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46話後編 ボコり終える(D)

 場所が場所だから誰も近づけないと思っているだろうな。

 残念な事だよ。


「よっと」


 こういうことしていると、自分が泥棒みたいだなと思えてくる。

 死角となる背後、断崖絶壁にロープと杭使って登ってるなんて。

 まあ途中までラウラの二番目のお姉さんと屈強な騎士の翼を借りて登ってはきたけども。

 そっと顔を出してみれば、完全に油断している姿が見える。

 行ける事を確認して、フィーとアンに指示を出す。

 登り切っても誰も気づかないとはなかなか笑えるな。

 それじゃあ遠慮なく声もかけずに撃ち落とすとしよう。


「……あ、いたいた」


 静かに始まり、一瞬ざわつくも、僕らと反対側からも攻撃を受けて壊滅状態に陥った一個師団の中から目的の人物を見つけ出した。

 銃を落とされただけで負傷無し。

 僕に見下ろされたからかは分からないけど、最後に大ぶりの拳を振るってくるものだから、軽く避けてかわす。


「そういえば、ずっと思っていたんだよね」

「え」

「今に見てろよって」


 僕の拳が痛いけど、まあそれ以上の痛みを与えてやったか。

 殴られた羽狩りは唸りながら殴られたところを手で押さえている。


「ラウラが受けた痛み、そのまま返そうか?」

「え?」


 まさか控えていた場所が、かつてラウラを落としたところなんだから因果なものだよ。

 胸倉掴んで引きずって崖の際まで連れて行けば、何をされるかわかった羽狩りが僕の手を掴んだ。


「や、やめ」

「躊躇なく彼女を落としておいて、よく言えたものだね?」


 首に跡まで残して。

 折角なので、崖の下が良く見えるよう顔の向きを無理矢理変えて見せてやれば、悲鳴を上げた。

 ラウラは悲鳴も上げずに耐えていたというのに。


「同じ目に遭っても文句は言えないよね?」

「え……」


 まあ僕たちの時のように助かる事はないだろうけど。


「ダーレ」

「おっと」


 強張った声に手を離した。

 男は這いつくばったまま、ずりずりと崖から離れて後退していく。

 その遥か先に眉を寄せてこちらを見やるラウラがいた。


「もういいわ」

「……分かった」


 目配せで指示を出して羽狩りを完全に動けないよう拘束した。

 ノッチュ城へ連れて行くよう指示を出しつつ、ラウラに向き合う。


「格好悪いとこ見せちゃったね」

「いいえ」


 本当はこういうえぐいとこ見せたくないんだよね。

 まあ最初から見てないだろうから、まだマシか。

 正々堂々と言えないやり方をしたからね。声もかけず数を減らして、最後動揺を誘って挟み撃ちなんて、騎士は兎も角、王としてやるべきかと言われると邪道だとは思う。

 僕はヒーローに向いてないな。もっと真っ直ぐで桁違いの力がある人物がやるべきだね。


「ダーレ、貴方が私に見せたくないと思っていても、私は貴方と一緒に見届けたいわ」

「え?」

「どんな凄惨な事でも。私は貴方の妻だから、貴方と一緒に背負いたい」

「ラウラ」


 真実僕がこんなに陰惨なことに及んでいても、ラウラはそれを受け入れるというの。

 ただでさえあれもこれもとラウラに対して欲張りになってるのに、そういうこと言われると困るじゃないか。


「うん、ありがと」

「ダーレ」

「でも、僕も男だから格好いいとこだけ見てほしいんだよね」

「……そういうことを言いたいんじゃなくて」

「まあまあ」


 ほら、まだ終わってないよと言って、彼女の肩を抱いて方向転換。

 この国の中だと精霊の事もあるから大方知られてしまっている気もするけど、それでも好きな子の前では格好つけたいって思うのは男として当然の事だと主張してみる。

 だから君は僕のえぐいところは見えてなくていい。それが表面上であっても。


「ラウラのとこは?」

「全員捕らえる事が出来たわ。ネルさんも」

「ありがとう」


 ラウラの逆行のおかげで無事取りこぼしもなく全員捕らえる事が出来た。

 早馬で応援を呼んだから、明日には移送の準備が整うだろう。

 僕が処遇を決める事に関しては誰からも異論はなかったし、丁度いい。


「ではラウラはこちらで預かりましょう」

「よろしくお願いします」


 城でラウラは姉二人に預けた。

 残念ながら、僕は寝ずにやらなければいけないことが増えたからね。


「ダーレ、無理は駄目よ」

「分かってる」


 ああもう平和が来たと思ったらこれか。


「ラウラといちゃつきたーい」

「言葉を選んでください」

「誰が好き好んで徹夜で事情聴取するのさ?」

「王都へ帰ってからやりたくないでしょう」


 まあそうなんだけどね。


「自分で選んだはいいけど、結構ハードワーク」

「ご自身で選んだのであれば、どうぞ責任をとってください」

「労わってよ」

「ダーレさん」


 フィーとアンを連れてこの城で唯一拘束に向いている、地下の倉庫の扉の小窓から知っている顔が僕を呼ぶ。


「やあネル」

「あの出してくれません? 僕の立場知ってるでしょ?」


 知っているよ。

 けど、今回僕は結構怒っているんだ。


「兄と僕との間でだけ中立なら良かったんだけどね」

「え?」

「戦争を起こして儲けようという立場なら、王位継承者としては見過ごせない」

「それは」

「王都まで無料送迎だ、喜びなよ」


 さっとネルの顔から血の気が引く。これもあれだな、今に見てろよだな。

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