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48話前編 もう待てない(L)

 王都には相変わらず、精霊たちの気配がしなかった。

 正面から堂々と入るべきだろうか。

 以前のように誰かがこちらに気付いてくれるとは限らない。


「どうしようかしら」


 見張りにばれないギリギリの所を飛んでいては、見えるものにも限りがある。

 その中でよくよく見ていたら、城の敷地内、古くから残っているだろうガゼボに見知った顔を見つけた。すぐに急降下して降り立てば、見知った二人は目を丸くして驚いた。


「エミリア王女殿下、クララ王女殿下」

「え?」

「はい?」


 空からの侵入者に慣れていないのか側付の近衛兵ですら反応が遅れる。

 手にした銃に力を入れ構えようとあげかけたところで、自身の主人から止められ、戸惑いそのまま主の命をきいている。


「ラウラちゃん? 本物?」

「はい」

「びっくりしたわー、天使なのマジなんだね」

「まじ?」


 そういえばダーレも言っていたような気も。まじとは何。


「あの、ダーレは」

「リーベ? とっくにたったわよ?」

「え?」


 しかも領地に。

 ドゥファーツではなくて領地、しかも随分前に王都をたっている。

 どういうことなの。ここにとどまる必要があるはず。いえ、領地のお屋敷に呼ぶと言うこと? だから準備に?


「まさかあいつ手紙の一つも寄越してないわけ?」

「……はい」

「最悪」


 弟でも同じ王位継承者、あいつという呼び名はどうなのかと思ったけど、ダーレのとこが仲いい証だと思って何も言わなかった。


「私、縁談があると聞いて来たんです」

「ん? 縁談?」

「はい」


 有無を聞けば、縁談はあったとわかった。


「縁談は終わったわね」

「リーベは三日前に出て行ったし」

「三日も前に……」


 やっぱり追いかけるしかない。

 両殿下にお礼を伝え、再びその場から離れようとした時に呼び止められた。


「ラウラちゃん」

「はい、何か?」

「少し失礼な事訊いても?」

「? 構いません」


 ありがと、と眉を少しだけ寄せて小さく笑いながら私に問う。


「私達は兎も角こうして貴方に悪意のある者はたくさんいるわ。撃とうとする人間も」


 と、先程銃を構えた側付の近衛兵を指して言う。

 特段反応を示さない側付。彼らは言われれば私を撃つだろう。それがその人達の使命だなのだから仕方ない。

 騎士に限らずにはなるけれど、その中で、私達一族を忌み嫌う者もいるだろう。


「貴方が沢山撃たれて辛い思いをしたと聞いているわ。一族だって相当数亡くなっているし、住む場所も追いやられてる。それでも恨んだりはしないの?」


 長い歴史もさながら、私自身も痛みを伴う事ばかりだった。

 けれど、ここにきても、私の応えは決まっている。


「はい、もう恨みません」

「そう……」

「恨んだ時もありました。勿論今も辛い事を言われたり、悲しい事だってないわけではありません。それはこの先も同じでしょう」

「そうよね……」


 私達一族への偏見がそう簡単になくなるわけではない。羽狩りだってどこかでまた生まれるし、この人たちの兄のように、私達が悪だと信じ、亡き者にしようと襲撃に来る者もいずれはまた現れるだろう。それで傷つくことがあっても。


「それでも私は許そうと思いました。そう思えたのはダーレのおかげです」


 ダーレは私に与えてくれるばかりだった。

 私に羽があろうとなかろうと、王族として魔法が使えようが使えまいが、彼は私自身を見てくれた。その上で、私だけを選んでくれた。


「私、ダーレのとこへ行きます」

「ええ、無粋な事を訊いたわ」

「いいえ、心砕いて頂けるだけでも嬉しいです」

「……本当あいつには勿体無いわね」


 苦笑する。そうして私は飛び立つ。

 ここまで私を引っ張り上げて、ここまでダーレの事ばかり考えるようになったのに、縁談の話を受けて終わらせているなんて。

 しかもドゥファーツじゃなくて領地に戻っていたなんて。

 苛々もさながら、どうしても会いたいという気持ちが競り上がった。

 もう待てない。

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