21話前編 自分の国に帰ります(L)
「いますぐドゥファーツへ帰りましょう。姉様に破棄を認めてもらうの」
「え、しかし姫様」
思い立ったら動くしかない。急いで部屋に戻って荷造りをすることにした。
ヤナは戸惑いながらも、私の意志を尊重して荷造りを手伝ってくれた。
「王女様」
「どうかしたかしら?」
庭から戻るときには姿が見えなくなったアンが戻ってきた。
「お帰りになるのですか」
「ええ。長くお世話になりすぎたし、いい機会だから」
アンは特段表情を崩さず、口元に手を添え小首を傾げて考えるような所作をとった。
「子供達が来ておりまして」
「え?」
「今日は伺えないとなって、王女様が心配になったようです」
「そうなの」
確かに最初のお家で顔がどうこう言われてやめてしまったから、子供達には誤って体調が悪いという体で伝わってしまったのかもしれない。
それはさすがに子供達に申し訳ないし、お別れにきちんと会っておきたい。
「子供達に会います」
「では外に」
ヤナには部屋で待ってもらって、庭に来ていた子供達と顔を合わせると、やっぱり勘違いしていたみたいで次から次へと心配の声があがった。
「てんし様大丈夫?」
「具合わるいの?」
「大丈夫、元気よ。今日はダーレがいなかったから」
そして見舞いの品まで持って来てくれていて、それだけでさっきのモヤモヤした腹立たしさはどこかへいってしまった。この子たちがいるだけで幸せを感じられる。ドゥファーツの子供達も元気にしてるかしら。
「てんし様、元気なら今から一緒にお花摘みにいこうよ」
「えー、新しいリボンを買いにいきたーい」
「あたしは一緒にお菓子たべたい、ねえてんし様」
「え、と……ごめんね」
子供達に事情を話す。自分の国に帰る事を告げると、子供達から驚きの声と嫌と言う言葉が出てくる。ここの領民の方々にもきちんとご挨拶しないといけないけど、ダーレが帰ってくると面倒な事になるから、早くここを去らないと。
「てんし様、どうしても?」
「どうしても帰っちゃう?」
「ええ、自分の国に帰るわ」
「待った」
子供達の声より早く、聴き慣れた低い声が止めに入る。
馬車から降りてこちらに駆けよるのは件の人物。
「じゃあね、皆」
踵を返し、屋敷に戻る。
子供達が、ダーレを呼びながら、てんし様帰っちゃうのと言う声が聞こえて、後ろ髪ひかれる思いだったけど、なんとか耐えて与えてもらっていた部屋へ戻る。後ろからダーレの足音を耳にしながら。
「ちょっと待って、ラウラ」
「あら、帰ってきてたの」
随分短い逢瀬だったみたいで。大丈夫なのかと訊いてみようかと思ったけど、ダーレの顔を見てなんだか言う気が失せてしまった。
「嫌な予感して帰ってきたらこれって」
どういうことなのかと問われる。今更何をきいてくるのかしら。
「ドゥファーツへ帰るわ」
「え?!」
「調度いいみたいだから、姉様に正式に婚約破棄を認めてもらおうかなって」
「待って待ってやめて!」




