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31話後編 好きならそれを貫けばよかったんだ(D)

「…………王族?」


 ラウラが瞠目して僕を見る。


「ねえ? エティンション王家、継承権第四位、第二王太子殿下」

「……」


 当然知られている事は重々承知している。なにせ、大伯父に連れられてドゥファーツへ赴いていた時は、いくら辺境伯継承者として対面していたとはいえ、元々の立場は伝えていたわけだし。

 リラの言葉にラウラがはっとして囁いた。


「……リーベ?」

「ラウラ」

「リーベ……やっぱりリーベだったの」

「おやラウラ、思いだしたかい? リーベ・ダーレ・ラコーツ・エティンション、正当な王位継承者で、お前の婚約者だよ」

「大婆様」


 僕の後ろをついて来て、来る度に僕の胸に飛び込んできていた幼少期、ラウラは僕の事をリーベと呼んでいた。最初の自己紹介でフルネームで伝えていたから。


「ドゥファーツ四大占術士、プリマヴェーラ」

「堅苦しい名で呼ぶな。ディーと同じように呼べと言っただろう」


 リラは昔から正式な名前で呼ばれるのを嫌がっていたなとふと思い出す。


「王女殿下の負傷、返す言葉も御座いません」

「はっ、畏まった所で事実は変わらんよ」

「しかし」

「どちらにしろ、王女はこちらで預かる」


 その言葉に、リラと同じ速さで空から切り裂く音と共に落ちてきた二対の翼。


「鷹と鷲……」


 リラの近侍か。近くにいた事に気付かなかった。

 鷹の羽と鷲の羽を持つ二人がラウラを抱える。


「やめて、大婆様! 私ここに残るわ!」

「駄目だね、これは王陛下の勅命だよ」

「でも」

「連れて行きなさい」


 鷹と鷲がラウラを抱えて飛び立っていく。

 止める事も追う事も出来なかった。


「王女の治療はこちらで行う」

「……分かった」

「お前は王族としてけじめをつけてきなさい」


 今後ラウラがこんな目に遭わないようにと。

 そう言って背を向けるリラに最後の問いを預けた。


「ディー伯父とは、どうして」

「はは、そこが気になるかい」


 背を向けたまま笑う。


「パラディーゾの事は気に入っていたさ」


 それは知っている。子供ながらに二人は想い合っていて結ばれるのではと思っていたから。


「南にギフトが届いた」

「え?」

「御先祖様からのギフトさ。同時期、王女の魔法が時を操るものだと分かった」


 ラウラの逆行の魔法が?


「条件が揃った。随分と早いようだけど、その時が来たら私達古来の一族は、あの子の意志に従うんだよ」

「何、言って」

「だから王族と共にする事は出来なかった」

「そんなの、詭弁だろ」


 好きならそれを貫けばよかったんだ。占術士のリラと、王である大伯父となら、別れるという選択肢以外のものを選べたんじゃないのか。

 僕の言葉にリラは面白いと言って笑った。


「いいねえ、あいつに似て変わった事を言う」

「リラ」

「王族として本来の歴史も学んできなさい」

「え?」


 無駄話は終わりだと言って、リラは飛び立った。

 降り立った時と同じく、一瞬だった。

 強い風がおさまり、残された僕は思わず片手で顔を覆った。


「あー、くっそ」

「主人」


 悔しいけどリラの言う通り、王族としては落第点だ。

 王族でありながら、王になる事に興味はなかった。けど周囲はそうではなかった。そういったしがらみが嫌いで、きつくて堅苦しいあの城から出て大伯父を頼った。

 大伯父は、かつて王としてこの大国を治めていた。

 少数民族の権利と立場を認める法を定めて、さっさと王位を僕の祖父に譲って。

 大伯父が辺境伯として過ごす事が正式に認められたのを知って、僕は王位継承権を捨て大伯父の立場を継ぐことを望んだ。大伯父は認めていたけど、まあ当然のことながら王側はいい顔をしていない。

 辺境伯としてエルドラード姓を受理されていても、実際はどうか。今日のありさまを見れば明白だった。


「いつかは来る話か」


 長く息を吐き、手をどかし、空を仰ぐ。

 もうここまできたら逃げられない。それなら動くしかないだろう。一刻も早くラウラを取り戻したい、それだけだ。


「アン、領民は」

「無事、全員を返しました。安全が確保されるまで家から出ないようにしています」

「ん、助かる。フィー、周辺の状況は」

「王女様を銃撃の後、早馬を使って王都へ向かっています。三人でこちらに侵入していました」

「へえ。撃ったのは兄さん?」

「はい」


 少数精鋭で確実に狙いを定めてきたな。今まで刺客を寄越してくるだけだったのに、直接来たということはあちら側、相当切羽詰まってるということ。


「主人、名を呼んで頂ければ、我々は共に」


 フィーとアンが膝をついて頭を垂れる。別にそういった格式張った言葉と所作はいらないと何度も伝えているのに。

 まあいいか、どちらにしても久しぶりに戻るのだから、気合いでもいれるとしよう。


「フィドゥーチア」

「はい」

「フェアトラウエン」

「はい」

「騎士として、王都への随行を」


 盛大な喧嘩といこうか。

 相手は僕とラウラに銃口を向けた人物、第一王太子殿下だ。

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