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19話後編 こんなオチ、嫌なんだけど(D)

「どうして?」

「……」

「どうしてダーレが狙われているの?」

「……この領地がよりよく繁栄してることを気に食わない人間がいるんだよ」


 しかも僕がしばらく滞在することを知った上で、かつラウラの存在も鑑みた上で狙いにきた。

 まあ情報の出所は知れている。ネルだろう。あいつはいつだって中立だ。僕の情報を漏らす代わりに、あちら側の情報をこちらに与えてくれる。

 けど、ラウラとデートしてるとこを狙われるのは癪だ。数日くらい余暇をくれてもいいのに。


「領地が?」

「そ。あちらからすれば、領地が繁栄して僕が力を付けて頭抜き出てくるのが怖いんだろ。別に力をつけた所で、国を崩すわけでもないのに」


 困ったものだ。こちらとしては力を付けようがつけまいが、それ以上何かをする気はない。けど、力をつける事は周りへの影響力の強さも増すということ。

 それを気に食わない連中がいる。別に取って食うわけでもないのに、勝手に思い込んで、自分にとって都合の悪い存在をさっさと消そうとする奴がいる。

 それをラウラも理解したようだった。奪うにつけても目的は様々だ。


「羽狩りだけではないのね」

「ラウラ?」

「羽のあるなしは関係なく、撃ってくる人間は撃つのね」

「ラウラ……」

「そう、そうだったの……」


 何が腑に落ちたのか、彼女は落ち着いた色合いを見せて、僕を見あげた。そのまま僕の頬に手を添え、その細い指でなぞりながら静かに囁く。


「ダーレも辛かった?」

「……」

「怪我してる。いつもこんな、」


 全部言う前に抱きしめた。

 あんなに怖がっていたくせに、僕が傷ついてるのを気遣ってくる。

 本当はラウラがこんな目に遭うことはなかったんだ。僕と一緒にいたが故に、よりにもよって彼女の最も嫌う銃弾を浴びる事になるなんて。


「君は本当」

「ダーレ、は、離して」

「嫌」

「ダーレ!」

 

 彼女の訴えを無視して抱きしめたままでいたら、暫くして諦めたように力を抜いた。小さく僕の名前を呼ぶ声が、心無しか照れているように感じたのは気のせいじゃないと思いたい。


「ラウラは優しいね」

「そ、そんなことは、」

「はは、ラウラ可愛い」

「からかわないで」


 怪我はかすり傷だからと言っても今一つ納得した様子は見せなかった。

 抱きしめる腕を緩めてラウラを見下ろすと、彼女は困ったように眉を寄せて僕を見上げてくる。おっと、ラウラの耳が少し赤くなってる。可愛い。


「というか、ここはラウラが怒ってもいいんだよ?」

「何故?」

「だって僕狙いだったんだから、ラウラとばっちりじゃん」


 巻き込まれただけだし。


「……それについては、私はダーレの事を言えないわ」

「え?」

「羽狩りに遭った時、ダーレを巻き込んだから」

「ああ、あれ」


 あれは僕が好きで飛び込んだんだけど……いや言い方が良くないな。ラウラを助けたかったから飛び込んだ、うんこれだ。


「気にしてないし、あれは僕がラウラを助けたいって思って飛び込んだだけだよ」

「でも」

「はいはい、ラウラの言いたい事は分かってるから。んー……、そしたら今回のでチャラにしよう?」


 僕の提案は彼女の考え及ばないところにあったらしい。何を言っているんだと不可解な顔をしている。


「え?」

「お互い巻き込みあったから、これで清算しました的な」

「……なにそれ」


 怪訝な様子で僕を見つめたラウラは、それも振りだったのか、ふっと肩の力を抜いて瞳の端を緩めてきた。そこでお互い顔を見合わせて笑う。ああやっとラウラの強張りがなくなった。よかった。


「主人」


 タイミングよろしくアンが僕を呼んだ。ラウラは焦って僕の胸を押すものだから、残念に思いつつ距離をとって座り直した。

 入るよう促すと、ラウラの侍女も一緒に入ってきた。


「王女様にお茶を用意しました」

「ありがとう」

「あと、主人」


 アンの目配せと言葉で内容を把握する。あっさり捕まってくれるなんて、ちょろいな。ラウラの時の羽狩りは捕まってないのに。まあ今回即席ぽかったし、素人かな。


「ラウラ、ちょっと席外すね」

「ええ……」

「ん?」


 立ち上がると軽い力でくいっと引っ張られたから、そこを見ればラウラが僕の服の裾を遠慮がちにつまんでいるのが見えた。

 無意識だったのか、はっと我に返って頬を赤くしながら、ごめんなさいと手を離す。うっわ、なにこれ。


「ラウラ!」

「ま、ちがうの!」

「すぐ! 戻るから!」

「いいえ大丈夫よ!」


 彼女の手をとってぎゅっと握りしめれば、ラウラは悲鳴を上げながら、大丈夫だと連呼する。


「今のは間違いよ! 放ってくれて大丈夫だから!」

「そんなこと言わないで! 本当すぐ戻るから!」

「戻ってこないで!」


 僕の顔を見ずに顔だけ赤くしてるラウラを置いていくのは残念だけど、さすがにアンにもう一度呼ばれて仕方なく部屋を後にした。


「やっば、ラウラ可愛すぎなんだけど」

「あの対応、王女様は嫌がるかと」

「えーそっかなー今の僕とラウラなら問題なくない?」

「頭沸いたところ申し訳ありませんが、賊への対応をお願いします」

「もう少し僕とラウラのこと応援してよ」

「王女様の幸せは願っております」

「僕は? 僕の幸せは?!」


 本当、長年の付き合い過ぎてあまりにも主人として敬われてない感じがする。

 さっさと終わらせてラウラのとこに戻ろう。


「主人」

「フィー、どう?」

「予想通り素人ですよ」

「ふーん」


 今回は三人。取り逃がしはなしと。ま、どっちにしても雇い主に伝言頼んで帰らせる感じかな。牽制しておかないと、毎日襲われそうだし、ここは少し嘘の情報も入れて、あちら側が急に動かないよう攪乱させるか。まあ勿論それなりに痛い目にはあってもらうけどね。


「よし。じゃあ、さっさと終わらそう」


* * *


 そうして有言実行してさっさとラウラの元に戻ったのに、扉には鍵がかかっていて会う事はかなわなかった。


「そんな! ラウラ開けてよ!」

「嫌です! もう寝ますので! お帰り下さい!」

「一目だけ! ちょっとだけでいいから!」

「駄目!」


 あーあと首を振って呆れるフィーとアンをしり目に、ラウラに訴えるもその後扉があくことはなく、最終的に両脇を二人の侍従に抱えられ、この場を後にする事になる。こんなオチ、嫌なんだけど。

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