36話前編 嫌な知らせ(D)
「あは、ラウラちゃん可愛い」
「え?」
「違うの、リーベの言いたい事は違うのよ」
「え?」
「リーベは」
「姉さん」
最後まで言わせるか。ラウラの前では格好つけたい。散々格好悪いとこを見せてるから、出来るとこは少しでもね。
「引くわー」
「必死すぎ」
「……もういいよね、部屋に戻る」
「ラウラちゃん置いてって」
「馬鹿言わないでよ」
なら明日ゆっくり時間とってと姉さんが言うのを僕から断る。
ラウラはどこで言葉を挟むか悩んでいたけど、ここはもう一刻も早く二人きりになりたいから、そんな時間を与えない。
「なら暫く城にいなさいよ」
「必要ないだろ」
「お父様と話でもすれば変わるわよ」
なんだよそれと思ったところに、慌ただしい足音と扉を叩く音が部屋に届いた。
「入りなさい」
許しを得て入ってきたのは姉専任の侍従。顔面蒼白にして肩で息をしていた。軽く許しを得て侍従は言葉を選びながら報告をあげた。
「申し上げます。第一王太子殿下が、拘束を破り、姿を、消しました」
「は?」
つまり逃げられたってこと?
王都を封鎖すると言っているが、この広い王都の中には兄が隠れられる場所はいくらでもある。兄を支持する貴族がこぞって手を挙げるだろうし、そもそも今回の逃走もその類の手引だろう。
「最悪……」
「これで当面ここにいるわね!」
「ラウラが危険に晒されてるのに喜ぶって何」
「ここの騎士の質と数を比べれば、王都中の武力を集めたって敵わないわよ」
「むしろ、ここは囮を使ってあぶり出すっていうのもありじゃない?」
その続きが予想できて、うんざりする。
「ラウラちゃんと城下でお買い物ね」
「そう! すぐ出てくるわよ」
「明日私達とラウラちゃんとで出掛けるわ」
「駄目」
ねっていい笑顔でこちらに了承を得ようとするのを食い気味にお断りする。当然ブーイングを受けるわけだけど、そこは断じて譲らない。
「ダーレ、早く解決するのに必要なら、囮やるわ」
「ラウラ、君って本当お人よしすぎるよ」
「やれることをやりたいだけ」
ついさっき自分を撃ってきた相手をおびき寄せる為に囮になりますって、そうできないと思うけど。しかもラウラは撃たれることをずっとトラウマとして抱えてきた。それが解消して、良くなっているとしても、おいそれとトラウマの中に放り込むとかしたくない。
「出来るだけ早くお兄さんに会った方がいいわ」
「騎士達に任せていいと思うんだけど」
「ダーレ、私やりたいの」
ラウラが譲らない。
こうなると僕は折れざるをえなくなる。どうあったってラウラがやりたいことを手伝いたい。
「ラウラ」
「なに?」
「買い物なら僕としよう」
「え?」
いくら囮とはいえ、初めての城下デートは僕と。これは譲れない。




