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30話 結婚式(D)

 式は屋敷の庭で行うことにした。この領地でやるなら大概広場を使うとこだけど、お披露目兼ねていて、食事も領民に振る舞うなら屋敷の庭を使うのが調度よかった。


「ラウラに朝から会えないのきっつい」


 準備だなんだって朝食すら別だったけど、そんな僕に御褒美時間がやってきた。

 今ラウラを目の前にして、言い様のない感動に打ち震えている。

 ラウラが綺麗すぎてどうしたらいい。

 披露目直前、玄関扉の前でラウラが準備を終えて、階段から降りてきた時の僕の気持ちを察してほしい。


「うっわ、やっば」

「ダーレ?」

「ラウラ……やっぱりやめよう」

「はい?!」

「こんな綺麗で可愛い姿を晒すとか無理。せめて衣装替えを」

「はいはい、主人馬鹿言ってないで、さっさと出ましょうね」


 がちりと扉を開ける音がする。性急すぎだろ。


「ちょ、もう少しラウラとの時間を!」

「時間を与えたら一日ここから出ないでしょうが」

「で、でもさ、着替え終わってからも会わせてくれなかったし」

「こうなるからギリギリまで会わせなかったんですよ」


 何を今更とフィーが溜息を吐いた。

 まあ確かに控室にいるラウラに会ったら、たぶん外に出さない。今日は中止にする。


「王女様。この主、本当独占欲がおかしいので、早々に離縁頂いても大丈夫ですよ」

「はあ……」

「ラウラ、そこは否定して?!」


 そんなやり取りの末、早々に背中を押されて庭に出された。やっぱりラウラとの時間をきちんととってから、披露目に出るべきだったよ。

 扉の向こうは皆が作った花道ができていた。そこを通りきった先、領地一の古参ハインリヒさんの元で指輪の交換を行った。

 この指輪が日の目を見て本当良かった。


「てんし様」

「これ、てんし様に」

「ありがとう」


 子供達がブーケを持ってくる。なるたけこの地で揃えたかったから、小物はここの手作りが多い。ここは花も多く咲くように管理していたから、さぞ作り甲斐もあっただろう。


「おめでとうございます!」


 祝杯をあげる。

 確認した限りで領民は全員来ていた。これはやっぱりラウラが地道に領民と交流を深め、ラウラという人間を理解をしてもらった結果だろう。

 ラウラは何気なく手伝っていただけかもしれないけど、それが今の成果になっているのだから凄いものだ。


「領主様」

「どうした?」

「ちょっときて」

「ん?」


 子供達に手を引かれて連れていかれる。階段を登って踊り場を曲がる所で、ラウラが続けて屋敷に入ってきたのが見えた。


「ここ」


連れて来られたのは、迎賓室。手を引かれて、そのままバルコニーにでる。階下、領民達は楽しそうに食事をしていた。


「で? 何がしたいんだい?」

「ここで待ってて」

「てんし様くるまでまってて」


 さっと戻ってしまう子供達。子供達と入れ替わりでフィーとアンが入ってきた。

 ラウラを待てって言われてもな。離れるの辛い。


「僕はここにいればいいだけ?」

「そうですね。すぐですよ」

「……なんか、二人が知ってて僕だけ知らないの、ほんっと嫌なんだけど」

「度量が狭いですよ」

「ラウラ絡みだから譲らない」

「うわ……」


 引かれた。なんだよ、今回は我慢したんだからな。

 ひとまず、今日の披露目前にラウラとの時間をとらなかったことと、今の今までラウラが隠している事を教えてくれなかったことについて、しつこく言っておいた。それに対し、ドン引きの様相を示していたけど。


「ダーレ」

「ラウラ?」


 突然呼ばれ周囲を見るけど、ラウラの姿はない。

 もう一度名を呼ばれると、頭上、屋敷の屋根の上にラウラが立っていた。どうしてそんなとこから。

 そう思う間もなく、ラウラの装いに息を飲んだ。

 仕立て屋に通っていたのはその為かと今更ながらに理解する。


「え、嘘」

「その、どう、かしら?」


 それは一度僕が頼んで、流行りじゃないからと断られた、この土地に伝わる花嫁衣装だ。幼少期に何度か見た事がある。

 僕の思った通り、その衣装はラウラによく似合っていた。恥ずかしいのか薄く頬を染めて。


「ラウラ」

「うん」

「凄く似合ってる」

「そう」

「綺麗だよ」

「ありがとう」


 もう一つ、とラウラは小さく囁く。

 ラウラの瞳が金色に染まった。 


「…………ダーレ、お願い」


 小さく自分の手を握り締めるラウラに何を求められているかがわかった。

 ラウラは今、一族以外の他者に羽を見せようとしている。

 それがどれだけ踏み出すのが怖い事かは、彼女から聴かされた両親の死に至る襲撃や過去積み重ねたものから知り得ている。


「ラウラ、大丈夫」


 おいで、と手を広げる。

 一度瞳を閉じて、ゆっくり開ける。同時にふわりと白い羽が広がった。

 階下、屋敷の庭から歓声があがる。


「ね、ラウラ。大丈夫でしょ?」

「ダーレ」


 ゆっくりはためかせて、屋敷の屋根から離れていく。

 羽を動かす度に浴びる風が心地良い。

 その羽の色と同じ、白い衣装。

 大伯父と共にいた頃、何度か見た、僕がラウラに着てほしいと思っていた花嫁衣装。


「ああ、ラウラ。綺麗だ」


 僕の元へ舞い降りようと翼をはためかせるラウラ。


 そこに乾いた音が響いた。


「!」


 ラウラの身体が傾く。


 もう一度乾いた音がラウラを貫いた。


 頬にかかる水気。

 それが血だと認識して、やっと我に返った。


「ラウラ!」

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