3 謎の祠、襲われる『相棒』
主人公の乗っている車は、藍色をした四人乗りの普通車です。
形だけでも車種を決めようかと思ったけど、具体的な車種名を出していいか分からないため、後々変更が入るかもしれません。
ここは異世界、断言は出来ないが常識的に考えて、ここは地球ではない。
あんなものが自由に飛び回っていたら、毎日テレビに出てるわ。
巨大な体で悠々と飛び回ったり、プカプカ浮かぶ島とか、現実だったら考えられないような物理法則への反逆だ。
...もしかしたら発見されてないだけで、ここはそういう摩訶不思議な現象が存在してる地域だったりして。
でも日本の小さい国土にそんな『摩訶不思議』が隠れる余裕なんてあるのだろうか。
実は政府が隠していた秘密の実験場に迷い混んだ、だとか、実はドラゴンは生物兵器で、他国からの侵略とか。
いくら陰謀論をでっちあげても、俺が喰われそうになった事実は変わらない。
そんな陰謀論こそ荒唐無稽なファンタジーだし。
取り合えず、この現実を見つめなければならない。
ここは安全ではない、ということだ。
.........
車の中に有ったものの整理をしながら、俺は次の行動を考える。
1.洞窟の中に隠れる。
2.『相棒』で森を抜ける。
3.『相棒』は洞窟に隠して、俺だけ森を抜ける。
1は、今いる場所が雨が降ったらびしょぬれになるような場所なので、屋内に籠りたいと考えたから。
でも、こんな森の中の洞窟、もしかしたら熊が住んでいるかもしれない。
果たして、洞窟が安全かどうかは調べないと分からないので保留にする。
2は、森とは言ったものの俺の車ならなんとか通れなくもない、隙間に余裕のある森だったから。
抜けるだけならそれでも良かったんだが、舗装されていない、木々の根っこでガタガタしている地面を走るのはちょっとキツい。
もし熊でも出たら後戻りが困難であるため、現実的ではない。
3は、気持ち的にも選びたくないし、俺としても現実的ではない。
森の中で熊に襲われでもしたら、今度こそ俺はゲームオーバーだ。
運よく森を抜けれたとして、残された『相棒』が熊に壊されたら元も子もない。
現状の打開案は全て『想定:熊』に負けた。
ここまでで、出来ない事は粗方出し尽くした。
次は現状何が出来るか、何を持っているかを確かめなければならない。
荷物の整理を終わらせ、改めて確認。
手持ち:
・圏外のスマホ
・サイフ(所持金:3000円と1万札と多少の小銭)
・水
・コンビニのおにぎり
・漫画雑誌
・ビニール袋
・非常食
・懐中電灯
スマホは、今やメモ機能が付いた計算機でしかない。
それも、いざというときに使えないのも困るため、充電を気にしてあまり使えない。
役に立たなそうだ。
途中コンビニに寄って昼飯を買ったときに、小腹が空いたときのために鮭と昆布のおにぎりを買っておいた。
水は天然水、雑誌は毎週買っている物で、ちょうど新刊が出ていたため購入。
非常食とか懐中電灯は、車乗りなら常備しておくべき物なので揃えてあった。
遭難とか豪雪に見舞われ、孤立したときに役に立つらしいとテレビで見たので準備していたが、初めてテレビの知識が役に立った瞬間である。
ちゃんと不測の事態に備えて準備をしていた俺を誉めてやりたい気分だ。
お陰で、多少なら洞窟の中を探索出来る。
もし洞窟の中が安全なら、ここを拠点として活動が出来る。
少なくとも、野晒しのまま車中泊をして、またドラゴンもしくは危険生物に襲われる事はなくなる。
目下の安全のため俺は洞窟探索をすることにした。
一応、ビニール袋に水とおにぎりを入れて持ち歩くことにした。
どれだけ洞窟が続いているか、判らないからだ。
懐中電灯を使って、道を照らす。
ゴツゴツとしているわけではない、何処か掘削されたような印象が強い、洞穴のような地形。
天井はそれなりに高く、ジャンプをしても頭をぶつけない高さ。
横幅も広いので、歩くには苦労しなさそうだ。
しかし、ジメっとしていて、懐中電灯の灯りが届かない先には暗闇が続いており、どこか不気味だ。
昔、『相棒』とのドライブで真夜中に有名な心霊スポット、数年前に閉鎖された廃病院に行ったときは、人が居ない場所に存在する朽ち行く運命の構造物に、少し怖さを感じた。
だがその廃病院は後日、その存在意義を奪われる。
有名動画主が廃病院の肝試し動画を上げてから、連日のように人が押し寄せ一種の観光名所になってしまい、ゴミ等で散らかったその場所は、人気に溢れてしまった。
以前と変わって、全く怖くなくなった心霊スポットのレビュー記事には、『拍子抜け』だとか『おばけ屋敷より怖くない』、『俺のお母さんのほうが怖い』とか散々書かれていた。
自分達で評価を上げておいて、自分達の行いで評価を下げるんだから、本末転倒だった。
ちなみに今その廃病院は、人が近寄るには危険と言うことで、市の要請の元、取り壊しが決行された。
俺が行ったのは、廃病院がまだそれほど有名になってない時期だったので、一つの思い出として覚えている。
そんな思い出を思い出しなから、懐中電灯で照らされた道をスタスタと歩いていると、終着点、行き止まりに辿り着いた。
まだ5分も歩いていなかった。
そんなに深くなかった洞窟にちょっと残念な気持ちを覚えたが、深い洞窟に懐中電灯一つで潜るのもどうかと思うので、良しとした。
ただの、行き止まり...であれば戻るだけだったが、そこには、『祠』があった。
初見でも判ったのは、田舎とかで良く見るお地蔵様が小さい社の中に奉られていて、
『私は祠です』
と言っているも当然な見た目だったから。
明らかに人の手が加えられた構造物、人が居た証を、俺は徹底的に調べることにした。
...
全部調べるのに、1分も掛からなかった。
何もなかったからだ。
普通の祠、お札が貼ってある訳でも、何か名前があるわけでもない...逆に何も無さすぎて、お供え物とかも無い。
この祠を作った人には信仰心は無かったのだろうか...作って満足して置き去りにされたようなその祠を俺は可哀想だと思い、備え付けられた皿に手持ちの水を少しと、おにぎりを1個お供えした。
「無事に、家に帰れますように...」
そんな習慣があったわけではないが、折角なのでお祈りをする。
一般的なお参りの手順を踏んで、満足した俺は踵を返して、今来た道を戻ることにする。
ここには何もないし、熊が住んでいる訳でもない、危険は無かった。
それが判っただけでも収穫だった。
――――――淡く光る『祠』の姿は、何かある、といった雰囲気だったが、俺がそれに気付く事は無かった。
......
ポヨヨン...ポヨヨン...
「なんだ、これ...」
ジメジメした洞窟から戻り、俺はソコにいた『物体』に驚く。
一目で判った、RPGとかで良く見るアイツだ。
ぷよぷよとした、巨大な鼠色のスライム。
大きさは、俺の車よりもデカイ。
この世界は生物全てが巨大なんだろうか...
そもそもコイツは『生物』なのか?
疑問に応えるように、『仮称:ビッグスライム』はポヨポヨとした動きで移動を始める。
どこから現れたか分からないが、地面の跡を見ると、どうやらこの山の上から落ちてきたらしい。
ソイツが居た地面には、重量のある物体が落ちてきたかのような地割れが残っていた。
ビッグスライムが何処へ行くのかと、様子を見ていると...
ビッグスライムは洞窟の側に停めていた俺の『相棒』を、その巨体で包み込んだ。
『相棒』が呑み込まれてしまった。
「はぁ!?」
まさか俺じゃなくて、車を食べるとは...
冷静に驚くという器用な真似をしているのも束の間、俺は呑み込まれた『相棒』を救うために、走り出してビッグスライムを殴りまくる。
ポヨヨン、ポヨヨン
「駄目だ、物理じゃ勝てない...」
見た目は固そうだが、触ればその弾力性によって弾かれる。
ビッグスライムは、まったく俺の存在に気付かないのか恐らく『食事』を続けている。
俺は膝を付いて絶望した。
こんなところで意味のわからない生物に、俺の『相棒』が喰われるなんて...
なにも出来ずに、ただ呆然と眺めていると、ビッグスライムはその大きさをドンドン小さくしていく。
一回り、二回り、ドンドン小さくなっていき...
そこには、五体満足の『相棒』だけが残された。
「...え?」
『相棒』を呑み込んだビッグスライムは消滅して、呑み込まれた『相棒』だけがそこに残ったのだ。
一体、さっきまでポヨポヨしていたあのビッグスライムは何処に...?
俺は『相棒』に駆け寄り、無事を確認する。
特に変わっていない『相棒』の様子に、俺は酷く安堵した。
「はぁ、よかった...
でも、アイツは何処に隠れたんだ?」
あの巨体が隠れれる場所は無い、なにせ車よりデカイのだ。
あのビッグスライムが大きさを変えれるとしても、一体何処に隠れたのか。
車の中には居ない、では車の下?
俺は車の下を覗き込む。
隙間に居るかもしれないので、奥まで良く見ようとして頭を突っ込んで見ると...
ブルン...
「あれ?」
エンジン音が、鳴り響いた。
程なくして、車が動き出す。
「うわわっ!」
頭を牽き潰されそうになり、俺は咄嗟に車の下から避難する。
咄嗟だったので、上手く立ち上がれず俺は尻餅をついた。
運転席には誰も乗っていなかったし、エンジンも掛けていなかったはず。
ピカー!
突然ひとりでに動いた『相棒』は、ライトで前方を照らし、そして走り出した。
器用に木々の間をすり抜け、地面にタイヤ跡と俺を残して、『相棒』は森の奥へと走り去っていった。
呆然と、一連の流れを見ていた俺は...
「...あ、『相棒』に、見棄てられたッ!?」
意味のわからない状況に混乱して、泣きそうになりながら俺は絶叫した。
見てくれる人が居る限り、この小説は続くと思います。
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