34話後編 逆行リベンジ、愚兄を捕らえる(D)
「フィー! アン!」
「急にいなくなるから困りましたよ」
「ここでは私達をかならず連れてくださ、え、王女様?」
部屋に戻ってフィーとアンに再会すれば、二人には気を緩んだ隙にいなくなった程度の認識になっていた。
そして僕の後ろにいたラウラを見て、いつになく驚く。それもそうか、ドゥファーツに戻されたはずの彼女が急に僕と一緒にいるわけがないし。
「説明する。けど今は先にやらないといけないことがある」
「え?」
「どういうことですか?」
時間を確認すればラウラの言う通り、僕が城に来て間もない時間。この後、あの兄から旧迎賓館に呼び出される。あちらは動き出して、今は騎士を配置してる頃だろうか。
「え、王女様が?」
「ええ、驚かせてしまったわね」
事情を話ながらラウラが使った魔法のことから、これから起こることを話す。
そして僕がやりたいことも。
「兄さんを捕らえる」
「ではこちらの騎士を増やしますか?」
「今集められた人数でかまわない。正直、僕ら三人でもやれるし」
その数でも兄が用意した人数を超えている。包囲するには充分だ。
「よくこの人数集めたな」
「皆、第二王太子殿下を慕ってる者達ですよ」
「え? 僕、城にいなかったのに?」
「領地で世話になった者が過半数ですが、他は貴方の帰還を待っていたクチですね」
初めて聞かされた。
割と早い時期から僕は大伯父の領地を辺境伯として継いでいたのに。
「まあ殿下は知らないでしょうね」
「話せよ」
「はは、お断りです」
ひどい。
するとラウラが小さく笑った。
「ラウラ?」
「いえ、なんとなく分かってしまって」
「え?」
ここに集まる騎士達の気持ちと事情が?
もうそれエスパーだよ?
「殿下」
アンが周囲を確認し終え、かつ僕の元に兄からの謁見の話が来た。
あの時と同じ時間、同じ場所。
「いつでも」
「オッケー」
旧迎賓館、逆行前と同じ配置であることを確かめた上で、その死角や背後にこちら側の騎士を配置させた。
僕は兄が側付と共にいた所、その裏は使用人用の待機室。そこに潜みながら、ホールの扉が開かれるのを待つ。
「まさか王都に帰ってくるとは思わなかったな」
あの時と同じ台詞を言うものだから、なかなか笑える。
入ってきたフードを目深に被った人物に銃口を向けながら、せせら笑う姿は滑稽だった。
「……」
「どうした、だんまりか?」
「……」
フードに手をかけ、顔を出す。
当然、そこにいるのは僕ではない。代役はフィーに頼んだ。
兄は想像通りの反応を示し、僕はそのタイミングで突入を指示した。
「なんだ?!」
間近に潜んでいた事に気づけず、すべての騎士を確保。
僕は目の前の兄の腕を簡単に締め上げて、床に組み敷いた。
「残念だったね、兄さん」
「な、何故だ」
領地から飛んできて、何も用意できるはずのない僕が、大勢の騎士を引き連れ、この場を制圧できるわけがないと驚く様子を隠せないようだ。
まあそれもそうだろう。けど、僕が一人でここに来ても、フィーとアンは騎士達を控えさせていた。僕が撃たれなければ、逆行前もうまいこと兄達を確保できたのかもしれない。
「情報戦に勝った感じ、かな?」
「化け物を従えて国を落とす気だな」
「は?」
取り押さえていた兄の腕に負荷をかける。みっともない悲鳴をあげたけど、腕の一本くれても足りない。この愚兄は相変わらず失言が多い様だ。
「誰が化け物だって?」
それが暗にラウラのことを指しているのは明白だった。
「異形の者ではないか。飛び、魔法を使うなど」
「黙れ」
締め上げると骨と肉の軋む音がよく聞こえた。
「ダーレ」
呼び止められた声がひどく辛そうだった。そんな声で呼ばれたら、この愚兄の骨一本も折ってやれなくなる。
「……ラウラ」
「……」
首を横に振る。やめろということか。
「二度とラウラを侮辱するな。今度は腕だけじゃすまない」
「ぐ……」
仕方ないから力を緩めてやる。
フィーが兄を拘束し外へ連れていく手筈になった。ラウラと向き合うと真っ直ぐに僕を見上げた。
「君はあれを許すの?」
「……」
「ラウラは撃たれたんだよ? ドゥファーツを襲撃して沢山殺してるし、君達を人と思ってない」
「知ってるわ」
それでも、と続けた。
「今はその時じゃないわ」
「いつ裁こうが同じじゃないか」
あの愚兄がする事は変わらない。僕とラウラに危機を齎すだけだ。だったら今と思っていたのに。
「それは、」
「久しぶりだな、リーベ」
「え?」
兄側でも僕ら側でもない第三者が入ってきた。
ラウラは気づいて、すぐに正式な形の礼をとる。
供を連れ、ゆっくりこちらへ歩みを進める二人の男女。
周囲も動きを止めて出来るものから礼をとる。
すっと目の前の人物が手を挙げた。
「そのまま続けなさい」
「お待ちください!」
兄が叫ぶ。
捕らえるのは奴らだと訴えながら。
「お前は飲まれてしまったね」
「違う! 私は正しい!」
悲しそうに呟いて兄を拘束しているフィーに視線を送り頷いた。
そのまま抵抗し叫び散らす兄を連れ出していく。
「ベレンシュレク第三王女殿下、顔をあげなさい」
「……」
顔をあげたラウラは王女としてそこに立っていた。それに申し訳なさそうに眉を寄せる目の前の二人。何故そんな顔をするのか。
ラウラの手を引いて対面する。
王陛下を前に。
「父上、母上」




