39話前編 すっかりでーとを楽しんでいたなんて恥ずかしい(L)
「僕の連れが何か用?」
連れ立っていた商人数名が少し引いている。なぜ。
「なんだ、連れいんのか」
「……大方、まがい物を押し売ろうとしたってとこか」
売られてるものを端から端まで見て、ダーレが溜息を吐いた。
商人たちは納得がいかないとばかりに、ダーレに食って掛かった。
「ふざけんな、どれも値打ちもんだぞ」
値打ちものねえ、とダーレが呟いた。その声音は少し不快を滲ませていた。
彼らには聞こえなかったらしく、次にダーレが口を開いた時、心底驚く事となる。
「なら言わせてもらうけど、そこの茶器は取っ手のつける角度が違う。九十度じゃなくてやや内側に傾いた八十度と決められてる。そこの皿はくすんだ赤の装飾をしてるけど、そこの生産国では鮮やかな赤の墨があるんだよ。年月経っても色褪せないから幻赤墨とか呼ばれてる。そしてそこの宝石、こうして傾けて太陽に当てると色が変わるのに、透明のままということはまがい物で間違いないよね」
「な……」
「こっちの彫刻はさ、指のここ、真っ直ぐなんだよね。しかもこんな小さいのに爪にサイン入れるんだよ。これこの彫刻家しか出来ないから、すぐにわかる。それに」
ダーレったら、全部違うところ言えるのね。不謹慎だけど感心してしまったわ。
それは相手も同じだったのか、ダーレが全てを指摘し終えたら、言葉を失ってしまった。
ダーレは意地悪な笑い方して、最後に一言添える。
「今なら王都の騎士団にしょっぴかれずに済むけど?」
「チッ」
相手方は眉間に皺寄せて去っていった。
「すごいわ、ダーレ」
「感心してる場合じゃないでしょ」
振り向きざま、肩に手を起き、わずかな力で押されて壁に突き当たる。
いたく不機嫌そうだ。
「一人にならないで」
「ごめんなさい」
何とも言えない顔をして大きな溜息、そのままぐっと距離を詰めてきた。
「ダーレ?」
「他の男が触れたかと思うと堪えられない」
至近距離で捕まれていた手をとられ、目線の高さに持ってこられる。
わざとなのか、その場で私の手首に唇を寄せた。
「だ、ダーレ」
「黙って」
時間かけてる。わざとだわ。
やめてと言ってもきいてくれない。手を離そうにもがっつり掴まれてる。
「ダーレ……」
暫くして、ダーレの唇からやっと解放された。
ほっと肩を撫でおろすも、今度はダーレがさらに距離を詰めてきた。
耳元に唇が寄せられる。
「ちょっと」
さすがにだめよ、いい加減終わらせないと。
恥ずかしさに全身熱くて、どうにかなってしまいそうという時、落ちついたダーレの声が耳を掠めた。
「ラウラそのまま」
「え?」
「出てきた」
やっとそこで囮であったことを思い出した。
私ったらすっかりでーとを楽しんでいたなんて恥ずかしい。




