15話前編 領地到着(D)
「ここが……」
領地境まで着いたら、そこからラウラと歩くことにした。フィーとアンに馬車で先に進んでもらって、ラウラの荷物を屋敷の用意した部屋に入れてもらう事にした。
馬車が通れば、僕が帰ったことがすぐに知れるだろう。
「ドゥファーツとは全然違うわね」
「そうだね」
「当たり前のことなのに」
ラウラがうっとりした瞳で領地を眺めているのを見て、ここが良き領地でよかったと思えた。元々気に入って大伯父にお願いして引き継いだけど、それ以上に幸せがプラスされる。
ラウラはその瞳のまま、僕を見上げて微笑んだ。
「とても良い地ね」
「ありがとう」
「ここにいる子達が楽しそう」
精霊のことだろうか。僕とラウラしかいないから、恐らくそうだとは思う。
最初こそ精霊と意思疎通が出来る事を知られて怯えていた彼女だったけど、最近では全く気にしなくなってくれた。内緒話もしかり、精霊に対するラウラの表情が見た事ないものばかりで羨ましい限りなんだけど。
「ラウラ、手」
「?」
「手繋いで」
「え!」
別に暗くないから、となんとか回避しようとするラウラの手をとって歩き出す。前と同じ。今日はお酒の力なくても手を払われない。
始めての地だから、ラウラも心細いのかもしれない。これはチャンスだからつけこもう。
「ダーレ、その」
「道は整えてはいるけど、まだ完全じゃないんだ」
転んだら危ないし、なによりラウラの姉から言い付けられてる安全のためというと、彼女は頬を赤くしながら過保護だと訴えた。
「過保護でかまわないさ」
「そんな…」
「連れてきた僕の顔を立ててよ」
ぐぐっと言葉を抑えるラウラ。女王の言葉と僕の責任を考えて受け入れたようだった。ラウラは基本身内に弱いから殊更気にしているだろう。
あの時、過剰なスキンシップから逃れる為の苦し紛れの言葉とはいえ、ラウラが僕の領地を気にかけてくれた事は好機だと思った。
だから、言った途端に泣きそうな顔になったのを無視して領地訪問を決行した。幸い、女王はそういうとこに寛容で助かったとこもある。そう、女王はあの時本当あっさり快諾した。
* * *
「構いません」
「姉様!」
「期間は」
「エルドラード辺境伯に一任します」
ただし王女が謂れのない事態に及んだ時は強制的に国へ戻します、と安全を確保しろということを安易に伝えてくる。
女王の心配は当然のことだ。少数民族は基本自身の国から出ない。それは長い歴史が紡いで作り上げた偏見と迫害が現存しているからだ。いまだこの小国の人々の生きる権利を無視して奪いに来る無法者がいるのだから説明するまでもない。
どちらにしろラウラは僕が守るし、大伯父から引き継いだ領地の治安はかなりいい。領地直轄の大国ユーバーリーファルング現王だって認めてくれるレベルなのだから、そこは胸を張れる。
* * *
「さすがに単身で行かせてはくれなかったけど」
「ダーレ?」
「ううん、なんでもないよ」
侍女を一人連れてきた。あの側付じゃなかったから本当よかったよ、側付だったらなにがなんでも変えてもらったけど。
侍女はラウラの専属で何回か顔を見たことがあったけど、話したこともなかったかな。これを機にラウラのことを教えてもらうのはありだ。侍女しか知らないラウラのこととか最高すぎるし。
「領主様」
少し進めばすぐに領民達が見えてくる。繋いだラウラの手が強張るのを感じて少し力を入れて握り返した。
15話後編は本日夜更新します。




