46話前編 逆行後、包囲戦開始(D)
炎が引いていく。
人の流れも、僕の傷も。
日の入りが近いのを見るに、夕餉前か。
「よし、じゃいっちょやりますか」
「ダーレ?」
「前と同じだよ」
城へ戻ると、広間にラウラの姉二人が側付を伴って、リラと話をしていた。
「おや、戻ってきたかい」
「大婆様」
さすがリラといったところか。
今僕らがラウラの魔法を使って時間を戻したことを知っている。
「説明は済ませた」
二人の姉が頷く。
「姉様方」
「ラウラ、どうするのかしら?」
「……国が燃えるのを黙って見ているのは嫌」
「そう」
「ダーレが……いえ、誰も傷つかないで終わらせたい」
「分かったわ」
協力しましょう、とラウラの姉は王として頷いた。
* * *
前と同じとはいっても、今回は国一つ巻き込む規模だ。
僅かな時間でやる事が多い。
まずは国の民を城の中へ避難、それもあちら側に気付かれないように静かに。
かつ、あちら側が攻め入った場所を特定しないといけなかった。これはノッチュ城の背に聳える山の頂に控えている見張り役とリラの側付である鷹と鷲の羽を持つ人物が担ってくれたおかげで、早い内に特定できた。
「にしたって、あの愚兄はやってくれるよ」
「いつからこの規模で」
「領地でラウラを撃ったあたりでは動いてただろうな」
ネルにラウラの存在を知られ、それがそのまま兄に伝わり、多額の金を積むことでネルにドゥファーツを特定させる。
結婚式でラウラを撃つことで僕を王都へおびき寄せ、その間に手薄になった領地とドゥファーツを狙う、これならスムーズに事が運べる。
領地に僕がいた場合、ドゥファーツへの往来が多ければ気づかれる可能性もあるし、気づくのが遅くても援軍を送る事が出来る。だからこそ、領地から僕を離す事が第一の目的でもあった。
そうなると、あの日撃つのは僕ではなくラウラで間違いない。
「誤算だったのは、僕に負かされた事か」
「主人の仰る通りでしょう。騎士部隊は第一王太子殿下の命がなければ動けません」
兄とベゼッセンハイト公爵、もう一つの騎士部隊が拘束され、地下牢に入った流れで、この計画は中止になってもおかしくはない。
それでも決行したのは、公爵の指示と羽狩りの存在。
羽狩りは雇われこそされど、命令に忠実である必要はない。兄や公爵から報酬が手に入らないと分かれば、金になるドゥファーツの有翼人種を狙うのは彼らにとって当然の道理と言える。
また襲うタイミングについては手慣れているから、夜更けを狙いかつ民の居住地から攻めた時点で羽狩りが主導だろう。
そしてあの公爵の事、自分達が合流しなくても動けるよう私兵に指示を出していただろうし、なんなら羽狩りに従って動くよう言っていた可能性もある。
ともあれ、非常に厄介な独立武装部隊が出来上がっていたわけで。
「で、大きく三つに分かれていると」
「はい、どれも羽狩り、私兵、騎士部隊を分散させ構成しています」
「バランスいいね」
そういえば、会いたい人物がいたんだった。
「そうだ、あいつどこにいる?」
「あいつ?」
フィーに伝えれば、すぐに理解し、場所を報告してくれる。
「じゃ、僕こっち」
「私とアンも」
「オッケー」
「ダーレ」
おっとラウラが一緒に行きたがってる。
でもちょっと格好悪いとこ見せる事になるから、一緒は勘弁してほしいな。
「んー、どうしても出る?」
「ええ」
一度決めたら動くだろうことはよくわかってる。
「なら、ネルを先に捕まえてくれる?」
「あの若い商人?」
「そうそう。一緒に行けないから、すっっっごく嫌だけど、側付になるかもしれなかった二人をつけて行って」
「ルカとニノのこと?」
「うわ、名前呼ばないで」
「主人、器量が乏しいですよ」
うっさい、ラウラが他の男の名前口にするだけで嫌なんだからな。特にあの二人はラウラに好意がある。間違いない。
「色ボケも甚だしいですよ」
「え、何も言ってない」
「大体わかります」
フィーとアンとでいつもの掛け合いをしていると、ラウラが苦笑しながら、分かったと頷いてくれた。
「ネルさんの事が終わったら、ダーレの所へ行くわ」
「分かった」
それまでに終わらせればいいだけか。
そうして他の人員の配置と、捕らえれるまでの策を練って、襲撃前に動くに至る。
「気を付けてね、ラウラ」
「ダーレも」
すっごく癪だけど、ラウラの元側付に任せるしかない。この国の近衛兵である以上、剣の扱いや王女を守る術については見についているはずだ。今は信じるしか……うん、ちょっとむかつくわ。
「主人」
「はいはい」




