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33話前編 二度と僕らの前に現れるな(D)

 二階バルコニーの窓が一つあいていて、そこから白い羽を持って僕を見下ろしている。


「ラウラ」


 気づいた兄がラウラに向かって撃ってきた。

 あの化け物を撃ち落とせと叫んで。

 その言葉にかっと血が上る。


「この、」

「ダーレ」


 ラウラの声に我に返れば、この銃弾の嵐の中で僕の元へ飛び降りてきた。

 同時、ラウラの背後から、それはもうごつい銃が出てきて豪勢な音を立てて連射される。


「王太子殿下」

「申し訳ありません、王女様の安全が第一ですので」


 といいながら、意気揚々と撃ちまくってるけど、そこは言及しない。

 今はラウラのことが第一だ。


「ラウラ」


 抱き留めてラウラを感じる。


「夢じゃない」

「馬鹿言わないで」

「だって」


 倒れた柱の影に隠れる。

 フィーとアンが応戦してくれてるから、こちらは一旦安全だ。


「怪我は?」

「姉様に治してもらったわ」


 よかったと言おうとしたら、それどころじゃないでしょうとラウラに怒られた。


「なにも持たずに行ったって聞いて」

「ああ……」


 心配したとラウラ。

 そんな泣きそうな顔させたくてしたんじゃないんだけど……くそ、悉く裏目に出るな。


「ダーレ、これ」


 するりとラウラの両手が出てきて、そこにあるものに目を瞠る。


「ラウラ」

「これを使って」

「けど」

「これを持たず、使わないと聴いたわ」


 それでも、とラウラは僕をまっすぐに見た。


「使って。貴方自身を守って……私は大丈夫だから」


 ラウラは全てわかった上で、これを僕に差し出したのだとわかった。

 身の危険を顧みず、僕にこれを渡すためだけに。


「わかった……」


 受けとる。

 一ヶ月以上使ってなくても、しっかり僕の手に馴染んだ。


「ラウラはここにいて?」


 すぐに戻るからと伝えれば、ラウラは小さく頷いた。


「じゃあ逃げるだけは終えようか」


 安全装置を外す。数と配置は把握している。多少動かれていても予測はたっているから問題ない。


「フィー! アン!」


 数に物言わせて撃ち続けていた手を留めてバルコニーの影に隠れる。

 同時、替えの弾を落としてくるあたり、本当用意がいい。


「ラウラを任せていい?」

「はい」

「構いません」


 その言葉に笑みを浮かべ、ラウラに視線を送った後、僕は飛び出した。

 当然狙いは僕に変わる。

 そこにフィーとアンが再び銃撃を再開、一瞬目標へのぶれが生じたところに、見える敵さんを次々と打ち落とす。

 次の柱に隠れるまでに三人、柱に隠れた後さらに三人、手を狙うか銃本体を撃って、戦線離脱を余儀なくさせる。


「弱いな」


 いくら正当な王となっていなくても、それなりの精鋭を連れているはず。

 なのに、ここまで弱いと逆に心配になってくる。まあ日々、命狙われて死線を潜り抜けていた成果ということにしよう。

 撃ち落とした相手の銃から弾だけ拝借してさらに撃ち落としていく。

 フィーとアンの助けもあって、潜んでいた騎士達は片付けたようだ。


「後少しか」


 騎士の数を減らし、やっと兄がいる場所まで到達する。

 今いる柱の向こう。僕の接近に気付いて、銃弾の嵐だ。

 そこに完全に周囲の騎士を片付けた、フィーとアンの物量多めの銃撃が兄達を襲う。

 柱に身を隠そうと銃をおろしかけた時、この時がチャンスだ。


「よし」


 走り出す。

 当然こちらに銃口を向けて撃とうというところを、側付の拳銃が飛んで行く。

 いいタイミングでフィーとアンがやってくれた。

 数が減ったとなってすぐさま銃を変えたな。さすが。


「ふざけるなよ!」


 兄の拳銃を弾く。

 そのまま走り近づけば、側付が剣を抜いて斬りつけてくるが、単純な軌道に避ける事が敵う。避けた後は相手の急所を殴れば、それだけで意識を飛ばして床に沈む。二人ならすぐだった。


「な、な……」


 兄は驚いて腰を抜かしたと思ったら、目が合った途端、僕に拳を振り上げた。

 それを避けて、腕を後ろに固めて床へ押し付ける。そうすれば全く動けなくなるので、そのまま片手で押さえつけて、銃口を後頭部に突き付けた。


「終わりだ」

「ぐ……」

「早打ち得意なんだよね」


 それもこれも全部兄さんのおかげだけど、なんて皮肉を加えてみる。

 兄さんとその取り巻きの貴族たちが、こぞって僕に送り込んだ刺客に対抗するために、銃の腕前や剣捌きや体術が無駄に身について洗練されたよ。


「貴様、不敬罪で処罰されたいのか?!」

「王にもなっていない兄さんに不敬罪もなにもあるか」


 仕様もない。


「このまま脳天撃ち抜かれたくなかったら、よく聞いてこちらの条件を飲め」


 兄は唸るだけだった。


「今後一切ラウラと僕に危害を加えるな」

「……」

「王位に就く事に僕は興味がない。ラウラと与えられた領地で暮らせれば、それでいいんだ。だから二度と僕らの前に現れるな」

「……」

「返事は?」

「……ああ」


 ラウラの前でこれ以上、暴力沙汰を見せるのは気が引けた。

 だから兄さんを解放して、そのままラウラの元へ向かおうと兄さんに背を向ける。

 後で王陛下立ち会いの元、書類による誓約をすればいい。


「ダーレ、だめ」

「え?」


 音が響く。たった一発だけ。


「ぐっ」


 ああ、やっぱり愚兄に温情なんていらないんだな。

 ラウラの前だからって、格好つけるんじゃなかったよ。


「ダーレ!」


 そんな顔させたくないのに、脇腹に感じる異常な熱さと痛みに膝をついた。

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