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17話後編 独占したいなら、そう言えばいいのに(L)

「てんし様、畑仕事できるの?」

「ええ、私の国でもしていたから」


 作業用の服を持って来ていてよかった。昼までなら時間もあるし、何もしないのも気が引けるから丁度良かった。


「おとーさーん!」

「お、お前どこ行ってた、って、え?」

「お早う御座います」

「え、てんし様がどうしてここに?」

「私にも何かお手伝いできる事がないかと思いまして」


 そう言うと途端狼狽する大人たち。連れてきてくれた子供の夫妻はそんなことお願いできないと悲鳴を上げている。そこをなんとかとお願いし通して、お手伝いをさせてくれることになった。幸い、内容は自分の国とそう変わらず、育ててるものも同じものが多かったので扱い易かった。


「はあ、てんし様慣れてるな」

「自分の国でもしていたので」

「え、てんし様王女様なんだろ?」

「ええ。でも出来る限りの事はしようと思って、国の皆と一緒にしてたんです」


 それは贖罪であったけれど。それでも今ここで他の人々の為に役立っているなら、どんな理由が始まりであっても良かったと言えるものなのかもしれない。


「ねー、おひめ様! うちにもきてよー!」

「ふふ、分かったわ」


 別の子供が私を呼ぶ。畑仕事を粗方終わらせれば次は羊の放牧だった。ここの動物たちも言えばきちんと言う事を理解してくれる子ばかりで可愛いらしい。


「すごい、てんし様。羊と話ができるの?」

「どうして?」

「あたしの時はあまり言うこときいてくれないから」


 そういえば、大概の動物は言う事を聴いてくれるし、襲ってもこない。小さい頃に姉様が我々一族は動物から危害を加えられることはない、ずっと昔からそうだったと言っていた気もするけど、今となっては少し曖昧な記憶だ。

 思い返せば、姉様達もよく動物たちに懐かれていたし、私達一族を襲うよう調教された動物だって言葉を交わせば、襲ってくることは決してなかった。


「いいなあ、てんしさま」

「簡単よ?」

「えー」


 羊の放牧をスムーズにこなしてることを羨ましがられたから、秘密よと言って手招きする。期待を目に移しながら、ちょこんと近くに来るから、耳元でこっそり教えてあげる事にした。


「羊はね…………」


 それでも動物それぞれに特徴はある。羊もしかり、きちんと特性を理解してそれに添う形で行動を共にすれば放牧もだいぶ楽になるだろうとその方法を教えてあげれば、瞳をキラキラさせてすごいと言われる。どこにいても子供たちは素直で可愛い。


* * *


「ラウラ!」


 何軒も回って昼の頃合いになった時に聴き慣れた声に呼ばれ振り向くと、焦った様子で駆け寄るダーレの姿が見えた。


「ダーレ」

「君はまた、誰にも言わずに出て行って!」

「あ、ごめんなさい」


 いつもの調子で出掛けてしまった。唯一事情を知っているのは、一緒にドゥファーツから来た侍女のヤナだったから、そこからきいたのかしら。


「いや領主様、こっちは助かったよ」

「え?」

「そうそう、てんし様なんでもそつなくこなすから」


 やれ畑の野菜がどうとか、羊に鶏がどうとか、果樹の収穫がと次から次へと手伝った内容がダーレに知られてしまった。驚愕と言った様子でダーレが私を見下ろす。


「ラウラ、君ここに来てまで畑仕事を?」

「時間があったからつい」


 君って人はと言って片手で顔を覆うダーレ。何かいけないことしたのかしら。でも今日お手伝いした領民の皆さんは一様に喜んでくれてるように見えたのだけど。


「いや、いい。それでこそラウラだし」

「どういうこと?」

「いや。それよりも昼食にしよう」


 言って私の手をとる。お屋敷で昼食なのだろう。連れて行く気で、ぐぐいと引き寄せられた。見上げたダーレは周りに、僕らはこれでと加えていた。


「皆、ラウラ連れてくから」

「はいはい。坊ちゃんてんし様独占したいなら、そう言えばいいのに」

「……また来る」


 その言葉はきちんと私の耳に入っていた。独占……独り占め。ダーレが私を?


「ダーレ」

「折角二人でゆっくり出来ると思ったのに」


 ダーレの中で計画していたものがあったよう。領地を案内して、屋敷でご飯食べてと、聞き取れる範囲でそんなことを呟いている。


「後やれそうなこと……そうだ」

「どうしたの?」

「ラウラ、デートしよう!」


 先程の様子とは一転、楽しそうに笑いながら、聴き慣れない言葉で誘いを受ける。


「でーと? それは何?」

「え、と……この領地内で祭りをするんだよ。それを一緒に回りたいなって」


 でーととはお祭りを楽しむものなのかしら。それをきくと、ダーレは苦笑しながら、それでいいと言っていた。

 少し違うみたいだったけど、彼からそれ以上の説明はなく、お祭りという言葉に惹かれた私はその誘いに頷いた。

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