4 走り出した『相棒』、初めての狩猟?
お食事中の方は御注意下さい。
刺激的なシーンが含まれます。
11/26 スライムの補食シーン周辺の内容を変更しました。
走り出した『相棒』のタイヤ跡を辿ること数分、俺は『相棒』に追い付いた。
木々の隙間を縫うように走る為スピードを落としていたせいか、人の足でも充分追い付ける速度だ。
それでも、巧みな小回りによってスイスイと走る様は、俺が運転するよりも上手かった。
ちょっと悔しい。
最早先程まで居た洞窟にはもう戻れないくらい、森の奥深く迄来てしまったようだ。
「はぁ...はぁ...」
普段運動なんてしてこなかった為、体力が尽きそうになり肩で息をする俺。
足場の安定しない場所を走るというのはかなり疲れる...
一瞬『相棒』を見失いそうになるものの、『相棒』が途中で停止していたので、なんとか追い付く事が出来た。
俺の事を待ってくれていたのか、と思ったがそんなことなら最初から置いていかないので、別の原因で停止しているのだろう。
『相棒』の行く末を阻んでいる物が何かを確かめるため、『相棒』の前方へと出る。
そこには、何かが地面に横たわっていた。
パッと見、鹿かな?、と思う見た目で、大きな角を持っている生物だ。
その角は先端が凶器のように鋭く尖っていて、太さもあるので、コレに貫かれたら死んでしまう、と想像するほど凶悪な角だった。
コイツ自体の大きさも、全長は俺の身長を越えそうだ。
角の大きさ的に、どちらかというとトナカイかもしれない。
そのトナカイ(仮)は俺が近くに寄ってもピクリとも動かない。
寝ているのだろうか?
安否を確認するためにコイツを観察すると、体の横腹の部分に大きな裂傷があり、そこから血が地面へと流れ出ているのを見つける。
まるで何かに引き裂かれたような傷だった。
俺は『相棒』の方を見る。
『相棒』のタイヤに血痕が付いており、少し引きずった様な血の跡も車の下に見受けられる。
...
犯人は『相棒』、誰が見ても明らかだ。
『相棒』はどこか、悪気は無かった、と言いたげな顔をしている。
勿論、『相棒』に表情なんて無くて、でもそんな雰囲気を醸し出している様な気がするだけ。
突然『相棒』に感情が芽生えた訳でもないよ。
恐らく走行中に誤ってコイツと衝突し、車は急に止まれないので、そのまま引き摺ってしまったのだろう。
良く山道を通るときに動物出現の標識を見掛ける事はあったが、遭遇するとこんな事故になるんだなぁ、と感心した。
いささか可哀想ではあるが、俺が手を下した訳でもないので、なんとも思わない。
ふと『相棒』の様子を見ると、ボンネットの下からウネウネとした触手が一本飛び出ていた。
「な、なんだ?」
鼠色の触手、やけに弾力がありそうな見た目、さっき俺の『相棒』を呑み込んだ、ビッグスライムの面影がある。
「そんなとこに隠れていたのか...」
納得のいった俺はその触手を何処へ伸ばそうとしているのかを確かめるため、視線を辿らせる。
触手の先には、『相棒』が轢いたトナカイ(仮)。
どうやら、コイツをお望みのようだ。
このスライムが俺の『相棒』を乗っ取って、その巧みな運転技術により、獲物を捕った、という事だと思う...多分。
スライムが車に寄生するなんて話は聞いた事も無いが、実際乗っ取られてしまったので、コイツはそういうスライムなんだろう、と無理矢理納得する。
だがトナカイ(仮)をお望みということは少なからず肉を補食しようとしているのか...?
もし俺が補食対象になってしまったら...
自走する『相棒』が俺のことをズタズタに轢き裂く想像をしてしまい、俺は思わず『相棒』から距離をとる。
俺が離れると、触手は俺を手招きするようにウネウネと動く。
なんだ? 俺を食うつもりか?
警戒している俺に対してスライムは、今度はその触手で俺と横たわるトナカイ(仮)を交互に指し示す。
...持ってこいって事か?
見た限り、触手を伸ばせば届くんじゃないかと思われるが、どうやら精一杯触手を伸ばしても、遠くに転がるトナカイ迄は届かないらしい。
移動すれば良いのにと思ったが、もしやガス欠でも起こしたのか、エンジン音が止まっている事に気付く。
...どうやらこのスライム、自分で倒した獲物を取れずにいたようだ。
はて、どうするか...
数秒考えて、俺は行動に移る。
「よいしょ...」
俺はこのトナカイ(仮)を『相棒』の元へ持っていく事にした。
このまま無視しても、『相棒』を返してもらうどころか、代わりに俺が食われそうだったからだ。
どうせなら餌付けでもして、好感度でも稼いでおこうと思う。
トナカイ(仮)はかなり重く、どうにか少しずつ引き摺りながら移動させ、やっと思いで『相棒』の元、スライムの触手が届くであろう場所まで持ってこれた。
スライムは嬉しそうに触手を精一杯伸ばし、トナカイ(仮)の腹の裂傷に触手をズプリと入れ、中身を掻き回すように、グチョグチョと動かし出した。
「うげ...」
見てるだけで痛々しいその光景をまじまじと見ることは出来なかったので、俺はすぐに目を逸らした。
グチョグチョ... グチョグチョ...
触手が肉を掻き回す音が止まるまで、俺は目を逸らし続けた。
ここで逃げなかったのは、『相棒』が心残りなので、見捨てるわけには行かなかったらだ。
グチョグチョ......
音が止まった。
チラリと見る程度に、横目で様子を確認する。
触手が俺に、赤黒い硬そうな石を差し出してきていた。
「こ、これは...?」
興味本意でその石に触れるが、ヌルっとした感触に、思わず手を引っ込める。
指先には、赤い液体...恐らく血液が付着していた。
仄かに伝わる温かさと状況的に、鹿の体内から取り出された物だと考える。
拳ほどの大きさの石が今まで体内に入っていた理由はよくわからない。
触手にも赤く血液が付着していたが、ウネウネと動いたと思ったら血液を取り込んでしまった。
ついでに、石と俺の指に付いた血液も取り込んでくれた。
「この石、俺にくれるのか...?」
触手は『NO』と言いたげに触手を横に振る。
こちらの言うことが判るのか、と驚いたと同時に、『相棒』の方から音が聞こえた。
見てみると、給油口が開いていた。
...
車に燃料を入れるのは、給油口から。
コイツが『相棒』を乗っ取ることで瞬時に使い方、操作の仕方を理解できる特殊能力を持ってると仮定すれば、コイツの要求は...給油口から『コイツにとっての燃料』を入れろという事だ。
口の広さ的にそこから入れる事が出来るのは、液体、もしくは小さな固形物。
血液かこの石か、状況を見るに、恐らくこの石を要求しているのではないか、そう考えるのが妥当だ。
俺はその石を触手から受け取って、給油口に近づいていく。
反応は特にない、間違いである時はさっきのようになにかしらのジェスチャーで返してくるはずだ。
俺は給油口のキャッブを空けて、渡された石ころを投入した。
給油口をしっかり閉め、俺は数歩後ろに下がる。
もしこれで元気になってまた爆走し始めたら、今度は俺が挽き肉にされてしまうかもしれない。
ちゃんと、いつでも逃げれるように身構えておく。
さてどうなる、と俺は『相棒』を見つめる。
暫しの沈黙を挟んで...
...
ペカーッ!
『相棒』はまたもやヘッドライトを目映く光らせて、まるで唸るかのようにエンジン音を響かせる。
回転数を上げ下げしているのか、本当に動物が唸っているかのようだ。
どうやら、今ので元気になったらしい。
ガス欠まで解決したのか、一体どういう原理だ?
ヘッドライトの光はまるで嬉しさを表現しているかのようだ。
だが今までの例でいくと、今度も『相棒』は走り去っていくのではないか?
そう思った矢先、『相棒』が動き出した。
「あ! ちょっとまてよ!」
咄嗟に『相棒』を呼び止めようとする俺。
そのまま『相棒』は走りだし...俺が呼び止めた所で急停止、俺の目の前までバックで戻ってきた。
すると...
カパッ
助手席側のドアが開いた。
...乗れ、という事だろうか。
どうやら俺は、必要とされているらしい。
今度こそ『相棒』に置いていかれたくないと思い、すかさず乗り込む。
ドアを閉めようと思ったら、勝手に閉めてくれた、便利だなぁ。
端から見たら、俺が『相棒』もとい乗っ取りスライムに捕まったかのように見える光景...何処かワクワクしていた俺には全然気にならなかった。
自分の車の助手席に乗って運転されるという体験は初めてなので、少し新鮮。
ちょっと楽しそうかも、そう思いながらシートベルトを着けると、ゆっくり『相棒』は動き出す。
俺と『相棒』は共に森の奥へと進んでいった。
興味が出たら、是非ブックマークをつけていって下さい。
見ている人がいるだけでモチベーションがモリモリ湧いてきます。