24話前編 出来るって思って(D)
夜も更けているこの時分に外に出るなんて、ラウラが受けただろう教育の中でならあり得ない話かな。
けど、こうして一緒に出歩いてくれることを了承してくれてよかった。まあ危機感の無さは心配ではあるけどね。僕の前だからというポジティブな解釈をしておこう。
「……どこに行くの」
「んー、行ってからのお楽しみかな?」
手を繋いで夜道を歩く。灯りも持ってきてはいたけど、今日は月が大きいから、足元を照らして歩きやすい。
領地の中、子供達がラウラに教えてあげただろう花畑を越えた先、南の山々との境に小さな滝がある。領地を北から跨がり、ここで小さな滝となって南東方向、山々の隙間を縫って小さな川になって続いている。そして、滝壺はあの日ラウラと出会った小さな泉に似た情景だった。
「ここ、よく一人になりたい時に来るんだ」
「ダーレが?」
「そう」
ここにはラウラを探しに出ていた時、大伯父が亡くなり慣れない領地管理に手を焼いていた時、まあぶっちゃけ泣き言言いにここに来てるようなものだった。
「そうなの……だから」
「ん?」
また内緒話だろうか。頼むから僕の名誉は守ってくれと話も出来ない精霊に心の中でお願いしてみる。出来ればラウラの好感度あがるような内容でって。なんだか色々筒抜けてそうで逆に気まずい。
「座る?」
「ええ」
一緒に持ってきた果実と炭酸水を混ぜたものをラウラに渡す。
さっきはフィーとアンに強制的に終了させられたとはいえ、急に話を持って行くのはラウラも辛いだろうと思って用意してきてよかった。お酒もありだけど、こっちを選んで正解だったようで、ラウラもお気に召したようだった。
「あの、ダーレ」
「ん?」
水が流れる音を耳にしながら、ラウラは遠慮がちに切り出した。
「私、分かってたの」
「何を?」
今日一日の騒動から最後に話されたあの日の事だというのは僕にも分かった。
「本当は、もう分かっていたの」
「何を?」
「償いは自己満足で、私の存在があるからって周りが傷つくわけじゃないって。私がどう思うかで決まるって」
「うん」
「意地張ってただけ。楽な方を選んでただけだったの」
「ラウラ」
すっと立ち上がったラウラはそのまま泉に足を踏み入れた。ここは深いからと止めようとしたら、彼女の足は沈むことなかった。
水の上にある。目を瞠った。
「……ラウラ」
「大婆様は、私達はいつでも飛べると言ってたわ」
「え……」
「問題は私の中にあるって」
するりと歩いて滝を背に泉の真ん中に立つラウラは微笑んでこちらを向いた。
「ダーレは私にたくさんくれた」
「え?」
「ダーレはいつだって私の欲しい言葉をくれる」
「ラウラ……」
「だから、私、出来るって思って」
「うん」
「やってみようと思って」




