19話前編 割と命狙われやすくて(D)
「まさか」
「静かに」
最悪のタイミングで現れた。
折角いい雰囲気だったのにとかそういうとこも踏まえて、本当最悪。祭は確かに騒がしくてチャンスだけどさ。喧騒に乗じて撃っても、その音は掻き消される。聞こえてもそこまで気にする者もいないだろう。
「まあ人混みの中で撃ってこないだけマシか」
「ダーレ」
僕の胸で囁く小さな彼女は震えていた。銃に怯えるのは当然のことだ。彼女は過去撃たれている。なにより、翼をもつ一族にとっては天敵だろう。
「大丈夫」
「……」
「舌噛まないようにね」
「え」
次の発砲音に、なるたけ木々の入り組んでる場所を彼女を抱えて転がりこむ。枝を削る音がした。こちらの場所は知られているか。
「ダーレ」
「うん、大丈夫だよ」
近くの枝が削られていく音を聞きながら、ラウラを抱え込むと申し訳なさそうに、こちらを見上げた。
「違うの」
「え?」
「……は、羽狩り、私を置いて」
以前ラウラの首にむごい跡をつけた賊の事が羽狩りという存在である事は既に教えてもらっている。だから今回もそれだとラウラは思ったのだろう。
まったく、この状況で自分を置いて逃げろ?
声まで震えてるくせに置いてけなんて、何を言ってる。
「ラウラ、違う」
「い、いいから」
本当この子は僕を頼ってくれない。たとえ羽狩りであっても、僕に助けを求めてもいいと思うけど。
けど今回はその誤解だけは解いておかないといけない。
「ラウラ、奴らは羽狩りじゃない」
「え? でも」
「奴らの狙いは僕だ」
本当領地戻った途端、出てくるんだから困ったものだ。
「何故……」
「んー、僕割と命狙われやすくて」
ボリュームを落とした状態で驚きの声をあげる。ラウラ意外と器用だな、可愛い。
「後で話すよ」
そう、今はラウラの安全を確保するためにも、どうにかこの場を離れないといけない。そんなに数はいないだろうけど、回り込まれて距離を詰められたら危険だ。
まだ震えるラウラを引き寄せ、再度大丈夫だと囁く。少しでも安心してくれるように。
「ダーレ」
「うん、大丈夫」
震える手で僕の服を掴む彼女の可愛さったら。
そんなこと考えてるって言ったら、ラウラ怒るだろうな。フィーとアンには殴られそう。
銃弾を避け逃げていると、より広場から離されているのが分かった。近ければ領民が危険に晒されるけど、離れるのも囲まれる危険性が増す。
逃げる方向を変えて、なるたけ屋敷に近づくように移動した。たぶん耳のいい者なら喧騒の中でも気づいてるはずだ。
「……ラウラ」
「?」
遠くない先で光の点滅を見た。いいタイミングだ。
「少し走れる?」
「……」
真剣な瞳のまま、こくりと頷いた。銃声に耳を澄まし、間のあく瞬間を狙ってラウラをかばう形で走り出した。木々の合間を抜け、当たることをなるたけ防ぎながら。
「主人」
「フィー」
「王女様」
「アン」
光の点滅は彼彼女が送った知らせだ。これでラウラの安全が確保される。
「別の者を向かわせてます」
「分かった」
ラウラに聞こえないよう耳元で報告を受け、そのまま人のいる場所に走り戻った。
ちょうど広場で例のものを燃やしている時で、少し遠くに見える所では周りは酒も入り盛り上がりをみせている。さっきと雲泥の差に、ラウラは肩で息をしながら、その場に留まり立ち尽くしてしまう。現実に追いついてないようだった。
「ラウラ」
「……」
放心状態の彼女を抱き抱え、用意してもらった馬に乗せて、そのまま屋敷に向けて走らせた。傍には同じ馬に乗り警戒を怠らないフィーとアンを共にして。ラウラはまだ震えていた。
「ラウラ」
「……」
屋敷についても放心状態なラウラを抱き抱えて、彼女の為に用意した部屋へ連れ、ゆっくりソファにおろす。事情を察したラウラ付の侍女は、温かい飲み物を用意すると言って部屋を一旦出て行った。
「……ラウラ、ごめんね」
そこでやっとラウラは顔を上げて僕を見留めた。
「ダーレが謝ることではないわ」
折角の楽しい祭りが台無しだ。領民を巻き込むことはなかったけど、それでもラウラにとってここでの思い出がよくないものになるのは嫌だった。
「…………て」
「ん、何?」
「どうして?」




