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第4話 辺境伯の噂

 次の町にも三日いた。

 三日目にはほとんどの人が元気になっていて、仕事が暇になった。

 アニエスは再び、次の町に向かって歩き出した。


 そうしていくつかの町を旅するうちに、アニエスは気づいた。


「私、有能すぎるかも」


 小さな町なら二日か三日、大きな町でも一週間か十日もいると、大体の人が元気になってしまう。

 病気の人や怪我をしている人がいなくなると、聖女の商売は上がったりだ。


「どこか、もっと怪我人や病人が大量にいるところに行かなくちゃ」


 治癒の仕事を続けながら、アニエスは町の人に、どこかにそんな町がないですかねぇ、と聞いた。


「王立病院には、怪我人や病人がたくさんいるよ」

「あー、王立系は、ちょっと……」

「なんだい、あんた。お尋ね者か何かかい?」

「そういうわけでもないんですけど、王立系には、ちょっと嫌な思い出が……」

「だったら、ドンパチやってるとこだ」


 ドンパチ。


「私が危険では?」

「自分は治せないのか」

「はい」


 残念ながら、聖なる癒しの力の源は自分の生命力なので、自分が弱っている時は使えない。

 アニエスが修行で培ったのは、これでもかという状況に置かれても、滅多にへばらない丈夫な身体と決して折れない鋼鉄の心だ。

 

 そんなアニエスでも、ドンパチはアレだ。ヤバい。

 王宮内で働くことを想定した修行だったので、戦闘時の訓練は一通り受けた程度だ。


 戦争の多い時代なら、もう少し力を入れていたのだろうが、今のバシュラール王国はまあまあ平和だ。


 とはいえ、アニエスの頭には「ドンパチ」の一言が刻まれた。


 町から町へと大量の病人や怪我人を癒しながら移動するうちに、バシュラール王国最北部にあるフォールに着いた。

 北の大国ルンドバリ皇国に接する辺境だ。


 フォールに入って一つ目の町で最初に施術したのは恋の病に侵されているという妙齢の女性だった。

 それ系は無理と医者なら言うだろうが、アニエスは聖女である。

 治せる。治せるが、治してやるとたいていキレられるので、念のため確認した。


「本当に治しちゃっていいですか?」


 女性は質問には答えず、胸の前で手を組んで言った。


「フォールの辺境伯、ベルナール・トレスプーシュ様をご存じ?」

「いや。知りません」

「とっても素敵な方なの。背が高くて、ワイルドで、超イケメン。黒い瞳がたまりませんわ」

「あのー……、治しちゃっていいですか?」

「治して。私のこの恋の病を治せるものなら治してちょうだい!」


 アニエスは治した。

 そして、キレられた。


 トキメキを返せと。


 しかし、冷静になっても女性はたんたんと証言した。

 ベルナール・トレスプーシュなる辺境伯が魅力的なのは事実であると。


「へえ……」


 その町でも、アニエスは人々を治しまくり、三日もすると閑古鳥が鳴くようになった。


 いつもの町と少し違ったのは、ベルナール・トレスプーシュにかかわる恋の病が非常に高い頻度で持ち込まれたことだ。

 ちょっと興味を持った。


 そろそろ次の町へ行くかと、いつものように当てもなく歩き出したところで、せっかくならベルナール・トレスプーシュを訪ねてみようと思った。

 彼は辺境伯だと言う。


 辺境伯(マークグラフ)と言えば、国境を守る軍事的な役割の強い爵位だ。

 大変な役目だし、すぐに判断しなくてはいけない場面も多いので、強い権限が与えられている。

 伯爵(ル・コント)より上、だいたい侯爵(ル・マルキ)と同じくらいの身分。偉いのである。

 

 辺境は「ドンパチ」と言うか、ちょっとした諍いが盛んなようだし、お城の中は前線ほど危険ではないだろう。

 お城にいて、敵にやられた人が来たら癒す、的な仕事があればいいなと思った。

 そこに置いてもらえれば、着の身着のままの放浪の旅も終わる。


「辺境伯に会いに行こう」


 アニエスはトレスプーシュ辺境伯の城のあるフォール郡の郡都を目指すことにした。


「フォールの一つ目の町の皆さん、ごきげんよう。どうぞお達者で」


たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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[良い点] キレられるの含めて恋の病を治すって斬新で好き。
[良い点] はがねのこころ [一言] w 読み始めました! あー面白い
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