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14話 領地に来る?(L)

 すぐに現実に引き戻される。私ったら何を言っているのかしら。ダーレだって珍しく驚いてるみたいだから、完全に言葉を間違えた。

 別にお酒のせいじゃない。ここの女の子たちが気軽にダーレに話しながら触れてるのを見て、そのぐらい普通なのかと思っただけで。ああでも抱きしめてる子なんていなかったから、やっぱり私の発言は間違いだわ。


「ごめんなさい。やっぱりやめ」

「いいよ」

「え?」

「はい」


 と言って両腕を広げて、私に向き合う。月明かりの下だといまいち表情が見えなくて、どんな顔をしてるかわからない。声音はいつもと違ってどことなく平坦で、今一つ許されてる感じがしないのだけど。


「あの」

「ラウラ早く」

「やっぱり」

「腕。ずっとこのままはきついし」


 やめましょうという言葉を言わせてくれない。もう引かせてくれないとこまできてしまったということ?自分から言ってしまった手前、強くも出れない。私ったらどうかしてるわ。


「ラウラ」


 黙っていたら早くと言わんばかりに名を呼ばれた。こうなれば自棄よ。あの子たちが出来るんだもの、私だって出来ておかしくはないはず。


「……」


 ゆっくり近づいて、戸惑いながらも腕を彼の背中に回すと届かなかった。いつも抱きしめられるだけで気づかなかったけど、ダーレの背中、こんなに広いの。


「……うわ」


 ダーレの囁きは消え入りそうだった。でもきちんと私の耳に届いてしまった。

 心臓の音がやけに耳に響いて離れないのに、温かさは仕様もないぐらい心地いい。どうしたらいいかわからなくて、回した腕に力をいれたら、逆に強い力で抱きしめられた。


「ダ、ダーレ!」

「我慢するとか、無理」

「ダーレ!」


 しばらく離してもらえず、ダーレが満足して私を離した時には、私はぐったりしすぎて意識もだいぶ朦朧としていた。

 やっぱり彼は心臓に良くない。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「ラウラ? ここにいるの?」

「……」


 今日はなんとか先回りしてお手伝いをこなした。ダーレと一緒に回らない為だ。

 彼が来そうなものなら、中途半端で申し訳ないけど、早くに切り上げて場を後にして、なんとか会うことなく済んでいたのに、時間の空いたここを見計らって片っ端から私の好きな場所を当ててくる。

 今、私はお気に入りの場所から少し離れた木々の合間の死角で息を殺してダーレがいなくなるのを待っている。


「ラウラどこ?」

「……」


 昨日、自分から彼に触れてしまった。

 抱きしめてしまった。

 今になってなんてことをしてしまったのだろうと恥ずかしくてダーレと面と向かうなんて出来なかった。ダーレと気軽に話して気軽に触れていた子たちと自分を比べるんじゃなかったわ。


「ラウラ?」

「……」


 せめて今日を超えれば、いつも通りでいられるはず。

 お願いだからここを去って行ってと必死に祈ってみたけど、それは徒労に終わった。


「いた」

「ひっ!」


 背後、草木をかき分けたダーレが少し機嫌を悪くした様子で私を見下ろしていた。


「避けるって何?」

「え、あ」


 離れようと腰を上げ立ち上がろうとすると、後ろから抱えられてそのまま、また座り込んできた。私は丁度彼の膝の上に乗る形で同じようにしゃがむことになる。

 昨日の今日でこれは過剰。やめてほしくてもがくとダーレは私の首筋に顔を埋めてきた。

 くすぐったさと恥ずかしさが入り混じってどうにかなってしまいそう。


「ちょ、何を」

「あーもう本当、ラウラが僕だけだったらいいのに」

「え?」


 言って、より首筋に埋もれてくる。息がかかるとこそばゆくて震えた。

 いったい彼は何のことを言っているの。


「僕だけのものになればなって」

「……私は物じゃないわ」

「そういう意味じゃなくて」

「どういう意味よ」


 それ言わせる?と呆れた声が響く。

 その先を聞いてはいけない気がして、急に頭の回転を全稼働してどうにか切り抜ける術を考えた。自分から言っておいて何をとダーレは思うかもしれないけど、そう、今は聴くべきじゃない。

 うずもれていた首筋に温かく柔らかい感触が這っていく。それが離れ、溜息が直にかかったのを感じ、彼が話してしまう事に一気に焦りが募った。


「あのさ」

「ダーレ!」

「何?」

「ダ、ダーレの領地ってどんなところ?」

「え?」

「その、気になって」


 話題を変えるのが急だったかしら。

 だってこれはあまりに恥ずかしすぎる。触れ合いが過剰すぎて、もうどうにかなりそうなのに、それ以上があったらたまらない。


「なら、来る?」

「え?」

「領地に」

「そんな急に?!」

「まあ遊びに行く感じで?」


 なんてことないといった様子で言うけれど、それは本当に気軽にできる事なの?

 いやそこよりも私がこの国を出るということ自体が大丈夫なのか、そこからだった。私はあの日以来、この国からむやみやたらに出るのをよそうと思っていた。

 いくら話題を逸らそうと苦肉の策で出た言葉とはいえ、私はなんてことを言ってしまったのだろう。これでは父様にも母様にも顔向けできない。ダーレを見れば、彼は真っ直ぐ私を見つめていた。その中に探るような視線を感じて目を逸らすと、静かに、それでいて軽い調子でとんでもないことを言ってきた。


「うん、行こうか」

「え、私返事してな、」

「早速王陛下に御了承頂こう」

「ま、待ってダーレ!」


 さっさと城へ進もうとしている。

 急いで追いかけようにもダーレの足取りはとても軽くて速かった。


「ダーレ!」

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