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49話前編 これが幸せなのかなって(D)

「……ラウラ?」


 目が覚めて、ベッドの中には僕だけだった。

 あれ、ラウラと一緒に寝たはず。

 ラウラってばエミリア姉さんの縁談を僕の縁談と勘違いして、二人目の奥さんやめてって訴えにわざわざ僕を探しにやって来た。

 ラウラが焼餅を焼くなんて最高すぎて、もうその日は記念日にしたい勢いだったよ。


「……夢?」


 いや、あれは現実だったはずだ。

 あの後フィーとアンに見つかって、手紙だしてなかったことを散々怒られたけど(ラウラが勘違いしちゃったし、失念してたとはいえ申し訳ないと僕も反省したけど)、ラウラが納得してくれたから許してもらえた。

 というか、僕がラウラ以外を好きになるとかないんだけど。やっぱりもっとラウラへの愛を出してもいいな。これからは嫌という程、愛を囁こう。


「主人、起きられました?」


 長年一緒だと僕が起きるのもわかるみたいで凄いなとしみじみ思う。


「ラウラは?」

「お早う御座います。朝、開口一番がそれですか」

「はいはい、おはよ。僕にとって一番大事なとこだろ」

「ええ、存じております」

「で、どこ?」

「階下に。庭の薔薇の手入れをされています」


 相変わらずだな。

 庭師と一緒にやってる姿が想像できる。

 

「てか、そんな遅くないのに? むしろ早いというか」

「ええ、いつもの時間より早いですね。王女様もかなり早く起きられていました。庭を散策され、再お披露目の場を確認されて、その上で薔薇園にいらっしゃいます」

「朝餉は?」

「主人と一緒にと仰っているので、まだですね」

「なにそれ、可愛い」


 貴方が食べないからですよと言われたけど無視した。

 僕のために待ってるってとこがいいんだよ。

 勿体無いとかそういう話はなかったことにした。


「なら、さっさと準備していくか」

「はいはい」


 朝が早すぎても周囲は優秀で、朝食はいつもでいいとばかりの準備の良さだった。

 朝食の匂いが美味しそうって感じるようになったのは、やっぱりここ最近だな。


「ドゥファーツへ行く準備は?」

「問題ありません。いつでも」

「手紙は?」

「昨日返事がありました。いつでも問題ないそうです」

「ありがと。じゃ、あとはラウラ次第かな」


 ラウラは勘違いして怒っていたけど、あちらは問題なかったらしい。

 リラもいるから全部分かった上で、ラウラに何も言わずに行かせた可能性があるな。いやすごく貴重なもの見られたからいいんだけど。


「ラウラ」


 階下、薔薇園によれば、朝の光を浴びた薔薇の中に彼女がいた。

 精霊と会話でもしているのだろうか、時折笑いながら剪定している。

 最初の僕の声は届いてなかったけど、程なくして気づいたラウラと目が合った。


「ラウラ」

「ダーレ」


 微笑む。

 そしてこちらに駆けよってくる彼女を見て、なんだかもう胸がいっぱいになった。


「お早う」

「あ、ああ、うん。おはよ」

「ダーレ?」


 挙動不審になった僕に小首を傾げ見上げてくる。

 ゆっくりした動作で髪を撫でるとされるがまま受け入れて、どうしたのと小さく囁いた。


「ラウラ、ちゃんといるなって」

「何言ってるの?」


 僅かに笑う。

 触り心地のいい髪はさらりと指の間をすり抜けていく。

 指の背で頬を撫でると目元を赤くした。


「たぶん、うん、これが幸せなのかなって」

「ダーレ?」


 寝ぼけているのと問われた。

 失礼な。


「ラウラも大概フィーとアンに似てきた……」

「そんなことないわ」

「目が覚めてラウラがいるんだっていうのが最高だっただけだよ」

「そう」


 視線を逸らすとこを見るからに、恥ずかしいのかな。まだ目元は赤いままだし。


「でも出来れば目覚めたら僕の腕の中にいる方がいいな」

「え?」

「ううん、なんでもないよ」


 同じベッドで目が覚めたらラウラがいないっていうのは、少し淋しいものがあった。

 ラウラの寝顔を見て、起きる彼女を待つのが性に合ってるのかも。

 ずっと追いかけていたのに不思議なものだな。


「そうだ、ダーレ。ドゥファーツに行くのはまだ先よね?」

「うん」


 僕が朝食を食べているのを見て、周囲は納得の表情になる。なんで僕が食べない事がそんなに罪なのか。料理長だけじゃないの。


「仕事は?」

「片したから余裕があるけど」


 ラウラは相変わらず背筋良く、フォークとナイフを置いてから話しかけてくる。

 僕が適当に応えていた事に、ぱっと明るい顔をして。うん、可愛いな。


「なら、お手伝いに出ましょう」

「はい?」


 予期せぬ提案に驚く。

 お手伝いってあのお手伝い? 領民の仕事の?

 言えば、そうだと頷いてくる。

 まあ昼過ぎに出たって、ドゥファーツへは余裕だけど。

 なんだか肩透かしをくらった気分だ。


「それ、やるの変わらないの」

「勿論よ」


 当たり前と言わんばかりの様子に、思わず笑いが漏れた。

 よりにもよって、その部分がぶれないなんて。


「大丈夫よ。もう贖罪でやろうとは思ってないから」


 何気なく呟かれたラウラの言葉に安心する。彼女はもう僕と会った頃の彼女ではなくて、きちんと進んでいけているんだと気づいた。

 まあそれにしてもほかの連中に愛想振り撒くのはなんともなあ。

 領主の妻としては型破りながら良い姿とも言えるんだけど。


「フィー」

「問題ありません。連絡はこちらが手配しましょう」

「オッケー」


 じゃあラウラ。

 手を差し出せば、するりと添えられる。


「行こうか」

「ええ」

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