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7話 一番上は治癒、二番目は強化、三番目は逆行(L)

「……そうだ、姉様に頼めば」

「王女様?」


 彼の怪我を見留めて気づく。そうだ、レナ姉様なら傷をすぐに治せる。


「城に。姉のところへ行けば怪我を」


 すでに騒ぎを聞き付けて人が多く出ていた。

 件の賊は捕まっていないようで、ひりついた声が飛び交い、騒がしく人が行き来している。気づいたいくらかの大人がダーレを見て、やはり城へと声をかけた。

 子供たちは別の所へ避難したのか会う事はなかった。道すがらアンが子供たちは安全な場所へうつしたことを教えてくれ、幾ばかりか胸のつかえがとれた。


「姉様」


 謁見の間に行く前に、姉様達と会う事が叶った。城に入ってすぐの大広間にいた姉様達は王を守る親衛隊と話しているところで、すぐに隊は外へ出て行った。

 そこに声をかけると、ひどく難しそうな顔をしてこちらを見留める姉様。

 ダーレを助けて。怪我をしているから、姉様の力で。

 そう訴えると、眉を寄せ静かに瞼を閉じ、首を横に振った。


「ラウラ、エルドラード辺境伯には私達の魔法(ちから)はきかない」

「え……」

「それは貴方がよく知っているはずよ」

「……あ」


 思い出した。私はあの日、彼の前で使おうとした魔法(ちから)を使えなかった。あの日に失われた私だけの魔法。私が使えなければ、当然姉様も。


「そんな……」

「ラウラ、僕は大丈夫だから」

「そうです、主人は案外丈夫ですし」

「それに被虐嗜好なので」

「違う、そこは違うからな」


 すると奥から滅多に出てこない人物が現れた。特にこの一ヶ月、ダーレの前には意図的に出ようとしなかった、この国に唯一残る占術士。


「大婆様」

「私がどうにかしましょう」


 ダーレ達を一瞥して、大婆様は来なさいと静かに言って歩き出した。ダーレが行く意思を示し、両脇の二人が支えながら進む。姉様たちに視線を戻せば、軽く頷かれた。ここは大婆様を頼っていいということだ。


「名前をきいても?」

「皆と同じように大婆と呼ぶよう」

「はあ……」


 大婆様の名は国の者なら誰もが知っている。敢えて名乗らないのは彼が外から来たものだからだろうか。意図的に彼を避けていたあたり、いつもの大婆様とは随分違うみたいだけど、彼を留まらせることについては認めていたし、留まらせるようにと言っていたのも大婆様だ。


「ここは……」

「大婆様専用の占術部屋よ」


 不思議そうに目線を彷徨わせるのも無理はない。大婆様の部屋は占星術等で使う道具がひしめいて囲み、天井は星が見えるように細工がしてある。国の者でもここに入れることはそうないのに、会うことを避けていた彼が急にここに招き入れられることに違和感を感じた。彼の怪我をどうにかするのに、場所をここにする必要がないから。


「あちらの部屋で背中を流しなさい。水も拭く物も用意してあります」


 彼らは麓では縁のないこの部屋に臆する事無く、背中を洗いに進んでいった。さすがに私はそれに付き添えない。


「ねえ大婆様、どうして?」

「古い友人との約束だね」

「約束?」


 使うであろう薬を用意しながら、いつものように話してくれる大婆様に変わった様子は見られない。


「大婆様、どうしてダーレを避けていたの?」


 私に会う事はあっても、彼と顔を合わせる事はなかった。城の中での顔合わせにもいなかった。時折会話の端々に大婆様の名前が挙がっていたから、彼も存在自体は知っていたと思うけど。


「会いたくなかっただけさ」


 どうしてと問うと、笑って誤魔化された。

 同時、ダーレ達が戻って来る。上に着ていた物を脱ぎ、大婆様が用意した布を肩にかけて。彼の素肌が見えて思わず視線をそらしてしまったけど、いけない、怪我の様子はきちんと見ておかないと。


「大婆様……」

「背中だけだね」


 用意していた小さな瓶の蓋を開けた。フィーが少し警戒した様子で大婆様の持つものを指してきく。


「それは?」

「南の隣国で使われている塗り薬ですよ。即効性がある方がいいでしょう」

「南?!」


 驚いたのはダーレだった。

 南の国は険しい山々を超えた先にある。この国の中心・王都側も未だ辿り着けていない未開の国はずだ。その国の物を持っていれば、驚かれても無理はない。


「どうやって南へ……」

「我々は飛べるからね」


 なんてことないと言った風に返し薬を塗れば、塗ったところから治っていく。これが南の国の力。魔法が万人に伝わり発展した国。私達のような一部の人間だけが使える特別なものではない。


「すごい」

「え? どうなってる?」

「塗ったところから傷が消えています」


 見えない本人が一番気になるのだろう。見たいと言ってもそれは無理と侍従に返され肩を落としていた。仕方ないと不服そうに目線を天井にあげている。


「ねえ、ラウラ」

「なに」

「君の言うちからって何?」


 いけない、軽々しく言っていた。姉様の魔法ちから。そう簡単に話していいことじゃない。彼の怪我を治したいと思って、姉様に了承も得ずに話していた。


「この国には王族しか使えない魔法まほうがあるのですよ」

「大婆様!」

魔法まほう?」


 この国では魔法まほうというものは伝承の代物だ。ただし、この国の中にある小国ドゥファーツでは別。この国では、王族がそれぞれ一つだけ、魔法まほうというチカラを所持している。


「いずれは知る事になる」

「姉様方に了承を得てないわ」

「話してはいけない事であれば、先程咎めていたはずさ」

「え、あ……」


 姉様は何も言わず、そのまま話を進めていた。つまりそれは彼らにこの魔法ちからのことを知られてもいいということ。


「ラウラ、話したくなければいいよ」


 困ったようにそう言った。

 ダーレは私を助けようと崖から落ちて庇ってくれた。そして今の今までずっと一緒に国に尽くす事をしてきた。ただ客人として滞在すればいいのに、私と同じことをして。

 彼は一ヶ月誠実に私達と向き合った。姉様が何も言わず許してくれたのなら、話してもいいのではと、彼なら大丈夫ではないかという思いに至る。私は意を決した。


「……私達王族は一つだけ、魔法まほうが使えるの」

「ラウラ」

「レナ姉様は治癒、マドライナ姉様は強化、私は……逆行」

「逆行?」

「時間を戻せるの……ただ、もう使えないけど」


 それが貴方とあの日出会ってからだとは言えなかった。

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