48話後編 私ったら、なんて勘違いを(L)
「ダーレ」
「ラ、ラウラ?!」
領地に飛べば、あっさり見つかった。
ダーレのお屋敷の庭で作業中だったから。呑気なものね、私を放っておいて。
何をしてるかよく見れば、以前と似たような装飾、たくさんの人が食事出来るような配置。
「結婚式の、準備?」
「うっ……」
気まずそうなダーレ。なによ、ここで私以外の女性とも式を挙げるというの。
「そう、結婚式……」
「ラウラ? まあ式というよりパーティーみたいな感じだけど」
「どちらでも変わらないわ」
私の声音にダーレが小首を傾けている。
今はたまたま一人なのか、フィーもアンもいなかった。
思う存分追及できて丁度いい。
「ダーレ、どうして領地に?」
「えっと……」
「ドゥファーツには戻る気がなかったの?」
「そういうわけじゃないよ」
「手紙の一つぐらいくれればよかったのよ……すぐ帰ってくると思ってたのに」
早く戻ると言ったのはダーレだわ。
やっぱりあの時私はダーレに行ってほしくなかった。それが勘としてこういうことになると分かっていたのだわ。
後にも先にもダーレのお兄さんの時だけ曖昧に見えただけだと思っていたけど、そういう占術が使えるようになってきたのかしら。大婆様にきいてみよう。
「ご、ごめんね? その、連絡できなくて」
「……縁談は?」
「え?」
「縁談の話があったって」
「あ、ああ」
得たりと言わんばかりの顔をする。
まさか本当に?
しかも何も思うところがないような表情、所作。
少しでも心痛めてくれるとか、さっきみたいに気まずいとか、そういう気持ちを出してくれと思っていたのに。
「私、嫌よ」
「え?」
「ダーレの奥さんが私以外にいるの。二番目になるのも嫌」
「はい?」
「とぼけないで。ユーバーリーファルングの王として妥当な相手が必要だと聞いたわ」
「ラウラ、それ……」
私では役不足かはきけない。肯定されたら辛いもの。
いくら王都の貴族に小国の王女が敵わなくても、ダーレが私を好いてくれているということが、唯一断言できるところだと思っているのだから。
そこを違えたら駄目だわ。
「言いづらいからって何も言わず、勝手に縁談進めるなんてひどい」
「待って、ラウラ」
「ダーレの奥さんは私でしょう?」
「んんっ」
「嫌よ……私だけがいいの。他の女性と結婚しないで」
「ラウラ!」
勇気を出して言ってみたはいいけど、急にダーレに抱きしめられて困惑する。
私は真面目な話をしているのに、抱きしめて誤魔化す気?
「や、やめて!」
胸を叩く。一発殴るとは言ったものの、こんな形になるのは不本意だわ。
「あー、ラウラ可愛い、本当ダメ」
「え? ダーレ?」
腕の力を緩めてくるから、囲われたまま見上げると、久しぶりに見る瞳が蕩けている。甘い顔に頬に熱がともった。
「嫉妬してくれたの?」
「え? 嫉妬?」
言われ少し考えたら、じわじわその言葉がしみてくる。
ずっと納得できなくて、苛々して。他に女性がいるのが嫌なのは、そう、間違いなく、嫉妬していた。
「可愛い」
「あ、え、ちが」
「僕は縁談受けてないよ」
「……はい?」
笑顔のままダーレは続ける。
「縁談を受けたのはエミリア姉さん。まあほぼ決まりみたいなものだから、僕含めて顔合わせはしたけど」
「え?」
だってフルリンさんの会話では、縁談を受けたのはダーレだったのに。
そもそもフルリンさんが勘違いしてたってこと?
「結婚式の準備は……」
「ここでの結婚式、兄さんのせいで散々だったから、やり直ししたいなって」
「え……」
いい記憶にしたいから、私に内緒で準備していたらしい。ドゥファーツで式を挙げた後、領地に戻ったら驚かそうと思っていたみたいだけど。
いえ、もうそんなことよりも、今までの私の言動と行動が……。
「わ、私ったら、なんて勘違いを……」
「僕にとっては結果オーライだから全然いいよ」
「や、やめて! さっきまでのはなしにしましょう!」
「えー? やだね」
顔が熱い。半端なく恥ずかしいわ。みっともない姿を晒して。
「僕はいつもこのぐらいラウラが自分の気持ちを言ってくれる方がいいな」
君ってばいつも遠慮がちだし、とダーレ。
「我が儘だわ」
「可愛い我が儘ならいいんだよ」
本当今日最高の日だと、ダーレが笑う。
「調度よかった。明日ドゥファーツに戻るから一緒に行こう」
「え、あ、ええ」
「で、結婚式挙げて、こっち戻ってパーティーだね」
「ぱーてぃ……」
もうすっかりダーレの調子に飲まれているわ。それでも、それが心地いいと思ってつい委ねてしまった。私も変わったものね。




