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21話後編 婚約破棄しようとしてたのに(L)

「待って待ってやめて!」


 そんなに焦る必要あるのだろうか。


「ああ、ダーレから破棄を申し出たいのかしら」

「はい?」

「私からだと体裁が」

「待って! そもそも僕は婚約破棄したくないし、する気もない!」


 嘘つき。ああなんだかまた苛々が募ってきた。


「もう私以外にお相手いるでしょ。その方と結婚すべきだわ」

「え、誰? ラウラ以外に結婚したい女性なんていないんだけど」

「とぼけなくてもいいわ」


 やんごとなき事情ですぐに結婚できない方なのかしら。まあでも私が心配するところではないわね。勝手にどうぞって話だし。


「ラウラ、何か勘違いしてない?」

「してないわ。手紙に書いてあったもの」

「手紙?」

「会いたいって……だから今日会いに行ったのではなくて?」


 もう盗み見してしまったことが知れるのはこの際仕方ない。今はダーレを黙らせて、このまま破棄へ話を持っていくしかないのだから。


「手紙? 会いたい? ……ああ!」


 ダーレはさも今気づきましたといった体で反応した。別にそういうのいらないのに。


「違う、ラウラ。あれは姉さんからの手紙だよ」

「……姉さん?」

「そう」


 ダーレ曰く、王都にお姉さんが二人いるらしく、一番上の姉が私に会いたいという。ダーレが私の事をそれはもう事細かく手紙に書いて報告したかららしいけど、それも本当なのか。正直、私には今一つ信じられない。


「…………そう」

「ラウラ、それ僕の言う事信じてないね?」

「どちらにしたって、私の婚約破棄したい意志は変わらないわ」

「ちょっと!」


 荷造り済みの一つの荷物を抱えようとすれば、それを制止しようとダーレの手が私の手首を掴む。


「だめ! さすがに破棄は無理!」

「もう! 離してダーレ! 私決めたのよ」


 と、いつぞやと同じく彼を押しのけようとしたら、びくともしなくてそのまま私が反動で倒れそうになる。

 すぐにダーレが慌てつつも私に手を伸ばし、床に倒れ込むことなく抱きとめた。

 その時、彼がポケットにいれてたものだろうか、何かがほろりと落ちて床を転がった。


「何?」

「あ、やば」


 ダーレが慌てた様子を見せたので、思わず先にそれを手に取った。すると彼はますます慌てる。


「ラウラ、それ返して!」

「何? そんなに慌てて」

「ちが、まだ早いんだって!」

「早い?」


 小さな箱だ。小さいけど上等なものが入ってるのがわかる高級感。開けようと手をかけると、その上から覆いかぶさるようにダーレの手に包まれた。


「だからだめ!」

「なによ、いいじゃない」

「主人、話しても良いのでは?」

「うええ……」

「王女様に見られてしまった事ですし、王女様も気にされてます」


 フィーとアンが助け舟を出してくれた。ありがたいわ。彼彼女は自身の主人には辛辣だけど、私には意外と甘いから、こういう時頼りになる。


「だってこれはシチュエーション完璧な時に」

「先走って手に入れた結果が今ですよ? 主人が王女様に誤解を招くようなことするから、王女様が国へ帰ろうとしてるんじゃありませんか」

「ぐっ……」

「挙げ句自分のミスで王女様の知れる事に至ったなら説明をきちんとすべきです」

「ぐぐう……」

「まあそれで引かれようとも、破談になろうとも、全て主人の行動に対する結果責任ですね」

「言うな。てかどっちも良くない結果」

「事実です。だから先日自分の変態行為について鑑みろと申し上げたではないですか」

「ぐぐぐ」


 散々な掛け合いの後、わかった、と唸りながらダーレは了承した。

 手を緩めたから、箱にかけていた手を離す。私の掌の上にあるままで、ダーレがゆっくり箱を開けた。


「…………指輪」

「その、今日は、これの受け取りの日で」


 取りに行ってたと。


「言っとくけど、ラウラに贈るための指輪だからね」

「え」


 てっきり手紙の相手かと思ってたのに。

 そう思ってたのが、ダーレに伝わったからか、がっかりした様子で息をついた。


「ほらもう、僕が君以外の誰かに贈るわけないのに」

「けどダーレ」

「否定の言葉はいらない」

「う……」


 指輪はとても綺麗な輝きで、よく見れば裏石が入っている。あしらわれた小さな宝玉は見る角度で色が変わった。


「綺麗ね……」


 ぐぐっとダーレが言葉に詰まらせたのがわかった。

 見上げて、どうしてこれをと訊くと、ダーレは静かに告げた。


「結婚指輪に……」

「え……?」

「ラウラが僕のこと好きになって、婚約も認めてもらったら、贈ろうって」


 結婚指輪?

 私が軽く衝撃を受けて言葉を詰まらせるとダーレは慌てる。


「私、今婚約破棄しようとしてたのに」

「うっ……知ってる」

「受けてもいないのに」

「し、知ってるってば」


 気まずそうに眉を八の字にして、しどろもどろになるダーレが、なんだか可愛いくて思わず小さく笑ってしまった。ダーレが驚いて目を瞠る。


「ふふ、ダーレ貴方本当馬鹿ね」

「ラウラまでひどい」


 なんだ、そうだったの。話したくなかったのは私に知られたくなかったから。にしたって気が早すぎる。


「私、馬鹿みたい」

「ラウラ」

「一人で勘違いして、帰ろうとして、本当もう」

「ラウラ、それって」


 ああ嬉しいなんて。彼が結局私だけだったなんて。

 それでも、やっぱりだめだわ。

 今この瞬間に分かった。

 ダーレが大切な人になればなるほど、私はここで国へ帰らないといけない、応えられない。


「ダーレ」

「ラウラ」

「ごめんなさい、返事出来ないの」

「え?」

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