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3話 婚約破棄します!(D)

「だから僕と結婚して!」

「嫌です!」


 あーあと背後で呆れた溜息を吐く二人の男女の声がした。


「成程、事情は理解しました」


 そこでやっとギャラリーがいた事に気付いた。玉座に座る王は相変わらず表情変えず、隣のもう一人の姉と思しき人物は笑いをこらえていた。

 彼女に視線を戻すと、羞恥に顔を染めて目に涙を溜めていた。うっわ、可愛い。


「可愛い」

「っ!」


 ばっと手を離され、姉様と彼女は玉座に座る王へ叫んだ。


「姉様! 今すぐ! 追い出して下さい!」

「ラウラ。私は今、王としてここにいます」

「っ……王陛下、この者達の素性が知れません。早急に城の外へ」


 姉と言えど、王として対応する事に関してきちんと線引きはしてるのか。おっと、感心してる場合じゃない、なんとかここに留まらないと。


「王陛下、私達に猶予を頂けないでしょうか?」

「え」

「猶予とは?」

「暫くこの国に留まらせてほしいのです。彼女への求婚が真実である事を示し、同時にこの国に尽くします。その姿を見た上で、私が貴方方にとって害悪になるかを判断して頂きたい」

「そんなの」

「分かりました」

「姉様!」


 彼女の叫びに、再度王が窘め、静かに彼女に告げた。


「王族への求婚という事であれば、相応に迎え入れます」

「そんな!」

「客人としての滞在を許可します。部屋を用意しましょう」

「有難う御座います」


 顔色を悪くする彼女と裏腹に僕は彼女といられるチャンスを得て顔が緩みそうだった。いけない、今は公的な場だから我慢しないと。さっきうっかり口走っちゃったけど、まあそこは結果オーライってことで。


「ああ、最後に」

「はい」

「この国に尽くす必要はありません」

「ですが」

「貴方は客人です。脅威であろうが害悪であろうが、些事な事です」


 釘を刺してきた。やはり若くても王ということか。


「期限は」

「問いません」


 その言葉に彼女は小さく悲鳴を上げた。

 王は話は終わったとばかりに立ち上がり、部屋が用意できるまで待つよう言って去っていく。王直属の侍従と思しき人物が応接間に案内するとやって来たが、僕はそれを断ってフィーとアンに部屋の事を任せて立ち去った。


「あの、」

「あ、ほっといていいですよ」

「しかし」

「あの人、今それどころじゃないみたいなんで」


 そんな声が聞こえた。本当、長年の付き合いだからか、僕のやりたい事を分かってくれて頼もしい限り。

 だってこのままは困る。足早に謁見の間を出ていく彼女を追いかけないと。話らしい話をしていないのだから。


「ついてこないでください」

「そんなこと言わずに、えっと、名前、ラウラだっけ?」

「……」

「僕はダーレ」

「……」

「ねえ、君ってお姫様なの?」

「え?」


 僕を見ずに早く歩いていく彼女の速さが緩んだ。僕の言葉に驚いている。そんな意表を突く事言った覚えはないのだけど。


「王陛下の事を姉様って言ってたし、周りから姫様って呼ばれてるから」

「……ええ」


 目を合わせてしまった事に今更気づいてか、ふいと逸らされる。


「僕もお姫様と呼ぶべき?」

「いいえ、結構です」

「じゃあ、ラウラでいいってこと?」

「……」


 そういえば王陛下の名前もきいてなかった。この後、正式な場がもう一度あるだろうから、きちんと名乗っておこう。そうすれば彼女の名前も端から端まで知る事が出来るのか。嬉しい限りだ。


「姫様!」


 城から出てすぐ、彼女を呼ぶ声が駆け寄ってきた。先の子供たちだった。


「姫様、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ……なんでついてくるんですか」

「君と一緒にいたくて?」

「……」

「あ、僕はダーレ。よろしく、みんな」


 子供たちは彼女の様子を見て、僕が彼女にとって良くないものと思ったらしい。それぞれに怒った様子を見せて僕を咎める。


「ひめさまにひどいことしたの?」

「え、いや」

「姫様にちかよらないで!」

「ええ……」

「皆やめて。この方はお客様よ」


 彼女が言うと、ぴたりと僕を咎めるのを止めた。そしてどうしてどうしてと彼女の周りを固める。彼女がどう言おうか悩んでいるところに、僕が彼女と結婚したくて来たと告げると、子供たちがきゃーきゃー喜んだ。

 そしてその子供の一人が、あれと首を傾げる。


「姫様ってこんやくしゃいるよ!」

「え!」


 ちょっと待った、聞き捨てならない。その言葉に、そうだと閃いたとばかりに彼女がしたり顔で言ってきた。


「なので貴方との結婚は無理ですね!」

「なにそいつ、どこのどいつ」

「貴方に言う必要はありません」

「いいや、僕は知る権利があるはずだ。言って」


 今さっき王陛下より正式な求婚者として迎え入れられたのだから、当然知ってもいいはず。そもそも婚約者ありきで、別の求婚者を城に入れるって何を考えての事なんだか。僕には有り難い話だけど。

 ラウラは少し考え言った方がいいと判断したようだった。名前を知ったとこで諦めるわけないのに。


「……エルドラード辺境伯です。この山を含めた東南地域を管理している山の麓にある大きなお屋敷を持つ人物です」

「え」

「どうしたの、だーれ」


 お、早速名前を呼んでくれる。子供は素直だな。彼女から名前で呼ばれたいんだけど。


「いや、その」

「諦めてくれました?」

「いや、ラウラその」

「?」

「その辺境伯、僕なんだけど」

「……え?」


 ダーレ・エルドラード辺境伯とは僕の事だ。あれ、そう言えば、僕の婚約者って名前とか容姿とか年齢とか何もきいてなかったな。まさか目の前のずっと好きな女性でした、なんてことある?


「嘘」

「……あ、でも丁度いいか」


 変な輩に奪われる心配はなくなったわけだし。良かったと彼女に笑顔を向ければ、彼女は少し怒った様子でこちらを見て震えていた。


「こ、こ、」

「ん? どうしたの?」

「婚約破棄します!」

「そんな!」


 ひどい捨て台詞を投げつけて、彼女は全速力で城へ戻っていった。

 そんな彼女を待ってと叫んで、当然追いかける。子供たちが楽しそうに笑っていた。くそ、笑い話じゃないぞ。

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