31話前編 領主としては及第点、王族としては落第点(D)
「ラウラ!」
ぐらりと身体が傾く。
落ちる。
そう思って迷わずバルコニーから飛んだ。
ラウラを抱きとめて、そのまま抱え込む。
二階だから以前の落下と比べれば大したことはない。
「!」
ラウラが羽を使って落ちる速度を緩めた。こんな時まで。
「ラウラ!」
衝撃もなく地に降りれば、バルコニーからフィーとアンが声を上げている。
メイドや執事が領民を素早く誘導している。銃声は響かない。あの二発だけ。
「う……」
「ラウラ! 怪我見せて」
肩を撃たれていた。一発目しか当たっていなかったらしく、肩の怪我以外、身体も羽も撃たれた形跡はなかった。
「大、丈夫」
「そんなわけないだろ!」
二度と遭わせないと自分の中で決めていたのに。
自分に腹が立って歯噛みする。この体たらく。
「本当に」
「え?」
妙にはっきり聞こえた声に顔を上げるけど、近くに声の主はいなかった。
「本当に体たらくにも程があるね」
「!」
気づいて上を向けば、黒い影が見えた。
見留めた途端、それは瞬時に降り立つと同時、腕の中のラウラはいなくなっていた。
「え?」
「やれやれだね」
声の主に視線を上げれば、大きな翼。ラウラとは違う、重厚で節だった爬虫類の皮膜、鱗のような硬さすら見える羽。
龍の翼。
「やらかしてくれたねえ」
燃えるような赤みを伴った長い髪、背が高く手足が長い、驚く程美しい美貌を持ちつつも、不遜とも言える雰囲気を纏う目の前の人物。覚えがある女性。
「……リラ」
「おや、覚えていたかい」
思い出した記憶にきちんと残っている。
彼女は大伯父の想い人だ。
外見が全く変わっていないから、すぐに分かった。
「大婆様」
いつの間にか、リラの傍にいるラウラが彼女を見上げて囁いた。
「え? 大婆様? リラが?」
それがどうしたと言わんばかりに見下ろされ、ラウラには何をそんなに驚いているのかと不思議そうに見つめられる。
「え、だって、あんなちんちくりんが、いきなり?! 頭身変わりすぎだよ!」
二頭身が八頭身になるってなに?!
「……この状況でよくそんな台詞を言えたものだね」
「っ!」
分かっている。ラウラを傷つけたのは間違いなく僕が判断を誤ったからだ。まさかあいつらがこんな早くに領地に着くなんて。
「判断を誤ったね」
「大婆様、ダーレは悪くないわ」
「ああそうだね、領主としては及第点だった」
「大婆様?」
リラが何を言いたいかはわかっていた。領主を継ぎ、そこだけはきちんとやれたという自負がある。けど、その分逃げてきたものがあった。
「王族としては落第点だったね」
「…………王族?」




