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15話後編 彼女に触らないでくれるかな?(D)

「領主様、帰られたんですか」

「でもまたすぐ出て行かれるのでしょう?」

「今度はしばらく留まるよ」


 働く手を止め、少しずつこちらへ集まって来る領民はすぐに僕の隣のラウラに気づいた。

 明らかな緊張を見せながらも、背筋は綺麗に伸ばして凛と立っている。国のことも僕のことも考えて気丈に振る舞ってる。うわもう可愛いったら。


「領主様、そちら」

「まさか?」


 ラウラに対して僕は顔が緩むのを止められない。今度戻る時は連れてくるとか宣言してたの叶ってるし。


「領主さま!」


 子供達もやってきた。子供達を目に止めてラウラは少しばかり目元を緩めて安堵した。自身の国にいたときもだけど彼女は割と子供に弱い。

 近場の面子が集まったとこで、一人がラウラを示してきいてくる。


「まさかついに見つけられたので?」

「うん」


 ラウラを紹介すれば、彼女は綺麗に腰を折って挨拶をこなす。その姿はやっぱり王女なんだなと思った。


「いやまさか本当に?!」

「坊ちゃんが言ってたてんし様っていうのがこのお嬢さん?」

「坊ちゃんって言うの止めろって言ってるだろ」


 いつまで経っても自分より年上の領民は僕を坊ちゃん扱いだ。格好つかないからやめてほしいって言ってるのに。


「てんしさまなの?」

「え?」

「ああ、しかも王女様だぞ」


 大人たちが後から集まった子供たちに教えれば、子供たちは喜んだ。


「領主さまいつも王女さまのこと話してた。てんしさまだって」

「え?」

「耳にたこができるぐらいだったわ。領主様が嘘ついてるんじゃないかって思ってる連中もいるし」

「そんな」


 まあもう八年くらいラウラのこと話してるのに現実現れなかったわけだし、信じられないと言うのも仕方ない話だった。

 そもそもラウラを見たのは僕とフィーとアンだけで、話を信じてくれたのは、あの頃元気のなかった大伯父。領民たちは最初皆首を傾げるだけだった。


「王女さま飛べるの?」

「え?」


 おっといきなりNGワードでた。でも僕もずっと彼女の特徴である白い翼の話はし続けていたから仕方ない。

 ラウラの様子を見れば、少しだけ哀しそうに目を細めながら頷いていた。


「ええ。でも今は飛べないの」

「えーなんでー」

「本当はいつでも飛べるらしいの。でも今は無理なの」


 その言葉の真意を探す。彼女は飛べない。それは聞かされたことだ。原因までは教えてもらえなかったけど、まさかラウラの認識がいつでも飛べるとは思わなかった。なにせ八年も彼女は飛んでいない。飛びたいと震える声で願った姿から、飛ぶことは容易でないと思っていたのに。


「どうしたら飛べるの?」

「そうね……ダーレと一緒に考えるわ」


 その言葉はいたく衝撃だった。ガツンと頭を叩かれた感じ。

 彼女が僕の言葉を覚えていて、信じてくれているともとれる言葉だった。

 お世辞でも嬉しい。少しでもラウラが僕の事を信頼してくれてるなら本望だ。


「ふーん? じゃあ飛ぶとき見せてね?」

「ええもちろん」


 嬉しさにかまけてる中、ラウラに少しばかり違和感を抱いた。小国ドゥファーツにいた時、彼女はこと翼について敏感でこの話題には沈んだ瞳を呈していた。

 今その話題を直球で受けているのに、そこに余裕が見える。肯定とおぼしき光が瞳にうつっていた。


「領主様」

「あ、ああ」

「ちょうどよかった。先日許可もらった件で」

「ああ、どうかした?」


 ラウラに少し待っててと短く伝え、ごたついていた契約の件を確認する。ここに戻ると次から次へと仕事くるからなあ。いなくてもできるようなシステムにはしてるけど。

 なにせほとんどをラウラ探しに費やして領地をあけることが多かったから、早いうちに僕がいなくても問題ないようにしてた。

 確認の末、これからのことを軽く決め、細かくは後でと約束を取り付けて元に戻れば、そこに愛しのラウラの姿はなかった。


「あれ、ラウラ?」

「王女様なら子供達に連れられて……」

「はあ?!」


 ちょっと目を離した隙に一人でどこかに行く?さっきまで身体強張らせてたくせに?もう本当目離せない。

 しかも先に見つかったのは子供達だ。どうやらさっきまで一緒にいたのに、ラウラがどこかにいったらしい。子供より子供らしいことしてどうするのさ。

 焦って周囲を探す中、やっと視界に求めた姿がうつった。


「いた、ラウラ」


 姿を認め、駆け寄ると誰かと一緒で話しているのが見えた。特段嫌がる素振りもないけど、愛想笑いをしてるだけ。


「ん?」


 良く見えないけど領民ではない男がラウラに親しげに話しかけている。

 気に入らない。全く気に入らなかった。

 その手がラウラの髪に触れようとして思わずそれを止めた。いや無理でしょ。


「彼女に触らないでくれるかな?」

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