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16話後編 僕の妻になる人です(L)

 なかなか物騒な事を言って、ネルと呼ばれる商人は去っていった。


「やれやれ」


 肩を抱いていたダーレの力が緩んだから、隙を見て離れた。ダーレはそんな私を見下ろして息を吐く。


「本当、いきなりいなくなるから吃驚したんだけど」

「子供達に連れられて……」

「で、その子供達ともはぐれて?」

「うう……」


 何も言えなかった。せめて子供達に一言伝えていれば、ダーレもこう言う事はなかっただろう。この領地は安全だと、とても心地のいいところだというのは、領地に降り立った時点で分かっていた。

 周囲の子たちが楽しそうに笑っているのが聞こえたから。精霊が喜ぶ場所はとても良い土地だという証拠だ。きっとダーレと領民が育んできたのだろう。

 と、そういうことを伝えたところで、私がやらかしたことをどうにか出来るものではないことは重々承知していた。ダーレが困った顔をして私を見下ろしていることに反論は出来ない。


「心配したんだけど?」

「…………ごめんなさい」


 ダーレは加えて何か言おうとしたけど、結局私の事をこれ以上咎める事はなかった。ただ一つ、かならず自分と一緒にと言うだけだった。

 彼はいつだって私に甘い。たぶん姉様達よりも。唯一望むことは私の傍にいることだけ。軽い言葉の応酬と過剰な触れ合いは困る所だけど、それを差し引くと彼はひどく私に寛容だ。


「ほら」

「……」


 手を差し出されて自分の手を添えれば力強く捕らえられて連れていかれる。

 手を繋ぐなんてどうかしてるわ。彼の過剰な触れ合いのせいで慣れてしまったのか、恥ずかしいのに繋いでいたいという相反する思いがぶつかり合ってる。


「まだ歩くけど、疲れてない?」

「大丈夫よ」


 先程の道に戻って歩き直せば、四方から領民の挨拶がやってくる。

 反応は同じ。隣の私がてんしだと知って驚き、連れてきたことに安堵し、祝いの言葉が投げかけられる。さっきの商人も結婚相手を連れてきたと言ってたけど、ダーレは一体どういう言い方をしていたの。

 さすがに聞き捨てならないと思って、領民が一旦引いたところでダーレにきいてみることにした。


「ダーレ、私、貴方との結婚を受けてないわ」

「えー、いいじゃん」


 そこは気にしないでと加えてくる。


「よくないわ。きちんと誤解を解かないと」

「……少しぐらい夢見させて」

「え?」


 締まりのない顔して笑っているけど、やっぱり誤解は解いておいた方がいい。また別の日に領地を詳しく見せてもらって、その時に伝えてみようかしら。

 私が悩んでいるとダーレが


「ダーレ、どういう話の仕方をしていたの?」

「んー……僕の好きな人は天使ですって」

「てんし」

「絶対探して連れてきますって」

「それに?」

「僕の妻になる人ですって」

「問題なのはそこね」


 連れてくるぐらいまでならよかったものを。

 ダーレは変わらず、いいじゃんと言い続けてる。どう領民達に伝わっているかで、私の対応も変わるというのに能天気なんだから。


「坊ちゃん」

「ああ、アンドレアさん」


 後少しで屋敷だよと話していた矢先にまた領民から声がかかる。けど今回は先程までとは違っていた。


「……そいつは本当に」

「はい?」


 ダーレが小首を傾げている。

 近づいてきた初老の男性の持つ視線と雰囲気に私は瞬時に悟った。不可解なものを見る瞳。強張って警戒する声音。異物を許さない気配。どれもよく知っている。


「坊ちゃんの言うてんし様か?」

「ええ、そうですよ。ラウラです」

「私、」

「結構」


 やっぱりと言うべきか、名を名乗ろうとすれば、言葉を遮られる。不穏な様子にダーレも眉を顰めた。

 私を睨みつけたまま、不快だと囁く。


「アンドレアさん、彼女は」

「黙っていなさい」

「しかし」

「坊ちゃんの事は信頼している。先代からよくするよう言われてもいるし、領主としても申し分ない」


 けど私は駄目だと告げられる。人に羽は、翼は、あるはずもない。そんな得体の知れない人の種などあり得ないと言う。高貴な血が穢れるとも。


「あの、少しお話出来ませんか?」


 そんなすぐに他の領民のように受け入れてくれるとは思ってなかった。それでもダーレが信頼を置く領民に対して何もしないままというのは嫌だった。

 普段の私なら、すぐに逃げて一人になろうとするはず。なのに今日ばかりはおかしかった。面と向かって話そうと試みている。自分でも不思議だった。

 そうして一歩進むと、静かだけど威圧感はそのままで、はっきり告げられた。


「よるな」

「え……」

「羽が生えてるとは薄気味悪い。さっさと自分の国へ帰れ」


 明らかな私への嫌悪と敵意を向けて言い放たれる言葉。よく知る言葉に、分かってはいても心が抉られていった。

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