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18話後編 それは急にやって来た(L)

「ま、いいや。祭り楽しも? ただ食べて飲んで騒ぐだけだから」

「ええ」


 屋台と呼ばれるところでそれぞれ食事を作ったり、子供達が遊べるものを用意したり。灯りは手作りなのだろうか、暗くならないよう等間隔で灯されている。


「ダーレ、あれは?」


 領地で一番の広場になにか積み上げられている。藁と木々のようだった。


「あ、あれは祭りの最後で燃やすよ」

「何故?」

「元々王都の方で春の祭りでやってたやつをこっちにも採用しただけ。確か一年実りがありますようにって願いをこめるための儀式みたいなものだったかな」

「そうなの」


 個人のためにある祭りと国の祭りが融合するなんて。同じ大国の中にあるのに不思議。


「てんし様」

「どうしたの?」


 もうすぐ子供たちは家に戻る時間になろうという頃、お手伝いした所の子供が駆け寄ってくる。小さな花冠をして着飾っていて可愛いらしい。


「これ」

「あら、ありがとう」


 もらった花の輪を手首に通してみると香りが飛び交った。いい匂いに目を細める。


「うち、おいしいものたくさん作ったんだ」

「おいしいもの?」

「うん、だから食べにきてね?」

「ええ、勿論」


 もう家に戻らないといけないから会えないけど、と少し淋しそうにするから、お花のお礼と次に会う約束して笑えば、くれた子供も嬉しそうに去っていった。


「?」


 ふと視線を感じ見上げれば、ダーレが穏やかに微笑みながら私を見下ろしていた。

 不覚にもどきりとした。目をそらしても彼の視線を感じていたたまれなくなる。なんであんな穏やかに。


「ラウラ、行こう。ステラさん家の肉おいしいんだ」

「え、ええ」


 そうして自然に私の手を絡めとって連れていく。もうすっかり慣れつつある彼の触れ合い。その温かさが好ましく思ってる。だめね、これでは。


* * *


「ん……美味しい」

「王女様のお口にあってなによりです」


 回る先々で歓待を受け、たくさんの食べ物を頂いたけれど、どれも美味しかった。

 一通り巡って、広場で最後の火をかけることをするまでの間、すこし離れた場所で二人、ワインをお供に静かに祭りを眺めている。火を用意して、広場に人が集まって、お酒を片手に大きく盛り上がりを見せて。その喧騒を遠くから聴いて、静かに過ごしているこの時間がとても大切なものに感じた。


「どうだった?」

「楽しかったわ。ご飯も美味しくて、皆さん親切で」

「よかった」


 なによりダーレと一緒にいるのがひどく自然で、当たり前になっていた。さすがに言えないけど、彼の隣は悪くない。


「今度領地もちゃんと案内する」

「お仕事落ち着いてからでいいわ」

「僕がしたいんだよ」


 だから他の連中に案内されないでと念を押された。お手伝いにまた外にでたら機嫌を損ねるかしら。何もしないのは性に合わないから、外で皆さんのお手伝いをするぐらいが丁度よいのだけど。

 そんなことを考えては言わずにいたら、ダーレが遠く広場を眺めながら、心底嬉しいといった様子で呟いた。


「ああ本当夢みたい」

「どうしたの、急に」

「ラウラと一緒に領地にいることが」

「私と?」

「ラウラが隣にいることだけでも奇跡だよ」

「そ、う」


 あまりに嬉しそうに瞳を蕩かしてこちらを見つめるものだから、思わず顔を逸らしてしまった。ダーレは心臓に悪い。急に抱きしめてきたり、甘やかしてきたり、こうして熱のある瞳で見つめてきたり。


「ラウラ」

「なに?」


 いくらかのなんてことない会話の後、彼の呼ぶ声音が変わって、彼の方を向けば見たことのある、けどいつもと違う瞳で私を捕らえた。


「ラウラ」

「……ダーレ」


 あの時と同じ。同じ色なのに、まったく違う色合いを見せて私を射抜いてくる。

 その眼に見つめられると動けない。頬を撫でる彼の手に擦り寄ってしまうぐらいの心地よさの中、瞳をそらすことが出来なかった。


「目、閉じて」

「……ダーレ」

「お願い」


 近づくダーレの囁きが僅かに掠れている。その言葉通り目を閉じようとした時、ダーレが驚いて少し目を開いた。


「!」

「……ダーレ?」


 頬に触れる手が離れ、ダーレとの距離も離れる。


「こんな時に」

「?」


 視線を上げて遠くを見つめながら目を細める。険しい形相から、なにか良くないことが起きてることが分かった。

 舌打ちをしたダーレは私の腕を引いて、私を抱きながら左方へ流れた。

 纏う空気に緊張感が走る。何が起きたの?


「ラウラ離れないで」

「え」


 暗い中で乾いた音が響いた。


「!」


 それは急にやって来た。

 嫌でも体が強張る。


「ラウラ、こっち」


 私達一族はその音に敏感。

 だからすぐわかった。


「大丈夫だから」


 だってその音は、私達を空から落とすものだもの。

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