2 トンネルを抜けたら、そこは異世界でした
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「どこなんだここは...」
謎のトンネルを抜け、事故ってから30分程度が経ったか。
車が見える範囲までこの森を散策し、戻ってきた。
結論、ここは森である。
だって、木、しかないのだから、森、以外考えられ無い。
強いて言えば、前は森だが後ろには断崖絶壁...真上を向かないと見切れないほどの高い山、その麓であること。
目の前の絶壁には『洞窟』の入り口が存在すること。
そして、恐らく俺達が出てきたのはこの『洞窟』からであることが予想されるということ。
地面のタイヤ跡が洞窟の入り口まで続いているのだ。
この洞窟から出てきたのなら、洞窟を逆走すれば戻れるはず。
だが、タイヤ跡は洞窟の入り口手前で消えている。
こんなでこぼこした洞窟の中を走ってきたのなら、振動とか音とかで分かるはずだから、やはり俺達が通ってきたのはこの洞窟では無いのだろう。
じゃあ、一体俺達は何処から来たんだろうか。
俺は途方に暮れて、少しの間頭を抱える。
...
まず、現在地の把握をしよう。
スマホで確認する。
ダメだ、圏外だ、最早スマホは、この状況では役に立たないゴミとなった。
カーナビのGPSシステムなら検討くらいつくはず。
エンジンを入れる、通常通りエンジンは始動した。
...カーナビは何も言ってくれなかった。
電子系統の故障なら、そもそもエンジンも動かない気がするし、カーナビだけがピンポイントで壊れる不幸に見舞われたと考えるしかなかった。
万事休す。
愚かなり現代人。
文明の利器を失って、如何に自分達が無力であったかを思い出すとは...
俺の不注意で傷付いてしまった『相棒』によりかかって、空を見上げる。
眩しい太陽、広がる青空、白い雲、昔国語の教科書で見たような形の雲の隙間からふよふよと出てきたあの浮島は...
「ラピュ○!?」
そんな馬鹿な、何かの見間違いか、目擦ってもう一度空を凝視する。
...やっぱり、○ピュタはあったんだ。
遠くの空で、プカプカと島が浮いていた。
何故? どうして浮かんでるの?
あり得ないはずの現象に俺は瞬きすら忘れ、呆然と立ち尽くす。
不意に、鳥が飛んできて通り過ぎたのを見た。
一瞬だけ見失った『ラ○ュタなるモノ』は、雲の合間へと姿を消していた。
...もしかしたら、疲れ過ぎて幻覚を見たのかもしれない。
俺は、空を優雅に飛んでいる鳥を見つめる...
...
優雅? 本当に?
なんか若干勇ましい気もする...
グオオオオォォォ...
「ん?」
バッサバッサと翼を打つ『鳥?』は遠くの空で、鳥とは思えない鳴き声を上げながら、旋回し、此方へと向かってくる。
此方を認識しているかのように。
「グオオオオォォォッ!!」
「ぎゃあ!!!」
あまりの爆音に、森と大地と俺の心臓が揺れた。
悲鳴を上げながら、俺は尻餅をついた。
さっきまで小さかったそのシルエットはドンドン大きくなり、次第にその巨大な体が露になる。
最早それは、『鳥』なんかじゃない。
―――――――『ドラゴン』。
ファンタジーの世界、お伽噺の世界でしか語られないはずの存在。
だが、強そうで、カッコいいと、全ての男児なら思うであろうその体躯を見て、本物を見たことが無い俺でも『ソレ』が本物である事を容易に理解できた。
喰われる、そう思った。
恐怖のあまり、体は動かない。
ヨダレを垂らしながら大口を空けて此方へと滑空してくる様はまるで、獲物を見つけた獅子が飛び掛かってくるようで...
好奇心は、猫を殺す。
イギリスの、
『猫は容易に死なない』
という意味の諺を元に、
『好奇心は猫すら殺す』
という意味で使われている言葉だ。
今の俺にピッタリの言葉だ。
お父さん、お母さん、後悔が残る人生しか歩めなくてごめんなさい、俺は今日、自分自身の好奇心に殺されるみたいです。
後生ですが、パソコンは粉砕機で砕いて燃えないゴミの日に出して下さい...
今まで『相棒』と走ってきた数々の道を、辿り着いた場所を思い出す。
...
それしか、走馬灯で思い出すことは無かった。
俺のエピソード記憶には、他の思い出は存在してなかったようだ。
最後まで悔いが残る人生だった。
そう思い残して、俺は死を覚悟した。
バシャーーーン!!!
「グギャァァァァ!?」
突然、轟音が大気を揺るがす。
まるで滑空してくるドラゴンを迎撃するかのように、森から雷が迸る。
...何を言っているか分からねぇだろうが、俺も分からねぇ。
文字通り、青天の霹靂。
森の何処からか放たれた雷は、見事ドラゴンに命中した。
ドラゴンはプスプスと黒煙を上げ、悲鳴を上げながら、頭上を飛び去っていった。
「た、助かった...」
まだ恐怖で立ち上がれない俺は九死に一生を得た安堵から、地面に仰向けに寝転がり、空を仰ぐ。
さっきまでの、ファンタジー要素やらハプニングやらの詰め込み過ぎから一転して、周囲は静寂に包まれる。
...遠くで、またドラゴンが鳴いている気がする。
雷に撃たれたのだ、どんな生物でも自然現象には勝てない。
...いや、あれは自然現象なんかじゃなかった。
明らかに、森から放たれた雷がドラゴンを貫いたのだ。
浮かぶ島、巨大なドラゴン、迸る稲妻。
ファンタジーの世界でしかお目にかかれない、否、ファンタジーの世界だからこそあり得るその現実は、俺に妙な確信をもたらした。
「...俺ってもしかして、異世界に来ちゃった?」
トンネルを抜けたら、そこは異世界でした。
更新は不定期になりますが、暇な時にでも続きを更新するつもりです。
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