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26話後編 婚約の返事してない!(D)

「あーあ」


 ひとまず後をつけられることもなく、不穏な動きもなくラウラは国へ戻れたようだ。人員配置も調査も変わらず警戒は怠らないけど、ひとまず落ち着きを見せたところで、今僕はフィーとアンの監視をくぐり抜けて一人を満喫している。

 滝のマイナスイオンがしみるなー、というレベルで気が抜けている。ラウラいないと張り合いがない。もう正直何もしたくないし。


「ラウラに会いたい」


 なんて言ってたら、僕の侍従は引いた様子で、何回言えば気が済むのかと言ってくるし、領民に説明しても、それは国に帰らないととかなんとか言って、ラウラの味方で僕を労ってくれる人間がいなかった。がっかりだよ。


「ラウラーあーもうラウラ足ーりなーいー」


 会えなかった八年って僕どうやって耐えてたんだろ。今一日会えないだけで、こんなに辛いのに。あの頃の僕の忍耐力やばくない?


「ダーレ」


 あ、やば。幻聴聞こえてきた。

 芝生の上に寝転がって空を眺める。見事な晴天、鳥が高く飛んでいるのが見える。


「ダーレ」


 幻聴でもいいや。ラウラに呼んでもらえるだけで幸せだし。出来れば生きて動いてるラウラに会いたい。抱きしめたい。ラウラ細すぎて心配になるけど、その割に柔らかくていい匂いするし、僕の腕の中でもぞもぞ動いて抵抗したりするんだよ、可愛すぎていっつもどうにかなりそう。


「ん?」


 真上を飛んでいた鳥が旋回して、だんだん近づいてくる。

 近づいて落ちてきてるそれは鳥じゃなかった。え、うそ。


「ラウラ?!」

「ダーレ!」


 驚いて上半身起こしたところで、ラウラが空から落ちてきた。うまく減速できないのは、まだ飛び慣れてないからかな。八年も飛んでなかったしね。


「いや、じゃなくて! え? ラウラ? うそ?」

「ダーレ、嘘ではないわ」

「うっわ、ラウラだ」

「どうしたの」


 驚く僕が面白かったらしい。僕の胸の中で笑っている。幻聴に加えてラウラの幻でも見てるっていうわけ。あ、でもこのいい匂いは間違いなくラウラだ。


「ほ、本物?」

「本物よ、失礼ね」

「いや、だって」


 指の背で頬に触れると確かに感触があって、それに恥ずかしがって目元を赤くさせるラウラを見て間違いないことがわかった。でもね、今の状況を考えるとラウラ、うん、大丈夫じゃないだろうな。


「ダーレ?」


 事故とはいえ、ラウラに押し倒されて、ラウラが僕に馬乗りになってるとかねえ?

 すごく役得だから全然いいけど。押し倒されるというのも悪くない、というか歓迎するし。

 そんな僕の様子にやっと自分が何をしてるか気づいたらしい。ラウラは耳も赤くして挙動不審になる。


「……あ、私ったら」


 謝りながらどこうと身体を浮かすラウラが惜しくて、結局いつも通り我慢できない僕はラウラの手を取って引き寄せ抱きしめることにした。上半身起こして、足の間にラウラをおさめて。


「ダーレ!」


 相変わらずの悲鳴が逆に安心するって不思議。これ言ったら怒るだろうな。いつまでたっても恥ずかしがり屋なんだから。


「どうして戻ってきたの?」

「え?」

「向こうで国をあげてのお祝いになるかと思ってたんだけど」

「あ、ええ、そうね。皆喜んでくれたわ」

「よかった」

「そ、その、ダーレに話し忘れたことがあったから」 


 わざわざ戻って来たって?

 可愛いことしてくれるんだから。なに、ちょっとまだ太陽真上だからね?

 せめてそういう健気な事は夜、僕の部屋に来るとかそういう方向でしてくれていいのに。


「うん、何? 急用?」

「え、と、その」


 抱きしめている腕を緩めて、ラウラが見えるように囲う。腰回りに腕を回していても、ラウラは特段気にする様子がなかった。というよりは、気にする余裕がない感じかな。

 話し忘れたっていう、その内容が余程重要な事なのだろうか。

 んー、羽狩りの動きは最近なかったし、僕狙いのも大人しいんだけどな。それ以外の野盗や賊も今日粗方片付けたからラウラの脅威はないはず。

 彼女だけの魔法はともかくとして、飛んで逃げる事はもう出来る。トラウマがどこまで解消されたかも微妙な所だけど、そこまで焦るほどの状態ではないはずだし。


「あ、あの、」

「うん? ゆっくりでいいよ?」

「あ、ありがと、でも言わないとだから」

「そうなの?」

「そうでないと……姉様帰ってくるなって言うから」

「何があったの」


 めでたいことで帰ったのに、逆に帰ってくるなって何があった。

 あの二人の姉はラウラに甘そうだったんだけどなあ。少なくともラウラの相手として問題ないかを観察してくる僕への視線は相当なものだったから、そのラウラ好きすぎの二人とラウラが喧嘩別れするなんてありえない。


「そ、その!」

「うん」


 ラウラってば顔を真っ赤にして可愛いな。何をそんなに言葉を詰まらせる必要があるんだろう。


「へ、へんじ!」

「ん?」


 声にならないうめき声の後、悲鳴のような声でラウラは叫んだ。


「ダーレに婚約の返事してない!」

「え、そこ?!」


 いや、嬉しいけど、それそんなに急用?

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