが森の外に出てこないか見張る必要がある」
「...俺、別にオオツノヌシとかいうやつに危害とかは加えて無いと思うんだけど...襲われたから吹き飛ばしただけで」
『相棒』を操ったスライムがね?
「そこはもうオオツノヌシの機嫌次第だな...まぁ、こうして話してる間、なんも変化がねぇし、大丈夫ってこったろ」
ジレンは森の方を手を額にかざして、遠目に見ながらそう言った。
「だと良いけど...」
オオツノヌシ...あの四つ目の大鹿の顔が今でも思い浮かぶ。
あんなやつがいる森に入るのもごめんだし、そんなやつが激怒して森から出てきたら俺は絶望する。
明らかに雷を操ってドラゴンを追い払ったのはアイツだし、『相棒』の足の速さが無ければ俺も同じ様に黒焦げだったろう。
...『相棒』ありがとう、絶対大事にするからな。
...神様ありがとう、この世界の神様の事は全く知らないけど。
俺が存在するかどうかも分からない神様に感謝していると、森の方を遠目に確認していたジレンは再度俺の方に向き直る。
「さて...ところでだが、お前さんの言うニホンって国の事を生憎、俺は知らない。すまねぇが、すぐに故郷に返してやることはできそうにねぇな」
「...いや、いいよ。
俺もすぐ帰れるとは思ってないし、俺の生まれた国は島国だからね」
「島国か...
名前も聞いたことがないとなると、かなり小さい国なんだな?」
「確かに見た目は小さいかなぁ」
「そうなると、船も出てるかどうかってとこか...」
また、ジレンは顎に手を当てて考え込む。
「...わかった、これも何かの縁だ。
折角、角の森から無事に生還したって言うのに路頭に迷わせちゃ夢見が悪い。
お前さんが、故郷に帰る手助けをしてやるよ」
多分、この時の俺は酷く驚いた顔をしていただろう。
赤の他人、素性もまったく分からない人間一人のためにこんなにも親身になってくれる人は、治安が良いと言われている日本にだってそうそう居ない。
何か裏があるんじゃないかと、疑って掛かるのは当然だと俺は思う。
「...ジレンさんは、なんでそんなに優しくしてくれるんだ?」
「ジレンでいいよ...
言っただろうが、夢見が悪いって。
角の森の連中から命からがら逃げて来たのに、ここで放っておいてどっかで死体になってるのを見つけた日にゃ、飯も喉を通らなくなるわな」
「凄い、お人好しなんだな」
「ぬかせ...毎日の飯くらい旨く食いたいだろ?
人助けってのはそんなもんだ」
当然だろ?
そう言わんばかりの顔をして、ジレンはそう言ってのけた。
同じセリフを俺が家族にでも言ったら、多分思いっきり白けられると思う。
この渋さが光るダンディーな男が言うからこそ、グッとくるセリフなのだ。
「ジレンみたいなカッコいいおっさんに、俺もなれるのかなぁ...」
「お前...初対面の奴におっさんはどうかと思うぞ?
それに歳だって、見た感じお前さんと大して変わらんだろ?」
「え?
...ジレンって何歳なんだ?」
「三十一」
「...」
見た目が老けているので、四十とか五十くらいかと思っていた。
白部は二十歳になる、誕生日を迎えれば今年で二十一歳になるはずであった。
たった、十年と少しの差。
その間に、ジレンがどれだけ他人のためを思って行動をしてきたのか。
それとも、人としての徳は年齢では決まらないのか。
人としての格の違いを見せ付けられた俺は、ジレンの性格に感謝すると同時に、先ず人を疑って見る態度を大いに恥じた。
...こんな男に、俺も成りたいな。
今度からは、困ってる人がいたら助けよう。
そしてあわよくばカッコよく思われたい...
少し不純な動機なのは、男なのでという理由で許してもらいたい。
それはそうと、
「...なぁ、手を貸してくれないか?
上手く立てなくて...」
「お前さん、やっぱりどっか怪我してたのか?」
すぐに俺の体調を気遣ってくれるのは嬉しいんだけど...
「いや...さっきからずっと正座しっぱなしで...
足が痺れて、上手く立てないぃだだだ...」
「すまん、忘れてた...」
ジレンはちょっぴりお茶目さんだった。
この小説にブックマークをつけてくださりありがとうございます。
本編に登場するキャラクターはほぼ全部作者の好みに合わせています。
『パワータイプで超強い、頼れる渋いおっさん』系キャラクターとしてジレン・ユーランドは書いていきたいと思います。
続きが気になる方は、是非ブックマークをつけていって下さい。