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第11話 採用

 アニエスはスタスタと歩き出した。


「なんで、俺が……」


 鼻に皺を寄せるベルナールに、「とにかくその目で見てください」と兵士たちがしきりに促す。

 ついて来ないなら、それはそれで仕方ない、とりあえず施術だ、と城門に向かったアニエスだったが、意外にもベルナールは兵士の言葉に従ってついてきた。


 ドミニクが小声で囁く。


「うちの閣下は、口は悪いしぶっきらぼうだが、話のわかるお方だ」

「そうなの?」

「嬢ちゃんのことも、きっと認めてくださる」

「だといいけど……」


 励ましてくれてありがとうと、ドミニクに礼を言う。

 

 泉の神様が言っていた。

 目に見えるものが全てではないよ、と。


 見た目で判断されたくないと自分が思うなら、相手のこともきちんと見なくては。

 口の悪い辺境伯の第一印象は最悪だが、ドミニクたちの話を聞く限り、嫌な人だと決めつけるのはまだ早い。


 汚いと言われた時は、さすがのアニエスもグサッときた。鋼鉄の心に楔を打ち込まれた。

 しかし、汚れているのは事実だし、旅をしてきたのなら仕方ないとベルナールは言った。蔑んだわけではなく、本人が言ったように、あれは「感想」なのだ。


 もう少し、言葉を選べと言いたいが……。


 城門には大勢の人が集まっていた。

 アニエスが近づくとワッと歓声が上がる。


「嬢ちゃん、水虫のお代だ」


 三列目くらいから、最初の町の水虫おじさんが銅貨を投げてよこした。


「わざわざ来てくれたの?」

「嬢ちゃんを追いかける列ができてるって聞いたんで、野次馬根性でついてきたんだ。街道は嬢ちゃんの噂で持ち切りだ」


 暇か、と思ったが、そうではなく、おじさんは足の悪い人に肩を貸して歩いてきたらしかった。

 きっと、よくしてもらえるからなと、隣のおじさんに笑いかけている。


 城門の前に集まった人を兵士たちが整列させ、ほかの兵士たちが松明を焚いて周囲を明るくした。

 ベルナールは何も言わずに、兵士やアニエスのすることを見ていた。


 右手に持ったのぼりをそのへんの土に差して、アニエスは施術を始めた。


 兵舎にいた患者は二、三十人ほどだったが、今度はその十倍くらいの人が集まっていた。

 肉をたくさん食べた後でよかった。

 アニエスは次々に、みんなの不調を治していった。


 重い病気やひどい怪我でここには来られない人もいて、代理の人がアニエスに相談に来ていた。できるだけ各地を回って、治せる人を一人でも多く治したいと思う。

 そうなると、ここにはいられないけれど。


 真夜中近くになって、全部の人の施術を済ませ、代理で来た人の話も聞き終わると、ベルナールが言った。


「採用だ」


 アニエスはうーんと顔をしかめた。


「せっかくなんですけど、私、やっぱり旅を続けるべきか、迷いが生じてきました」

「何?」

「あちこちから、診に来てほしいと言われてしまって」


 眉間に皺を寄せた辺境伯は「好きにしろ」と言った。


「ただし、全部の人間を助けられると思うな」


 厳しい言い方だが、真実だ。

 アニエスはまたうーんと唸って考えた。


「採用後に、アルバイトに出てもいいですか?」

「アルバイトだと?」

「ふだんはここに置いてもらって、時々よその町に出かけられたら、一番いいんですけど」


 都合がよすぎるかなと思ったけれど、ベルナールはただ「わかった」と言った。


「詳しい取り決めは明日だ。今夜はもう寝ろ」



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― 新着の感想 ―
[良い点] ツンデレ気味な水虫(かけた呪いは取消そう
[良い点] 水虫おじさん…(涙
[良い点] ちゃんと、水虫おじさんを回収してるなw [一言] 「残業手当をご所望です」の聖女ココちゃんのような強い逞しさをこのアニエスが纏うのか否か、さじ加減が難しいね。
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