最終話 月白の翼(D)
よく晴れて遠くまで見渡せる日。
小さな滝は今日も綺麗な水を流して領地を潤して去っていく。
「ふう……」
鳥の囀りなんて、たぶん今までは気に留めたこともなかった。
陽の光だって心地いいものだなんて知らなかった。
これもラウラの影響だろうか。
勿論今までもより良く治めていた。
その領地の内容を普段のお手伝いで詳しく知る事になれば、自然とこの何気ない部分に目が行くようになった。
平たく言えば視野が広がったって事なんだろうけど。
「ラウラまだかな」
ドゥファーツへ一時的に戻っているラウラを一日も待てない。
そういうとこは変わらないんだから困ったものだよ。もっとスマートに待って、帰って来たラウラを余裕で迎えるとかしてみたい。
「……」
いやでも考えてもみれば、色々な事から解放されて本来の明るさを取り戻したラウラは自由なわけだ。なんでもできる、なんでもやれる。普段から持っていたそれを抱え使えるようになってしまった。
「僕がいないとダメってなればいいのに」
ラウラの自立力を考えると到底ないだろう可能性だな。
そもそも僕がこんなに不安になるのって、ドゥファーツの結婚式で、離縁はどうかしらなんてラウラが言うのが悪い。
いくら僕をからかう為とはいえ、離縁を掲げるのは恐怖だ。
まあそんなことしようものなら全力で阻止するけどさ。
芝生の上に寝転がって空を眺める。見事な晴天、鳥が高く飛んでいるのが見える。
「ダーレ」
ラウラに名前を呼んでもらえるだけで幸せだけど、久しぶりに愛を囁かれたいかなあ。
早く生きて動いてるラウラに会いたい。抱きしめたい。いい匂い嗅ぎたい。
これ言うとまたフィーとアンに変態だなんだ言われるから気を付けないとな。もう無意識に口にしてしまうから。
「ん?」
真上を飛んでいた鳥が旋回して、だんだん近づいてくる。
近づいて落ちてきてるそれは鳥じゃない。
目を凝らして見れば、それは段々近づいて来て、それが何か悟ったのは、その形がはっきりと分かる頃だった。
「ラウラ」
「ダーレ」
上半身起こしたところで、ラウラが空から落ちてきた。以前、うまく減速できないのは、まだ飛び慣れてないからと思っていたけど、違う。これが通常運行なのか。
「うそ……」
大きな白い翼が太陽の光を反射して輝いている。
決して紛いものではない。
空に良く映える月が東の空に昇る際に見せる明るく変化していく時の白色。
月白の翼。
「ダーレ、戻ってきたわ」
そうやって笑いかける彼女にやっぱりすぐ胸がいっぱいになってしまう。
もう本当泣きそうだよ。
思わず抱きしめれば小さく悲鳴を上げた。
僕はそうやって美しく降りてきた君に全部奪われていったんだ。
「ラウラ、好き」
肩が震えた後に、遠慮がちに僕の背中に腕が回された。
「……ええ、私も好きよ」
僕はきっと、この日見た光景を生涯忘れることはない。
これにて完結です。
世界線のフラグ回収は次回作へ。よければご覧下さい。
最終話までお話をお読み頂き、本当にありがとうございます。




