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24話後編 翼を取り戻す、空へ飛ぶ(D)

「だから、私、出来るって思って」

「うん」

「やってみようと思って」


 交わしたラウラの瞳の色が変わる。その輝きに腰を浮かせた。

 間違いない。

 翡翠から金に染まる。

 あの時と同じ、金の瞳。

 空に輝く月と同じ、いやそれより深い黄金。


「ラウラ、大丈夫。出来るよ」

「ダーレ……」


 泣きそうな顔をして笑う。

 今すぐ傍に行きたい衝動に駆られる。


「僕が一緒にいるから」

「ええ、ダーレ」


 祈るように手を合わせ、空を見上げる。

 木々がざわめき、風が吹き、水が波紋を描く。精霊達もラウラを助けようとしてるのだろうか。


「ラウラ」


 金の瞳が一層濃く蕩けて、彼女の背から視界一杯に白い翼が現れた。

 ゆっくり広がりはためけば、ラウラが水面から浮いた。

 月明かりに照らされて、より白さが増す羽の色は月白そのもの。

 大きい両翼がラウラを持ち上げる。起こした風が滝の水を飛散させて頬に当たった。

 

「ああ……」


 滝の上まで飛んだラウラが遠くを見ている。見えた景色に目を細めて、次にこちらを見下ろした。


「ダーレ」


 破顔して、ゆっくりラウラがおりてきた。

 思わず両手を広げれば、ラウラは僕の胸へ飛び込んできた。回される細い腕の感触と、掠めていく羽の柔らかさが本物だと教えてくれる。感極まってラウラを抱きしめた。


「ラウラ!」

「ダーレ! 私、私、やったわ! 飛べたの! 飛べたのよ!」

「ああ、見た、見てた」


 腕を緩めて、ラウラの肩に手を置く。

 見上げるラウラの金の瞳とかちあう。お互いが思いの外、感極まってることに気づいて、それがまたおかしくて笑いあう。


「凄いよ、奇跡だ」

「ふふ、ダーレったら大袈裟よ」

「そういうラウラだって泣きそうになってる」

「そ、そんなことないわ」


 目元を赤くして恥ずかしがる。こんなところで意地を張っても今更なのに。


「はは、ほら金の眼がこんなに潤んで」

「金?」

「あれ、ラウラ知らないの。ラウラ、あの時も今も、魔法ちからを使う時と飛ぶ時は瞳が金色に変わるんだよ」

「そう、なの」

「うん、この瞳、」


 ラウラの頬に指を滑らせ、目尻に触れた時、急な眩暈と頭の痛みが襲う。おかしいことにラウラも同じだったらしい。眉間に皺を寄せていた。


「っ」


 同時、走馬灯のように過去の情景が甦る。

 遠く。僕が留学にこの国を去る前、大伯父に連れられて頻繁に通っていた場所。


「あれ」


 連れられて行った場所はラウラの住むドゥファーツ、ノッチュ城の庭で僕の後ろをついてくる小さな少女がいた。ラウラだ。

 会う旅に小さな白い羽を動かし、いち早く飛んできては僕の胸に飛び込んで笑うラウラ。

 顔合わせだけじゃない。

 僕がこの国を一時的に離れる前は頻繁に会っていた。その頃から僕はラウラが気に入っていた。ラウラだって僕のことを。


「ダーレ、私、今」

「うん、たぶん僕もラウラと同じ」


 何故今まで忘れていた?

 どうしてこのタイミングで思い出した?

 二人してこの瞬間に同時に?


「私、ダーレのこと知っていたのね……でも、あれ」

「どうしたの?」

「いえ、名前が……」


 僕も気になるところがある。

 初めて出会ったと思っていた八年前のあの日の事を話した大伯父はなんて言っていたか。

 僕の話を信じるよと、まるで初めて聞く様な態度で。ああでも、最後に小さく、折角したのに出会ってしまうかと少しだけ悲しそうにしていた。もしかして……いや、そこはもう推測しても分かる事はないか。


「そこはこれからゆっくり思いだそう?」

「え、ええ……」

「それよりも今はラウラが飛べた事を喜ばせて」

「それはどちらかというと、私が言うべき言葉かと思うんだけど」

「ラウラの嬉しい事は僕も嬉しいんだよ」

「そう」


 恥ずかしいのかラウラは僕の胸に顔を埋めてきた。

 いやもうこれ、逆にこっちのが恥ずかしくないの?

 僕は大歓迎だけどね。

 抱きしめかえせば小さな肩が震える。今実感したのかな。相変わらず可愛い。


「ラウラ、もう一度飛んで?」

「え?」


 戸惑いながらも翼をはためかせ浮かぶラウラ。その両手を繋いで、僕の間近で羽ばたく彼女を見つめる。


「よかった……」


 ゆっくり手を離す。

 大きく羽ばたいてさっきよりも高く舞い上がった。

 翼を、羽を取り戻して、記憶にある彼女と同じく大きく空へ飛んで行ける。嬉しそうに顔を綻ばせて飛んでみせた。

 ずっと夢にまで見た光景が目の前にあるんだと実感する。


「ダーレ、ありがとう」

「え?」

「貴方のおかげよ。私まだ飛べるんだわ」


 思い出した記憶とかぶる。

 笑って舞い降りてまた僕の胸に飛び込んで、しっかり僕に腕を回して。

 彼女の望みが叶った。こんなにも喜んで。


「ああもう本当」

「?」

「ラウラ好きだなあ」


 その言葉にラウラは肩を鳴らしたけど、悲鳴を上げることもなく離れようとすることもなく、代わりに抱きしめ返してくれて、僕は天にも登る気持ちになった。

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