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32話後編 ラウラが王都へ行くまで(L)

「浅かったわね。弾も貫通してるし、よかったわ」

「……」

「そんなにむくれないの」

「だって姉様」


 レナ姉様の魔法ちからを借りれば、傷はすぐに癒えた。

 私は傷の有無以前にダーレの所に残りたかった。

 なのに大婆様ったら、ダーレを責めた挙げ句、彼の責任だと押し付けて私をドゥファーツに戻した。


「ラウラ。どちらにしろ、いつかは当たる問題だったさ」

「だからって大婆様ひどいわ」


 すらりとした手足、美しさは私が小さい頃から変わらず、日の入りの太陽のような髪を持つ大婆様は私達翼を持つ者の中でも長寿の種族だ。

 その証が龍の翼。

 占術士としての証でもある。

 その力の強さから、大婆様は自分の見た目も変える事が出来、普段は腰の曲がる老婆の姿をしていた。

 私達が持つ魔法とも違う。大婆様はそれを魔術と言っていた。

 当面その老婆の姿でい続けると思っていたのに、まさか本来の姿で現れるなんて。


「ダーレは悪くないわ」

「悪くなくても、あの男が解決しなければいけないものだ」

「私はダーレと一緒に解決したいの」

「あら、ラウラ可愛いこと言うのね」


 レナ姉様が呑気に言うけれど、私の本音はそこだ。

 今までダーレは私に寄り添ってくれた。私の問題を一緒にと言ってくれた。だから次にダーレが困る時があったら私がと思っていたのに。

 それを伝えると、大婆様は面白いと笑った。笑い事じゃないわ。


「変わったねえ」

「大婆様、笑い事では、」

「その選択肢を選ぶのか、ラウラ」

「大婆様?」


 元々、大婆様が現れたのは、見えた未来の事を鑑みた結果だという。


「可能性も踏まえて、あの青年に発破をかけてみたが、面白い方へ動いたね」

「大婆様、何が見えたの?」


 多くの選択肢の中、大婆様が最も有力視していた未来は、今の状況ではなかったらしい。

 実際、私を連れ戻しても結果は変わらず。そうなると自分のした事は余計なお世話だったと大婆様は苦笑する。


「ラウラは一族全ての鍵だった」

「鍵?」

「けど望まなければ、先の話になってしまう。お前はあれだけ撃たれ傷ついたのに、それを恨みもしないとはねえ」

「大婆様?」


 鍵でも自分で見て決めるという事に気付いてなかったと小さく囁いて、大婆様は何かを腑に落とした。


「ラウラ」

「はい」

「あの男と幸せにおなり」

「大婆様……」

「ラウラ、私達も同じよ。貴方の幸せをいつも願ってる」

「そうそう。飛べるようになって、良い男捕まえてさ」

「姉様」


 それが実現しようとしてたのにねと姉様が零す。別に遅くはないし、それで私とダーレの気持ちが変わるわけではないと思ってる。だから私は彼の元へ帰るの。

 大婆様も姉様達も私がもう行く事を知っていて、それでも止める事はしなかった。


「私、行くわ」

「本当すぐに行ってしまうのね」


 前のは私が追い出したのもあるけど、と淋しそうに笑う姉様。


「次来るときはゆーっくりしてもらえばいいじゃん?」

「そうね、こちらで式も挙げるのなら、尚更滞在期間を延ばしましょう」

「姉様」


 姉様二人の手が私の手をとった。優しく包まれる。


「気をつけて……」

「今度ラウラ傷ついたら、あいつぶっ飛ばす」

「姉様ったら」


 マドライナ姉様が殴ったら、ダーレは無事じゃ済まないわね。

 そう言うと笑う。


「大丈夫、私ダーレと一緒に帰ってくるわ」


 そうして私は二度目、バルコニーから飛び立った。


* * *


 領地まで来たら、精霊達がざわついていた。


「どうしたの?」


 きけば、すぐ応えてくれる。

 ダーレがいないこと。王都へ向かったこと。

 すぐに行く場所を王都へ変えた。


「え?」


 王都に近づくと、精霊達がいなくなった。返ってくる声がないし、気配も感じられない。

 この囲われた都には精霊がいないということだ。

 その王都の中心に、一際大きく聳え立つのは城。ノッチュ城よりも大きく、厳重な造り。

 たぶんこの城のどこかにダーレがいるはず。

 けど、これ以上高度を下げると、城の見張りに知られてしまう。

 どうしようと思ったところに城の窓が開いたのが見えた。

 顔を出したのはよく知る人。

 私がこれだけ高い所にいるのに私が見えている。


「王女様!」


 呼ばれたのがわかって急降下して窓からするりと入り込んだ。


「王女様」


 ダーレが信頼をおいている二人の侍従。


「フィー、アン」

「ご無事でしたか」

「よかった」


 傷のことは姉様の魔法(ちから)で跡もなく癒えたことを伝えれば、二人は笑う。けど、すぐに険しい顔になった。


「どうしたの?」

「主人が……」


 ダーレが単身撃ってきた相手であるお兄さんの元へ乗り込んでいったらしい。

 小さなナイフを一つだけ持って。

 銃はと私が問うと、アンが両手に銃を乗せて見せ眉を寄せた。


「あの人、持っていかないってきかなくて」

「そんな……」


 撃たれる危険があるのを重々承知しているのに。無謀とも言えるのに。


「それ、持っても?」

「え? は、はい、どうぞ」


 私がそれを嫌っていることを知っているアンは躊躇いを見せたけど、私にそれを持たせてくれた。重くて冷たい、私を空から落とすもの。

 彼が持たないと言ったのは、私がこれを初めて見たとき怖いと言ったからだろう。

 私が銃に過剰に反応するのを見て、彼はすぐさまこれは捨てようと言った。私がいなくてもそれを貫く必要はないのに。


「……ダーレはどこ?」

「旧迎賓館におりますが」

「……二人ともお願い」


 たぶん私が言うことを分かっている。それを望んでいないことも。それでも言わないと、動かないといけないときだと思った。


「私をダーレの元へ連れていって。これを、渡します」


 二人は黙って頷いてくれた。

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