エピローグ
「マリーベル様――いえ、ベルンハルト様。正式な王太子任命おめでとうございます」
「ああ、マルクルか。ありがとう」
白いチュニックの上にサーコートを羽織り、すっかり艶やかな青年の姿となったマリーベルは朗らかに笑う。長い金髪は緩くまとめられ、肩から垂らされている。
王都に帰ったマリーベル、改めベルンハルトの王太子任命の着はつつがなく終わった。
いま、彼は従者が手渡した水を飲みながら、祝いのパーティーで談笑している。
「……で、ベルンハルト様は一体、何の闇魔法を使ったんですか?」
「……何のことだ?」
無言で振り向いたマルクルの目線の先、螺旋階段の手すりの向こう側の陰に、淡い水色のドレスを着たリリアンヌがぶつぶつと呟いている。
「……あれは男装している美少女、あれは男装している美少女、はー、男装までしちゃう男勝りな美少女って素敵……」
「……闇魔法といいますか、黒魔術といいますか……」
従者がぽつりとつぶやく。
「違う、違うぞ、違うからな。俺は何もしていない。自分で自分に言い聞かせているらしい。ちょっとまだ、受け入れるのに時間がかかるそうだ」
「そうなんですか……あの、なぜ皇太子殿下と従者殿はアンヌと僕の間に入るんですか?」
「しらばっくれないでくださいよ!」
従者が顔を覆いながら言った。
「解決を手伝うと言いながらあなたが起こした、リリアンヌ様の尻馬に乗って被害が拡大した騒動の数々! 今あなたとリリアンヌ嬢の間は少なくとも5メートル以上、二人以上の人間を挟むことが不文律ですよ!」
「酷いなぁ、僕はただ好きな子にいい所見せたかっただけなのに」
「好きな子……」
笑顔のまま固まったマリーベルに、従者がつぶやく。
「本当にこれ以上、邪魔しないであげてくださいよ……先は長そうなんだから……」
「マリーベル様……」
リリアンヌがふらふらと近づいてくる。その左手には巫乙女の指輪がしっかりとはまっている。
マリーベルが言う。
「ああ、やっと現実に1メートル範囲に近づけるようになったか。悪い、マルクルは3メートル下がってくれ」
「マリーベル様!」
リリアンヌはうつろな目を輝かせた。
「あなた男装も似合いますね!」
「おおっと、また新しい扉を開いてしまったか……」
「リリアンヌ様、本当に……本当にこれ以上道のりを長くしないでくださいね……」
従者は嘆く。
「あら、大丈夫ですよ」
リリアンヌは輝くように笑った。
「何をしていたって、マリーベル様は私の光なのですから!」
以上をもちまして完結になります。
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