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異世界ドライブ~トンネルを抜けたら、そこは異世界でした~  作者: 天城/あましろ
序章~異世界へドライブ~
6/33

6 九死に一生、一難去ってまた一難

開幕、新キャラクター視点です。

「...こんなに天気がいいのに、雷だぁ?」


 心地よい風が吹く草原。

 この草原を一望することが出来る見晴らしの良い丘に立ち、辺りを見渡していた所、遠くの方で閃光が迸り、その後すぐに雷が落ちたような轟音が響いてきた。


 ただの自然現象なら何も気にならないのだが、ここから見える範囲は山の向こう側まで晴天で、空には雨雲も雷雲も存在しない。

 それなのに雷が落ちるという事は、何者かが雷を落としたという事に他ならなかった。


「あっちは『角の森』か...誰かが『オオツノヌシ』の機嫌でも損ねたか?」


 とある『依頼』を受けてこの草原に来ていた男、『ジレン・ユーランド』は、すぐ側の地面に突き立てていた己の武器である『大剣』を担ぎ上げる。


 身の丈ほどもあるその大剣を軽々と持ち上げる様からは、彼に備わる筋肉量がどれだけ並外れているかが伺える。

 

 肩幅が広く、身長も185cmは下らない、大柄な男。


 顔は老け気味であるが、年齢は見た目に反して『三十一歳』。

 しかしながら、白部と十一歳の差しかないはずのジレンの雰囲気は、まさに渋いおっさんそのものだった。


 赤みがかった茶髪は、手入れがあまりされていないのかボサボサで、どこか彼が大雑把な性格である事を感じさせる見た目だ。

 自分の見た目に関心が無いとも言う。

   

 そんな彼は全身を鎧で着込み、大剣を担いでいる様子はまさに『これから一狩り行ってくる』という風貌だ。


 大半の人がそんな彼に抱くイメージは、『カッコイイ』『渋い』『強面』『気難しそう』『怖そう』等、畏敬の念を籠めたモノがほとんどだろう。


 しかし、それに反して、


「誰かが森に迷い混みやがったんだな...

 ったく、見捨てるわけにもいかねぇしな、物はついでかぁ」


 頭をボリボリと掻きながらそう呟き、森の方角へと足を進める彼は、実のところ面倒見が良く、他者を思いやれる性格をしている。


 そんな彼の美点を知る者からは、『尊敬するべき人物』『頼るならアイツ』『男の中の男』、そう言われてきた。


 それが、ジレン・ユーランドという男の実態だった。


「しかし、今時角の森に入るバカが居るとは思えねぇな...

もしかして、『ヤツ』か?」


 『ヤツ』とは、彼が本来ここに居る目的でもある存在。

 それは彼の家業に関わる存在だが、もし『ヤツ』が角の森に居るのだとしたら、彼は一人で森に入らなければならない。


 彼にとって、それは避けたい危険性を孕む。


「...今から戻って救援でも要請するか?

 いや、そんな悠長にやってたら『ヤツ』がどっかに逃げちまうかもしれねぇし、森に迷い混んだのが人だとしたら、あんまり時間はねぇ...」


 角の森は、かなり危険な場所だ。


 見た目も自生している植物も、普通の森となんら変わらない『極一般の森』。


 問題なのは、そこに生息している『魔物』の存在だ。


 角の森に生息している魔物はどんな種類であれ、必ずその頭から『角』を生やしている。


 角の森の魔物は総じて狂暴であり、余所者が森に入ってきたのを認知すると、森中の魔物が余所者を殺しにかかるのだ。


 群としての強さも去ることながら、個としての強さもかなりのもので、経験を積んだハンターですら容易に返り討ちに合うような強さを、成体か幼体かに関わらず一匹一匹が備えている。


 極めつけは『オオツノヌシ』の存在。


 『オオツノヌシ』は角の森の主であり、森一帯の支配者だ。


 角の森に住まう魔物の特徴である角が『オオツノヌシ』には四本生えていて、さらに特徴的なのは目が四つあるという異形であること。


 また、『オオツノヌシ』は落雷を操ると言われており、雲がなくとも自在に雷を落として何度も侵入者を排除してきたらしいということが、ジレンの知っている情報だった。


 らしい、というのは、その話が真実かどうかを実際に見た者が少ないということ。

 

 如何なる理由があろうとも、誰も角の森に自分から入ろうとは思わないし、生き残って出てくる奴なんかは希だ。


 それ故に伝承だけ伝えられ、今では本の中でしか見ないような存在の『オオツノヌシ』だが、ソイツが本当に実在する事だけは誰もが周知の事実だった。


 さらに、ジレンはかなりの実力者である。


 ハンターに限らず、戦いを生業とする者なら彼がどれくらい強いのかを知っている。


 上から数えた方が早いほどの実力を持つジレンですら、角の森に単独で入ることは躊躇われるほど、角の森は危険なのだ。


 なので、凶悪狂暴で有名な角の森に入り込んで『オオツノヌシ』を怒らせるような大馬鹿者がまさか存在するはずない、なんて思っていたジレンだったのだが、


「...森の中から、なんか出てきたな?」


 基本、角の森の魔物は森から出ることは無いので、突如森の中から出てきた『大きな自走する物体』に思わず唖然とする。


 森まであと百メートルといった所まで歩いてきたジレンは目を凝らし、その物体の中に一人の人間を見つける。


 黒髪の、平凡な顔の人間だ。


「アイツだな?」


 十中八九、森の騒ぎの元凶であろうその人物に話を聞くため、ジレンは自走する物体の前へと躍り出た。



―――――――――――――――――――――



 時は少し前に遡り...


 俺達は命からがら、あの巨大な『親玉』から逃げる事が出来た。


 しかし、依然として森の動物達からの攻撃は止む気配が無く、それどころか更に動物の数が増える始末。

 一匹吹き飛ばしてまた一匹突っ込んでくる現状に、流石に俺は恐怖していた。


「コ、コイツら自分の命とか大事じゃないのかよっ!?」


 血飛沫を上げながら動物達を轢き逃げしているが、それを見て更に激昂した動物達は最早自分の命をかなぐり捨ててでも、仲間を殺した俺達に復讐をするつもりのようだ。


 既に『相棒』は血塗れである。


 もううんざりだ、早く森から出たい。


「な、なぁ、森から早く出よう! 道、分かるか!?」


 それを聞いた『相棒』は、更にスピードを上げる。


 後ろから追ってくる動物達は置いていかれ、前から突っ込んでくる動物達の数が少なくなっていく。


 どれだけ狂暴な動物でも、車のスピードには敵わない。


 だが、四つ目をギョロギョロさせたあの『親玉』にはそんな常識が通用しなさそうで、今にも上から雷が降り注いでくるのではないかと、気が気ではなかった。


 俺が運転している訳でも無いのにハンドルを握り締めアクセルを目一杯踏み、恐怖のあまりずっと前を見れなかった。


 運転する者としては失格なその行いを、非難する者はここには誰もいない。


 咄嗟に乗り慣れた運転席へと乗り込み、体を縮こませて恐怖から目を遠ざける姿は、暗闇に恐怖を覚える子供の様に見えただろう。


 ハンドルを握り締めていたせいで塞げなかった耳に、動物達が激突してくる音と肉が潰れる音、そして動物達の悲鳴が嫌というほど入ってくる。


 トラウマ確定、二度とこの森には来ないと固く決意した。



 暫しの間、体勢を変えずに現実から目を背けていたが、先程までのグロテスクな音声が止まっていることに気付く。


 スピードもいつの間にか、ゆったりとした物になっている。


 顔を上げると、目の前には森の景色も四つ目も無かった。



 ...広い草原、平坦だが、所々傾斜があり、草木が風に揺られているのが見える。


 鬱蒼とした森の中にずっと居た為、その晴れ晴れとした空と太陽が眩しく感じた。


 空を、こんなにもキレイだと思う事は無かった。


 俺達は、もう何者からも逃げる必要はない、やっと自由の身になれたのだ。


「ふぅぅぅぅぅ...『相棒』ありがとぉ...」 


 俺の命を救ってくれた『相棒』にはいくら感謝してもし足りない。


 一生『相棒』を愛することを俺は固く決意した。



 一先ず一安心、どうやら森の中から動物達は追ってこない様子

 

 しかし、新しい場所に出たが依然としてこの場所が何処なのか分かっていない。


 運良く人に会えたりしないか、そもそも人が居るのかが心配だったが、それは杞憂だった。


「あっ!? 人だ!」


 幸運にも、俺達の進行方向に人影が見える。

 およそ百メートル程の距離があるので顔は良く見えないが、俺達の方に手を振っているのが分かる。


 俺は窓を開け、窓から体を出して手を振り返す。


「『相棒』、あの人の所へ行こう」


 この世界に来てから初めての『人』。

 優しい人だったらいいなぁ、と思いながら、俺達はその人の元へと近付いていく。


 近付くにつれ、その人物の全体像が鮮明になる。


 茶髪の大柄な男で、全身を鎧で覆っている。

 さらに、彼は巨大な大剣を担いでいた。


 少し渋さが目立つ強そうおじさん、そんな印象の人物だった。


 ...明らかに外国人の顔つきなんだけど、言語って大丈夫なのかな?


「ハ、ハロー」


 取り合えず、万能言語である英語で気さくに挨拶をしてみる。


 近くで見るとその顔は強面だ。

 俺は人の第一印象を顔だけで判断するつもりは無いが、それはそれとして怖い。


 でも、男は笑顔なので、きっと大丈夫だろう...



 ガシッ!


 俺は頭を男に掴まれた。


「え?」


「お前さん...一体森で何しでかした? 言え!」


 その笑顔は、初対面の人に対する愛想笑いでも、気心の知れた友人に掛ける物でもなく...優しく、尋問するための表向きの顔だった。


 九死に一生を得たが、まだまだ苦労が続きそうな事にうんざりする俺だった。

 

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