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32話前編 王都へ進軍しようと画策しているとしたら、今一人でここに来ていない(D)

 元々、第一王子である兄は僕を目の敵にしている。

 大国ユーバーリーファルングの王位継承に男女差はない。

 大伯父から僕の祖父へ、祖父から父へ王位継承され、今現在は第一王子の兄が最有力、次点は二人の姉が王候補となっている。

 そもそも僕は大伯父から辺境伯を継いだから、王位継承の話から一抜けている。

 けど、兄はそう思っていない。

 悉く僕の命を狙っているのは、そこに理由がある。

 僕が生きている事だけで兄にとっては脅威なのだ。

 僕が辺境伯として優秀であればある程、兄はそれに怯えているような気がした。


「それで、王太子殿下。貴方丸腰で行くんですか」


 馬を飛ばして王都ザーゲに入れば、すんなり王城へ入る事が出来た。挙句、早々に第一王子である兄から呼び出しを受けている。建前は久々の帰還に対する謁見、本音は殺し合いの呼び出しだ。

 親である王と王妃を差し置いて、自分に会えって……昔から傲慢だけど今も変わらないな。


「それは持てないって」


 フィー、フィドゥーチアに小型の銃を渡される。

 それはラウラに出会ってから身に着けなくなったものだ。

 初めてラウラを抱きしめた時、彼女は感触で気づいたのか、隠していたこの銃を見つけて、顔を青褪めた。

 銃は怖いと細い声で主張されて、僕はあっさり拳銃を携帯するのを止めた。

 勿論、今後だって持つ気はない。


「拳銃一つも持たずに応じる等、死にに行くようなものです」


 アン、フェアトラウエンも珍しく心配してくれている。二人して険しい顔して。


「それなら、これを持って行くよ」


 手短なナイフを懐に入れた。気休めにもならないだろうな。

 苦笑して部屋を出ようとすると、二人は当然のようについてきた。


「兄さんは僕一人でって言ってただろ」

「しかし、あちらは一人ではないのは明白です」

「銃を持たないのであれば、我々だけでも」

「いや、いい」


 一人で行かないといけない気がした。二人は不服そうに用意されていた別室に残る。


「やれやれだな」


 呼び出された場所は、旧迎賓館のホールだ。

 古い別館で、まだ現役とはいえ、老朽化を理由に近く取り壊すか、修繕の後、文化遺産として残すかという話が出ていることまでは知っている。

 今はどうだか。

 柱も割と多くて家具の配置が手間というのもあったから死角は多そうだけど、退路は窓と入口だけだし、そこは押さえられているだろうな。


「リーベ」

「兄さん、久しぶり」


 手にはすでに銃を持っている。

 兄さん付の騎士が二人、隠れているのが二十人程。王都の騎士部隊を一つ持ってきた感じか。


「まさか王都に帰ってくるとは思わなかったな」

「兄さん、なんでラウラを撃ったのさ?」


 単刀直入に訊くと、兄は笑う。


「少数民族に配慮する必要はないだろう」

「僕の婚約者だったから?」

「絶滅すべき人種に人権を与える必要はない」


 兄は昔からこういう思考の持ち主だ。

 発展すべきは王都、国を治めるべきは王族、そして王族関係の血筋さえ繁栄すれば他は淘汰の対象。


「ラウラは僕の妻だ。兄さんは辺境伯の妻を撃った。それはあの領地とエルドラード辺境伯への宣戦布告ととっていいって事だね?」

「宣戦布告?」

「ああ」


 笑いが止み、急に顔が強張った兄は次に激高した。


「ふざけるなよ! 宣戦布告はお前がしてきたではないか!」

「してない。いつしたのさ」

「お前が辺境伯を継いだ。父上も母上もあの領地を認めた。お前はそうして力を集めては、この国を侵略しようとしているだろう!」

「していないし、するつもりもない」


 やはり兄の思考は昔のまま偏っている。

 いくら話しても僕がいつか兄のおさまるであろう王位を狙う悪として見ていて、その命すら狙っていると。


「ひいては、有翼人種を率いて王都へ進軍しようと画策しているではないか」

「しないよ。するんだとしたら、今僕は一人でここに来ていない」

「私の油断を引き出そうとしているのだろう? いいか、奴らは歴史上、我々の立場を幾度となく危機に陥れた一族だ。早々に根絶やしにすべきなんだ」

「兄さん」

「やはりあの時、残党を一掃出来ていれば」

「……は?」


 その言葉、聞き捨てならない。兄が何か仕掛けた事は明白だった。まさか、ラウラの両親が亡くなったあの襲撃は。


「やはりお前は邪魔だ。お前を殺して、あの一族も殺す」


 王への反逆罪だと。

 やっぱりだめか。

 僕の諦めと同時に一斉射撃。


「くそ」


 近場の柱に身を隠す。

 銃弾の嵐、まだ兄側、この中の奥側にいるから、柱を使えば避けきれるけど、そのうち包囲されるだろう。

 そうなる前に兄に近づかないと。


「よし」


 死角を通っていって、前方に進めば、一人目を見つける。

 ここまで接近していた事に驚き銃口を向けるけど、その前に急所を叩いて気絶させ銃を奪う。

 その様子に気付いた他の騎士が発砲、それを別の柱に退いてかわす。


「げっ」


 柱の際に黒い粉が巻かれている。

 すぐに走って後方へ戻るも、銃弾の一つがそれに当たって爆発した。


「マジかよ」


 柱が一つ倒れる。

 火薬をうまいこと使ってきたな。

 ギリギリで避けて、その影に隠れる。

 相手から奪った拳銃を眺めて、悩んだ末、その場に置いた。

 使えなかった。


「あーもうどうしよ」


 一人ずつ攻略するには数が多いし、それなりの腕の持ち主だから時間がかかる。

 そうなるとこっちが囲まれる方が早い。

 挙句下手に前方へ進めば、柱に火薬を仕込まれているから、爆発に巻き込まれる危険と、倒壊した柱に潰される可能性も出てくる。


「本気できやがって」


 ふと、頭上で銃声が耳に入った。

 今この中で使われている種とは違う銃器だ。見上げれば、閉じられていた大きな窓が開いている。

 同時、二階にいた騎士が全て撃たれて、階下に落ちるか、その場に倒れた。


「ダーレ」


 僕の名を呼ぶ声に僅かに震える。

 求めてやまない今すぐ聞きたかった声、けどこんな場所にいるはずがないと思考と思考がぶつかった。

 二階バルコニーの窓が一つあいていて、そこから白い羽を持って僕を見下ろしている。


「ラウラ」

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