13話 抱きしめて、みても、いい?(D)
「あ、うそ」
「え?」
今すごく柔らかい何かが奪っていった。これはもしかすると、もしかするわけ?
「ご、ごめんなさい」
声音からだいぶ焦っているのが分かった。同時、今すぐ離れようと腰を支える腕に手を置いて力が入る。
「待ってラウラ」
「だ、大丈夫だから!」
「ラウラ動かないで。危ない」
すぐに離れようとするラウラを大人しくさせてゆっくり体勢を整えた。中途半端に屈んでいた状態から、ゆっくり元通りになる時に、月明かりに僅かに照らされた耳が赤くなっているのに気づく。
やっぱりこういうのはまだまだ慣れないか。先の酒飲みで、年頃の女の子たちが僕と話す時に腕に触れたりしてたから、この国での礼節や慣習で婚前の男女が触れ合わないことを教えているわけではないとわかった。あくまでラウラだから、ラウラだけが触れ合うのが苦手のよう。
となると、やっぱり時間がかかるかるだろう。毎日ハグするのきちんとやっとこ。
「よし。いいよ」
「あ、ありがとう…」
当然気まずいラウラは視線を下にしたまま、少しばかりもぞもぞした後、急に僕から離れようとした。
「わ、私先に」
「行くとこ同じだよ?」
僕もラウラも城へ行くことには変わりない。遠回りも近道もないし。
そんな僕の応えにラウラは明らかに狼狽した。小動物みたいに震えている。
「あ、私片付けの手伝いを」
「いいって言われたし、もう粗方終わってたよね」
「寄るところが」
「こんな夜更けの訪問は相手にも悪いでしょ」
恥ずかしさとはいえ、ここまで避けようとすると、さすがに僕でもしょんぼりする。けど、恥ずかしいと思えるとこまで意識してもらえてる。それは今までの成果かな。
そもそもいくら国の中とはいえ、一人で夜道歩かせるわけないし。先日の羽狩りもしかり、ラウラ狙いの男共しかりだ。あの近衛兵あたりは特に怪しい。
「もう夜遅いし、城まで送らせて」
「で、でも」
ラウラの手を掴んだら、大きく肩を鳴らした。見て見ぬ振りしてそのまま進めば、ラウラははくはく口を開けて閉じてを繰り返した後、手は繋いだまま黙ってついてきた。うん、可愛い。というか手繋ぐのもってやつか。ハグを先行させていたのまずかったかな。
「さっきみたいに転んだら危ない」
「そう、ね……」
言い訳も運良く通って、ラウラの小さな手を交わしながら、一緒にいられる幸運に感謝した。どちらにしても転ばれても僕が嫌だし、本当あと少しの距離なんだけど、それだけでも丁度良かった。たぶん抱きかかえるのは今のラウラでは難しいだろうから、これが限界でもあるだろう。
「あの、さっきの」
「ん?」
「わ、忘れてくれる? わざとではないのよ」
こちらを見ずに俯いて小さく話すラウラが可愛いくて抱きしめたくなったけど、そこはこらえた。今のラウラを抱きしめたら、触れ合い過多でどこかに逃げちゃいそうだし。一度に複数の触れ合い同時進行は様子を見ながらが基本。
にしても顎に唇触れただけで忘れてくれレベル?僕にとってはラッキーどころか幸せすぎて山の向こうに叫んでもいいことなのに。
「んー…………無理」
「え?!」
「ラウラと一緒にいた時のことは余すことなく覚えていたい」
「え……」
いけない、少し引かれた?いや、これはギリギリ戸惑っただけか。
事実だしな。不可抗力でもラウラからキスされたとか最高なんだけど。それに同じ事が他の連中で起きたとしても嫌だと思う人間いないんじゃない?まあそんなこと、考えたくもないし、させないけど。
「嫌ではなかったの?」
「まさか」
むしろ役得。本当役得。これは傍にいる事を当たり前にして、やっと隣を歩けるようになった僕の努力への褒美か何かに違いない。
それにしても、そこまで嫌がられるの前提ってなんなのさ。
「というか、僕がラウラを好きなの分かってる?」
僕の言葉にラウラは素っ頓狂な声を出して驚いた。求婚までして、その為にこの国に滞在しているのに、ラウラってば忘れてるわけ。あれだけ婚約破棄だとか言ってたのに。あ、でも破棄は忘れてほしいから、このままでいいか。
「ええ……わかってる、つもりだけど」
「好きな子と一緒にいられて嬉しくないなんて有り得ないから」
「そう……」
「だからさっきみたいになかったことにされるのは嫌だ」
「そう……」
本当はこれを機にラウラが僕のこと好きになって、一気に告白というか結婚を正式に受けてくれるぐらいでもいいんだけど、その要素がどこにもないから諦める。あの二人に散々念を押されてるし、程よくを考えよう……自制って大変。
「どんな形であれ触ってもらえるなら最高だよ」
「え?」
「あー……抱きしめられるなら最高だし、ラウラからしてくれるならむしろ最高だし?」
「そ、そうなの」
おっといけない。少し落ち着こう。ラウラが引くからドン引きになっても困る。
我慢って正直、僕に合ってないから。でも、ここでやりすぎると本当引き返せなくなるしな。
そんな悩む僕をよそにラウラってば、とんでもないこと落としてきた。
「なら」
「ん?」
「……抱きしめて、みても、いい?」
「……」
「……」
「は?!」
僕の声に驚いて野鳥が飛んでざわついた。僕の心内と同じように。




