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30話 彼と彼と




 汽車が到着して私を乗せてtime writeの住む町へと出掛けた。隣町へは一度山へ入り木々の中を汽車は抜けて行く。夏の陽射しを木々が遮り、その中で木漏れ日が色濃く模様を描く。


 そして直ぐに拓けて家屋がポツリポツリと現れると、それからは徐々に町になりコンビニやドラッグストア等が目に入り隣町の駅へと到着した。国中(くになか)町と書かれた看板の下を通り改札を抜けた。駅の前は小さな商店や不動産屋が在り、私は駅の前に左右に通る道をどっちに行こうか迷っていた。


 私の目的は勿論time writeに会いたいのだ。確率は左右の二分の一に思えるがそもそも居るのかも解らないので深く考えるのを止めてコンビニの在る方へと行った。コンビニの隣にはファミリーレストランが在り、とりあえず私はファミリーレストランで朝食を取る事にした。中へ入ると道路側の席に柄の悪い二人組と背の高いスポーツマン風の男が大きな声で話していたので、私は近付かない様に反対方向の端っこへと座った。そして呼び鈴を押すと若い男の店員がメニューを訊ねに現れた。私は少し気分が昂っているのか、若い男性を見ると『もしかしたらこの人がtime writeかも知れない。』と思ってしまいながらも『そんなはずはない。』と自分で打ち消していて苦笑いを浮かべた。


 朝食を食べ終えた私はスマートフォンを開いてtime writeのSNSを覗いた。何気ない日常の投稿に貼り付けられた写真を見てこの町の風景の中から探せば彼に近付けるのではないかと、写真の風景を探す事にした。窓の外では激しい陽射し降り注いでいるのを見て私はバッグから日焼け止めを探したが、どうやら日焼け止めを切らしていた様でとりあえずドラッグストアを探す事にした。


 スマートフォンで地図アプリを開いてドラッグストアと入力すると、地図上にドラッグストアの位置がマーキングされて出てきた。どうやらこのファミリーレストランの近くに在るみたいでそこまで歩いて行く事にして店を後にした。


 強い陽射しでは有るけれど、まだファミリーレストランで冷えた体には心地好くて私はテクテクと地図のナビに従い歩くと直ぐに辿り着いた。ドラッグストアへ辿り着くと日焼け止めを置いてあるコーナーを探した。お店の中はひんやりとしていて外の暑さを忘れさせる心地好さに、私はフーッと息を吐いた。私は化粧品コーナーへ辿り着き、日焼け止めを探してカニの様に横歩きしていると


『トンっ』


と何かにぶつかった。私は慌てて体勢を直してぶつかった方を見ると一人の若い男性が立っていたので


「すみません。すみません。ボーッしててぶつかってひま...... 。」


私は慌てて噛んでしまい顔を赤らめながら頭を下げた。男性はそんな私に


「こちらこそ集中し過ぎてて。そちらは大丈夫ですか? 」


柔らかい声でそう丁寧に謝ってきた。私が顔を上げると少し髭は伸びているが、細身で色白の爽やかな顔立ちをした男性が優しい表情でこちらを見ている。私はもう一度頭を下げてから離れた。私は日焼け止めをもう一度探し始めたが、さっきの男性が気持ちに残ったのでそっちの方をチラリと見た。聴いた事がある様な、もう一度聴きたくなる様な柔らかい声を出す彼を。


 彼は真剣な顔で髭剃りを選んでいる。まるで初めて買うかの様に色々と手に取り一生懸命に見比べている姿がおかしくて私はクスリと笑い眺めていた。彼はあまりに一生懸命でこちらから見られているのにも気付かないので、私は日焼け止めを買うともう一度売り場へと戻り彼を探した。


 案の定、彼は髭剃りをまだ選んでいた。私は彼に話し掛けようと思ったが、話し掛けたとして何を話して良いものかまでは考えていなかった。その様な状況で話し掛けたとして私はどうしたいのか? と自問自答したが答えは出なかったので私はただ彼を眺めていた。それを楽しんでいる私の不謹慎感を呑み込みながら。


 彼はずっと楽しそうに買い物を楽しんでいる。それは見ている私まで楽しくなってしまう様な喜び様で色々な商品を手に取って見比べている。代わり映えのしないお菓子やジュース、そう言った物を一つ一つ、まるで初めて世界に触れた様に儚いものを。


 きっと彼にはこのドラッグストアの中の商品は輝いて見えているのだろう。彼の目から世界がどの様に見えているのだろうか? いや、それは彼の目を見れば理解できる気がする。私達が電気の無い世界を味わったからこそかも知れないと思う。当たり前に思っていた物は長い歴史の中で積み上げて来たもので、その道程を知らなければ突如現れた奇っ怪な物である。それは眩く好奇心を祖剃るものであったり、それは禍々しいおぞましいものであったりするかもしれない。ただその事は新しく知らない知識なのだ。彼を見ているだけで私はその様な思いの中で新しい私を見付ける。


 ふと自分の異常な行動に気付いた私は我に返り、彼から目を離して棚に目を向けたが私には当たり前の光景だ。


 そうしている内に彼は買い物籠を山盛りにしてレジへと向かい買い物袋二つを両手に持ってドラッグストアを後にしていた。店外へ出ると彼はスマートフォンを取り出してイヤホンを付けて両手に買い物袋を持ち直していた。私はそんな彼に対する好奇心から自分の抑止力を押し切って彼を追い続けてしまった。


 しかし彼はヨロヨロと買い物袋を二つ持って歩いた挙げ句にすぐ近くの家へと辿り着いて家へと入って行った。そこで私の猟奇的なストーキングは終わってしまった。私はそこで目的を失いながらも、当初のtime writeの投稿写真の風景を追い掛ける事を思い出した。そこでスマートフォンを取り出してtime writeのSNSを開いて写真を確認した。


 柵が在り、遠くに海の見える景色。この風景は高台だと思い私は周囲を見渡した。ここから少し離れた位置に高台が見えてそこに続く階段が見える。私はあの高台へと登ればこの写真の風景に近付けると思い、居ても立っても居られなくなりその階段へと足が向いていた。階段は思ったよりも急傾斜で私は汗をかきながら階段を登るとそこには公園があった。私は膝に手を付いて深呼吸をすると背筋を伸ばして後ろを振り返った。そこには町とその後ろに広がる海が私を迎え入れてくれた。






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